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Dark in love  作者: あおあん


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19/30

第19話 12月27日 土曜日

 昼から日本酒を飲みながら家の大掃除をしている。テレビの年末特集は面白くなくて、ヘッドセットでユーチューブの心理カウンセラーの動画を聞き流しながら、お風呂の床を擦る。


 イブに過ごした祥太とのロマンチックなバスタイムを思い出してぶるっと震えた。良い香りが充満したバスルームには、泡がもこもこの湯舟が張ってあり、アロマキャンドルの明かりでラムレーズンのアイスクリームを食べた。祥太は紳士的に私に触る。まるで私が壊れやすいものでもあるかのようにそっと優しく、大切にされているのだと感じる。だから私は祥太とキスをする時も、体が交わる時も、自分を解放できない。祥太にも喜んでもらわなきゃとか、この反応でいいのかなとか、理性を捨てきれずに疲れる。


「はあ~」


 胸に溜まったもやもやを大きな息とともに吐き出す。一旦、シャワーで浴室を流し、改めて床にシュッシュと洗剤を吹きかけて、ブラシで擦る。


 昨日は結局、良平と寝てしまった。私は良平とのセックスが好きだ。乱暴ではないけど、野性的というか、荒々しく求められると私も火が付いたように求め返してしまう。たぶん、良平を求めているあの姿は私の『素』なんだと思う。知らなかった自分の一面に、私自身ちょっと引いてたりする。でも快楽に身を委ねる私を、良平は全身で受け止めてくれる。


 祥太と良平のセックスはまるで違う。祥太と過ごした時間が長くて、これまで自然とそれが普通だと思っていたけど……良平に気付かされてしまった。


「はあ~。正解が知りたい」


 悪い事をしているという自覚はある。道徳に反していると分かっている。だけど……生き物としての本能みたいな、欲求には抗えない。


 バイクでひとっ走りしたい衝動にかられたけど、お酒を飲んでしまっているから断念してベッドに寝転ぶ。スマホのランプが点滅しているので、メッセージを開くと祥太からだった。


『年末、帰省するの?』


 埼玉の実家には電車を乗り継いで1時間半ほどだけど、年末年始はお姉ちゃん家族が戻ってきていて、私の寝る場所がない。


『戻らないつもり』とだけ返信をして、うつらうつらと眠ってしまった。


 はっと目が覚めると外は真っ暗で、のっそりと起き上がりカーテンを閉めた。メッセージが5通も溜まっていたけど、全て祥太からだった。


『母さんが百花を連れて来いってうるさい』

『30日とかどう?』

『手ぶらでいいから。顔見せるだけ、いい?』

『俺、マラソン見に箱根に行くから、初詣は一緒に行けない』

『大丈夫?なんか怒ってる?』


 ラストのは一向に既読が付かない私に心配しているのだろうと思う。晦日に彼氏の実家……何とも言えない、重たい気分になって、帰省するって言っておけばよかったと後悔した。


『返事遅くなってごめん。30日いいよ』


 部屋の明かりをつけて冷蔵庫を開ける。

 昨日、帰宅途中に買ったサバの押し寿司を取り出した。

 これに合いそうな日本酒も用意してある。

 お皿とお猪口を出したところで、一人で食べるには多いかなと思った。一人で食べるのも寂しい気もしてくる。ふと、良平はどうしているのかなと思った。どうせネネロンとサブスクで映画でも見ているんだろうな。


 自然と体が動いて、洗面所の鏡を覗き見たら、すっぴんの割には顔色がよくて、なんならちょっと色気もあるような気がして、日本酒と押し寿司を持って行こうという気になった。


 大掃除用に着ていた汚れてもいいパーカーから、お気に入りのよそ行きのパーカーに着替える。目に付いたおつまみを手あたり次第に鞄に入れて、家を出た。


 隣のマンションというのは最高に都合がよい。誰にも会わずに行けて、かと言って生活リズムを知られるほど近すぎない。


 エレベーターの10階で降りると、真っ直ぐに8部屋のドアが並んでいる。良平の部屋は1号室で一番手前、エレベーターの目の前だ。


 チャイムに指が触れそうになった時、内側から声がした。


(ん?女性?)


 テレビの音かなと思いつつ、玄関ドアの郵便受けをそっと押す。少しかがんで耳を近付けた。これでは不審者だ……やめなくちゃと思うのに、中から良平の部屋の匂いがしてきて、ついピッタリと顔を付けてしまっていた。


 明るくくすくすと笑う女性の声がする。美波だ。


 力なく立ち上がると、突然エレベーターが開いてビクッとした。ピザの箱を持ったお兄さんが降りて来る。慌てて廊下の奥、8号室の方へ向かう。ドキドキしし過ぎて心臓がどうにかなりそうだった。


 どんつきの8号室の前で行き止まったけど、チャイムを鳴らす訳にはいかない。恐る恐る振り返ると、ピザの配達は良平達だったようだ。開いたドアでこっち側が見られなくて本当によかった。


 ずっとここに立っててもしょうがない。気付かれなかったことにほっとしながらエレベーターに向かった。タイミング悪く、ピザ配達のお兄さんと一緒にエレベーターに乗ることになってしまった。


 ああ、情けない。良平が私を快く迎え入れてくれるだろうなんて、都合が良すぎるよね。恥ずかしすぎる。一刻も早く家に帰りたい。


「あの……ストーカーですか?」

「え。違うけど」


 モデルですか?と聞きたくなるくらい整った顔をしたイケメンお兄さんがじっと私を見ていた。


「俺、見ちゃったんですけど」

「あ。違うから。誤解だから。通報とかやめてね。マジで」


 1階に着くなり、私は猛ダッシュで逃げた。




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