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Dark in love  作者: あおあん


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第17話 12月25日 木曜日

 思わず目を瞑ってしまった。まず最初に思ったのは『どう断ろう』だった。


「ごめん。急だったよな。でも、考えといてほしくて。ずっとこのままっていうのも、年齢的にどうかなって」


 祥太が私との将来について考えてくれているのを嬉しく思わないわけではない。

 だけど、祥太との同棲生活がうまく想像できない。


「うん。考えておくね。今はちょっと……仕事のことで頭がいっぱいだから……」

「いいよ。分かってる。春に家の更新があるだろ?その時までに決めるといいよ」


 祥太は『できる人』だから、私からYESを引き出す方法を心得ている。こうやって、私が決めきれないことに期限を付けて、押しつけがましくはないけど、でも着実に自分の意向に沿った回答へと私をいざなう。


「ケーキにしようか」

「うん」


 小ぶりだけど、素敵なデコレーションが施されたブッシュドノエルが出された。


「百花が甘いの好きじゃないから、調整したつもりなんだけど」

「どこから作ったの?」

「生地焼くところから」

「ひぇ」


 変な声が出てしまった。目の前にいる手作り男子の実力に舌を巻く。


「甘さ控えめのケーキを堪能したら、俺と飛び切り甘い時間を過ごすんだ」

「なにそれ、ふふ」

「笑ってられるのも今のうちだぞ。これ食ったら一緒に風呂に入る」

「え?嫌だよ」

「嫌とか言わない。クリスマスプレゼントはそれでいいから」

「あ……」


 クリスマスプレゼントなんて、さっぱり考えてなかった。手ぶらで来てしまった後ろめたさから断る気になれない。


「頼むよ。ね?」


 私の為に一生懸命、計画して準備をしてくれた祥太の姿を思い浮かべると、それくらいしてあげてもいっかという気になってくる。


「うん。分かった」


 でも……この時の私はまだ知らなかった。あのバスタイムが一生忘れられないだろうロマンチックなものになるなんて。




 コーヒーと焼けたベーコンの匂いで目が覚めた。


「百花、おはよう」


 祥太がぼーっとしている私をぎゅっと抱きしめて、ほっぺにチューをした。


「おはよう」

「顔洗って化粧して来いよ。結構いい時間だから、食べたら一緒に行こう」

「うん」


 一瞬、祥太と一緒に住んだら、こんな夢のような生活が送れるのかと思い、心がぐらついた。たまにしか来ないけど、洗面台には私専用のコップが置いてあり、祥太が普段使わないドライヤーや大きなブラシが取りやすいところに配置してある。


 祥太は私に忠誠を誓ってくれているし、甘やかしてくれる。

 こんなに素敵な彼氏に、私はいったい何を躊躇っているのだろう。


 身支度を整えてリビングに行くと、ベーグルに卵とベーコン、レタスとトマトのサラダがあった。


「すご……」

「はは。ちょっと張り切っちゃったかな。今日がクリスマス当日だからな」

「昨日からいろいろ準備してくれてありがとうね」

「少しは喜んでもらえた?」

「すごく良かったです」

「はは。なら頑張った甲斐があった」


 もちっとした私好みの食感のベーグルだった。


「これ、どこの?」

「これは、俺の手作り」

「ぎぇ」


 また変な声が出てしまった。


「気に入った?」

「うん、とっても」

「一緒に住んだら、毎日食べられるよ?」


 にやにやと笑ってこっちを見ている祥太に胸の奥がキュッとなった。

 その甘い痛みが苦みとなってもやもやと体中に広がっていく。こんなに好かれているし、私だって祥太が好きだ。だけど、ずっと一緒には居られないような気がしている。私は祥太といると無理をしてしまう。自分でも違和感を感じないくらい、ごく自然な形ではあるけど、私は祥太の要求に合わせて、ほんの少し頑張り過ぎてしまう。


「百花にも作り方教えてあげるし」


 ほら来た。


「そしたらベーグル屋を探す必要もないだろ?」


 それはそうなんだけど。


「自分の好きな味付けだってできるし。簡単だよ?」


 教えてほしいとか、自分でやりたいとか、思ってない。

 私はそんな事、お願いしてないし、望んでないんだけど。


「うん……ありがとう」


 急に気が重くなった。その理由をこれから行く仕事のせいにすり替えた。

 残しちゃ悪いから、頑張って食べきって、祥太と出勤する。

 ここからと私の家からと、通勤時間そのものは変わらないけど、電車の込み具合が違う。


「大丈夫?百花」


 慣れないぎゅうぎゅうの満員電車に潰されながら祥太に身を委ねる。

 脱力して身体を全体の動きに合わせている方が、踏ん張るよりもよっぽど楽だ。


「一緒に住むなら、百花んちの方面で家を探そうか」

「え……」

「二人分の家賃合わせれば、いい家借りられそうだし」

「まだ、一緒に住むって決めてない……」

「分かってるよ。でも、いい返事待ってるから」


 断り辛い状況に、またしても追い詰められる。祥太には悪気はないし、全部、彼の本心だと思う。そういうところが『たちが悪い』のだ。


 会社の最寄り駅は同じだ。改札を出てから反対方面の出口に別れる。


「じゃ、今日も頑張ってな」

「ありがとう。祥太も仕事がんばって」

「おう」


 祥太に突きつけられた同棲の返事、これから会社での業務、どっちも私の頭をごちゃごちゃにさせてくる。自分の靴を睨みつけながら、とぼとぼと歩く。


「おい、猫背になってるぞ」


 良平が話しかけてきた。


「おはよ」

「おはよ」

「メリクリ」

「メリクリ」


 もうひとつ、私の頭を最大限に混乱させてくる要因……。


「百花、今日どうした?」

「え?なんか変?」


 服装を確認するけど、異常はないよね……?


「暗い」

「へ?」

「なんか、すげえ負のオーラが漂ってるって言うか……もしかして、祥太と別れた?」

「いや」


 良平は『なんだ』と言いながら笑った。




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