第15話 12月23日 火曜日
私は祥太と付き合っているのであって……良平と浮気をしているのであって……だからこういう裏切りには当然、罰が当たるよね。起き抜けに見たメッセージに動揺して、スマホを落っことし画面が割れた。
『良平君と付き合うことになった♡』と美波のいつものスタンプがくっ付いていた。
『よかったね』はそっけないかな。『驚いた、いつから?』なんて別に聞きたくないし。『お幸せに~』は変だよね。友達のふりして浮気してんだもん。白々しい返信を美波に送るなんて、本当はしたくない。
良平ってばどうなってんの?
ぼうっとしたまま家を出た。
今年のクリスマスイブは水曜日。暦の都合で、仕事納めは26日の金曜日だ。だけど最終日は半日業務で、それもオフィスの大掃除をするだけの日だから仕事にならない。つまり実質の稼働日は今日・明日・明後日の3日間しかないのだ。
いつもより1本早い電車に乗って出社した。既に仕事を始めている良平に声を掛ける。
「おはよ」
「おはよ」
『美波から聞いたよ』と私から言うべきか、良平が話してくれるのを待つべきか……モヤモヤしながら自席について、仕事を始める。ありがたいことに、良平の事を考える隙が無いくらい、やることが山のようにある。
日本のお客さんは、年明け早々の納品を希望されることが多い。それを適えるためには、年内に商品を輸入しておく必要がある。クリスマスで物量が増えているのと、休暇の社員が多いせいで、荷送や通関にはいつも以上に時間がかかる。
夢中になって書類と格闘していたら昼休みになっていた。
「なんか食い行かねえの?」
良平に声を掛けられてハッと我に返る。
「もうそんな時間か」
「はは。百花、やばい顔してる」
放心状態の私の手を取り、良平が立ち上がらせてくれた。
「トンカツ食い行こうぜ。おごるから」
頭の中を占領していた『納品スケジュール』がほろほろと崩れ、考えないようにしていた良平と美波の関係に意識が向いてしまう。
「混んでるかな。時間ちょっとずれてるから平気だよな?」
「うん」
良平は私が知ってること、知ってるのかな。
店先にずらっと並んでいる列に並ぶ。スマホを見ると、祥太からメッセージが来ていた。
「あ。割れてんじゃん」
「うん。今朝、やっちゃった」
右下にできた一本の亀裂を無視して、メッセージをタップする。
『明日は仕事終わったら、俺んちに直行ね』サンタやらツリーのスタンプが、ぞろぞろと続いている。
「愛されてんなあ」
「ちょっと、見ないでよ」
良平に覗かれないようにスマホの角度を変えて、返信を送る。
『OK!楽しみにしてる』
そう言えば美波に返信してなかったと、一瞬焦ったけど、今ここで気の利いた返信が思い付くはずもなくスマホをオフった。
「俺はロースカツ定食」
「私はヒレカツおろしポン酢ください」
ようやく入れた店内は意外と広かった。
「初めて来た」
「お前、酒ばっか飲んでるからな。昼飯適当過ぎだし」
「まあね」
それより言うことあるでしょ?美波のことを私に言う為に誘ったんじゃないの?
「仕事終わりそうなの?年内の稼働日、もう少ないけど」
「なんとかなるでしょ」
「明日はお家デートだもんな。そりゃ頑張れるよな」
そっちは美波と過ごせるの?書き入れ時のレストランじゃ、会うことすら難しいんじゃないの?
トンカツとキャベツを頬張りながら考える。どうして思ってることを聞けないんだろう。どうして良平は美波の話をしないんだろう。ずっとモヤモヤしたまま食事を終えて仕事に戻った。
「明日が本番なのは分かるけどさ」
またしても良平に声を掛けられて、ハッと我に返る。
「イブイブは一人で過ごすの?」
「まあね」
「ネネロンに会いに来る?」
「今日は行かない。まだ仕事残ってる」
「そっか。頑張ってな。お先に」
そう言って良平は席を立った。時計を見たら21時近かった。知らぬ間に夜になっていた……意識すると急に空腹を感じて、私も目の前の書類だけやったら帰ることにした。
「イブイブねぇ……」
良平は一体どんなつもりで私を誘ったのだろう。ネネロンと言えば、私が付いて行くって思われたのかな。美波と付き合ってるなら、私を家に呼んじゃいけないでしょ。ってか、そもそも友達の彼女とやっちゃいけないでしょ。
良平だけのせいにするつもりはない。もちろん合意の上だったし、しかも2回だし……
やっぱりもっと仕事していこう。明日は残業できないし、今日は帰ってもいろいろ気になって眠れそうにないもん。
私はいざという時の為にデスクに忍ばせていたチョコレートバーを取り出して、コーヒーを入れに行った。




