第11話 12月14日 日曜日
『2時に駅前で待ってる』そう祥太から連絡をもらっていて、15分前に着いた。今日は悩みに悩んで、祥太の彼女として好感度が高いと思われる格好をしてきた。グレーのニットワンピの上にモスグリーンのダッフルコートを羽織り、ペタンこのアンクルブーツだ。
「あ、わりぃ。早いね」
祥太はブルージーンズに白いダウンジャケット姿だった。
「今、着いたとこ」
「ここから5分くらいのとこの店だから、ちょっと早いかもだけど向かうか」
「うん」
今日の忘年会のメンバーは、祥太のマラソンサークルのメンバーとそのパートナー(いれば)と聞いている。似たような構成で、春にBBQをやったので、知っている人が多いはずだ。
「手ぶらでいいのかな?」
「ああ。会費制だから問題なし」
きっと今朝も走ってきたんだろうな。微かにシャンプーの香りが漂った気がした。
「あれー!みんな、早いっすね」
小さな居酒屋を貸し切っているようだった。10名ほど先着していて、半分ほどの席が埋まっていた。
「山本さーん、俺と百花どこ座ればいいっすか?」
「あー席は決まってないから適当でいいよ。並んで座んなくてもいいし」
今、いる人たちの顔を見ても、ほとんど覚えてなくて若干焦る。
「祥太、隣がいいな」
「おう。じゃ、ここでいっか」
4人掛けのテーブルに既に男性が二人陣取っていたところへ加えていただいた。
「おー、祥太の彼女さんか。こんにちは佐藤です」
「初めまして、如月です」
「ははは。春に会ってるんだけど、忘れられちゃったかな」
「え、あ、すみません」
しまった。やっぱり会った人の顔、すっかり忘れているみたい。
「僕は初めましてです。佐々木です」
「え、あ、よろしくお願いします」
「百花、緊張し過ぎだって。早く酒入れたいよな」
「う、うん」
なんか気まずいし、祥太の言う通り、気分をほぐすためにビールが必要だ。
「じゃ、始めちゃうか!」
山本さんの合図で、各席にコース料理が運ばれ、各自好きな飲み物を注文した。
「今日は飲み放題だって。生ビールがあってよかったな」
「うん」
まったくだ。心置きなく飲める。
「「「「かんぱーい」」」」
山本さんの乾杯の音頭でグラスを掲げ、各テーブルごとにグラスを合わせる。
佐藤さんも佐々木さんもお酒が好きみたいで、生ビールのジョッキを掲げて乾杯をした。
「祥太から、百花ちゃんの話聞いてるよ」
「え……どんな風に……」
「趣味に理解のある、良い彼女だって言ってたな?」
「ちょっと佐藤さん、本人の前で止めてくださいよ」
祥太はダウンの下はチームお揃いのパーカーを着ていたけど、腕を捲って、手で顔を扇いでいる。暑いのかな?
「佐々木の彼女がさ、ほら、あっちの席に座ってる、髪の長い子、今日はあんな笑顔だけど、週末走りに行こうとすると角が生えてくるんだよな」
「え、まあ、俺も悪いんで」
ああ、彼女に趣味と自分どちらか選べと言われてるっていうのは佐々木さんなのね。
「どこがいけないんですかね?走るのが趣味って、別に悪いことじゃないですよね?」
「そうだよな?祥太の言う通りだよ。な?百花ちゃん」
「え。私は別に……」
佐々木さんの彼女を盗み見る。きっと、一人で楽しむ趣味を持っていないのかもしれないな、なんて余計な事を想像してしまう。
「百花ちゃんは趣味は?」
「え、あ、私は……」
「こいつバイク乗るんですよ。アメリカンの結構大きいの、な?」
「はい」
「「へー」」
ポカンと口を開けてこちらを見ている二人が、なんだか可愛らしかった。
「危なくないの?」
「全然危なくないですよ。快適です」
「じゃ、今度、皆で箱根とか行く?百花ちゃんは現地集合、なんつって」
「ふふふ。楽しそうですね」
お酒が進み、会話が弾み、緊張が解けてきた。
「でも、百花ももう少し運動した方がいいよな」
「なんで?私、あんまり体動かすの好きじゃないもん」
「でも一緒に走れば楽しいよな?佐々木だって最初は嫌々だったもんな?」
「嫌々って訳じゃないですけど、まあ、ちょっとだるいとは思ってました」
「言ったな!」
祥太と佐々木さんがじゃれていて、他のテーブルより盛り上がっていたように思う。
「前から言おうと思ってたんだけどさ、百花も一緒に走らないか?」
「だから、私は……」
「バイクなんか売っちゃってさ、ランニングシューズ買えよ。俺が選んでやるから」
ほわほわと緩んでいた頭が、一瞬にしてキンと冴えた。
「今、なんて言ったの?」
「だから、百花も一緒に走ろうぜ」
「そうだよ。百花ちゃん、大歓迎だよ。一緒にはし……」
「祥太、私にバイク手放せって言ったの?」
佐藤さんの言葉を遮り、私の声色が変わったせいもあると思う。佐藤さんと佐々木さんの顔が強張り、私と祥太を交互に見ている。
「百花は平気って言うけどさ、やっぱり二輪は危険だよ。事故ったりしたら大変だろ?」
「事故ったりしないし。万が一、事故っても自己責任だし」
「そうは言うけど、心配はするだろ?」
あなたの心配を解消するために、私の行動を制限してくるの?人の趣味に口出ししてくるの?場の雰囲気を壊したいわけではない。祥太も酔っていて、自分が何言ってるかよく分かってないんだ、きっと。
「そっか。心配してくれてありがとう」
私は精一杯穏やかに、さっきまでと何も変わっていませんよという風に笑顔を作った。




