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53/終章:《信者》だけが知っている

「ねぇ、そろそろわたしに囁くのは止めて」


 虚無の底。


 夢幻の(はて)


 無限の瞳。


 夢はいつも決まって黒い深淵の中だった。


 そこに姿形は見えないけれど、いつも視線を感じる。


 眠りに落ち、夢を彷徨うルリリルに、こうして囁き掛けるのは《極光(エンデ)》であった。


 夢の中ではルリリル自身にも実体は無く――ただ声だけがルリリルの耳に届く。


『どうして、キミは求めない?』


 そんなもの最初から拒絶したはずだ。


 これまでだって、ずっと、ずっと与えられてきたものは要らないものばかりだった。


 苦しみ、悲しみ、どれだけ拒んでも無理やりに押し付けられてきた。求めるものは遠く、決して手に入らない。


「耳が良いだけで《極光(あなた)》に声を掛けられるなんてね……」


 最弱であろう名もすら無いただ他者より聴覚が良いだけの《奇跡》で、まさか星の始まりに現われた魔物がルリリルにここまで固執して話かけてくるとは思わなかった。


 もちろんルリリルの《極光(エンデ)》に応えることは決してなかった。答えはもう最初から出ているのだから。


「わたしが応えたいのはあのひとだけ――だから、何度も夢に出てこないで」


 決して揺るがない拒絶を前に《極光(エンデ)》は黙った。


『《聖女》は今も増えている――そして《一桁位》を超える《奇跡》を持つ者がもう間もなく生まれる頃だろう』

「そう、だったら勝手に滅んでてよ……」


 この世界の行末に興味など微塵もなかった。


 あのひとがいない世界なら、別に《極光(エンデ)》に滅ぼされたところで悔いも無い。


 そしていつか《極光(エンデ)》を滅ぼす《聖女》が現れたところで平和になった世界にあのひとがいないなら意味もない。


「理由も無く知らない誰かに生み出されて、わたしたちが生まれる前に滅ぼそうなんておかしな話」

『神に言ってくれ』

「はた迷惑よ。今度出逢ったら引っぱたかせて」

『それはありがたい』


 ルリリル(わたし)は何を言っているのだろう――と、夢の中で自嘲する。


 《奇跡》を与える《女神》とやらも結局は誰の前にも現すことなく今日も誰かに一方的に渡している。


 この世界が、神とやらに気まぐれで好き勝手にしているなら――いつか一発殴っても罰は当たらないのではないだろうか、なんて。


 どうせ、わたしには関係のない話だ。


 世界のことなど、ルリリルにとっては関わることはない。力のある者だけでなんとかしてくれ、と――


「あれ?」


 そして気付けば《極光(エンデ)》の声は聞こえなくなった。


「求めない……ねぇ――」


 ずっと《極光(エンデ)》は疑問で仕方がなかった。


 だから自らに応えるよりも、その答えが欲しかった。


 幾度と無く囁き掛けても、ルリリルは一度として揺らぐことすらなかった。


 力が無いのならば、求めるはずだ。


 辛く、悲しいのなら、悔しく、恨み、憎むのならば――必ず生きる者は堕ちるはずだ。


 しかし、ルリリルは拒み続けた。


 きっと、あのひとにめぐり逢わなければいつかルリリルもその声に耳を傾けていたのかもしれない。


 しかしそんなことは無かった。初めて囁かれた時ですら、瞬間で遠ざけた。


「わたしが、求めてるものは――」


 知っている。


 信者(ルリリル)だけが知っている。


 だから、今日もこうして生きていられる。


 だってあの日、あの場所で、声を掛けてくれたから――

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