46/??:《聖女》クロウディア・アルカナ・ルンセント
――《奇跡》は女神が与えてくれるらしい。
突然、そんな力を与えて《堕天》という怪物と戦えと押し付けられる。
でもおかしいじゃないか。女神だなんて――誰も、その姿を見たことがないのに。
本当にそんな神様がいるなら、代わりに世界を救ってくれよ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
クロウディア・アルカナ・ルンセントが《奇跡》を発現したのは十歳の頃だった。
手にした《奇跡》は自身の願う効力を付与した《薬》を精製するまさに奇跡の如き力だった。
不治の病であった父を治し、ついには死んでいなければ傷を癒し、病を治せるクロウディアは全ての人類から《第四位》の《聖女》として崇拝されていた。
――ボクは選ばれた人間なんだ。
そう、それは本当だ。
素顔も知らぬ女神とやらに与えられたこの祝福は、人類を救える最高位の《奇跡》である。だからこそ《一桁位》として敬われていた。
――ボクの《奇跡》がいちばんなんだ。
クロウディアはそう信じて止まなかった。
千切れた部位すら生やし、どんな難病であろうとも治してみせる。どんな《堕天》であろうが毒殺できる。挙句には他者を操れる。全知全能だと、そう思っていた。
《第六位》に出会うまでは。
まだ《一桁委》と呼ばれ、たった六人しか世界に存在していなかった《聖女》――その六番目であるイズク・フォーリンゲインの存在が、クロウディアにとっては疎ましかった。
《聖女》と呼ばれ、ただの人間と変わらない。
ただ死なないだけの人間――それを《聖女》と呼ぶ意味がクロウディアにはわからなかった。
どうしてこんな役立たずがボクと同じ《聖女》と呼ばれている?
「ねぇ、なんでキミはさ、ボクたちと同じところにいるわけ?」
だから訊いたことがある。
他のものが《奇跡》を振るって人類を救済しているのに《第六位》だけはそこに立っているだけで、身を呈して意味も無く死ぬような傷を負って、けれどそれを無かったことにして生きているだけだった。
「……ごめんなさい」
イズクはただ頭を下げるだけだった。
謝ってばかりだった。
他の《聖女》と違い、盾になるだけの存在。
クロウディアのように誰かを救えるような力は無く、致命傷を受けても生きているだけ。自分の無力さを理解しているのかイズクはいつも謝っていた。
それでも、
「家族が、いるの……私は平民だから――何かあっても他の誰かに私の家族を守ってもらえるように」
イズク・フォーリンゲインは貴族の生まれではなく、ただの田舎の町の小娘でしかなかった。クロウディアたちのように他の《聖女》たちは決まって大層な家系の者であった。
「ふぅん、だったら……守ってもらえるようにもっと役に立ってよ」
それからだろう。イズクは率先して、感情をどこかに置き去りにして怯えることなく更に前へ飛び出すようになったことは。
気に入らない。
ついにはどうでもいい亜人まで助けようとしだした。
人類を救うための《聖女》だ。
《奇跡》を持たない劣等を救う余裕などない。
そんなある日のことだ。
どこかで町が滅んだ日。
《聖女》を非難する人類たちが現れた。
こちらはいつ死ぬかわからない綱渡りを永遠とやらされているというのに、そんなことも理解しようとせず、《聖女》を批判する者たち。
救う意味が、あるか?
「救うのはボクを崇めるヤツだけでいいでしょ?」
そこからだろうか。
クロウディアが、心の奥底で――人類を救う意味などないと、そう感じたのは。
それから黒い感情が芽生えたときには《第四位》は人類を救済するという意味を変換させた。
《薬》を使い操る――自分の意のままにする。
《薬》を使い操る――自分の願いを叶える為。
《薬》を使い操る――自分の世界を創造する。
《第四位》は《聖女》ではなく、《魔女》となった。
声が、聞こえている――月の傍らに、ある瞳だけの――この星に存在する最初で最後の魔物。
その声は、《第四位》を――――




