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《第六位》だけが知っている 〜《一桁位》の《聖女》たちに裏切られた私は死ねない《奇跡》と腐敗の竜の力で復讐します。※あと信者の子たちと仲良く生きるんで邪魔しないで〜  作者: 待雪 妥当
第五章/《第六位》だけが知っている

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38/御伽:《七虹》(2)

 北の最果て――今でも、憶えている。


 《第六位》の終わりと、始まり場所。


 突如として現れた《堕天》は腐り落ちた竜の死骸の姿をしており、竜でありながら羽根は千切れ、空を飛ばず、ただゆっくりと亀のように真っ直ぐに進んでいると。


 だがその身から発する瘴気は、触れる万物全てを忽ち腐敗し動き続けるだけで世界が終わってしまう。


 それを止めるため……まだ動き出したばかりの腐れた竜は《エルディメ山》にある渓谷にいると知り《一桁位》は向かったのだ。


 イズクは知らなかった。


 その竜は元より氷の中に封印されていた。


 だが何者かがその封印を解き、腐れた竜と世に放ったと。そしてそれをしたのが《第六位》だと――イズクは知らぬ間に世界を終わらせようとした《魔女》に仕立て上げられていたのだ。


 《聖女》たちの活躍にとって竜は沈黙した。


 だがその死骸から溢れ出る瘴気は留まることなく、このままでは《堕天》ではなくこの呪いで全てが終わってしまう。


 その瘴気を塞き止めるために、イズクは《蓋》とされ世界を救済するために()()()()()()


 瘴気はイズクを喰らうように包み、腐り、溶けて消えたとしても何度でもイズクの身体は元に戻る。


 一方的に裏切られ、この瘴気を放つ竜を世に放った元凶とされ《聖女》ではなく《魔女》と呼ばれ、人類の敵として処理された。


 幾度と無く殺され続けて尚もイズクの《()わら()》の《奇跡》は何度でも生き返る。死ねない。世界のために殺される。


 助けてと叫んでも、その声は届かない。


 《奇跡》を与えられ《聖女》として人類のために――その力は誰も救えなかったかもしれない。それでもイズクは世界の為に身を呈し、傷つきながらも、盾となっていたはずなのに。両親と妹が安心して暮らせる世界を創造したかった。


 皆、殺された。


 私も殺されている。


 けれど私だけが死ねない。


 ならばどうする。


 奪われたのなら、奪い返すしかない。


 復讐は意味を為さ無い。


 失ったモノは還ってこない。


「……殺してやる」


 ただ耐え忍ぶ日々を繰り返し、心に(ひび)が入ることから目を逸らし、ただひたすらに死を繰り返しながら《奇跡》によって生き永らえていただけだ。


 《奇跡(こんなもの)》が無ければ、ただに人でいられたのかもれいない。それでも今はもう竜の死骸と共に棄てられた。死ねないまま、永遠をこの瘴気に囚われたまま殺され続けるのだろう。


 だが脳裏に焼き付く《一桁位》たちを殺すまでは、それだけがイズクの生きる意味となった。


『殺してくれ……』


 どれだけの時間が過ぎたのかわからなかった。


 しかし、それが始まりだった。


 声がした。


 弱い、弱い声が――イズクに届いた。瘴気に殺され続けるイズクは耳も溶け落ち、音も声も聞こえるはずがない。


 それでも確かに聞こえるのだ。


 何者かの終わりを望む声が。


『死にたいの?』


 イズクもまた叶わぬ願いを、その声に向けて発する。瘴気を浴び続けるイズクはもう自分がどれだけ原形を留めて存在しているのかもわからない。


 それでも魂だけはまだ地上に残っているのか、《奇跡》によっていつまでの死ぬことの無い地獄に縛られている。何度も何度も殺されているこの瘴気が声を発しているようだった。


『止められない。もう《七虹》としての役目は果たせない』


 そこでこの瘴気が……腐れた竜の正体が《七虹》の一翼のものであるとイズクは知る。名を《赫黒(あかくろ)》という。


 世界を始まる前から終わらせようとした《極光(エンデ)》を倒した七体の竜の一体。それは《極光(エンデ)》の攻撃で朽ち果ててしまった。


 おとぎ話では星よりも巨大な顔だけの怪物とされている。今でも月の横にその瞳だけが残り人類を見下ろしている。そして瞳しかないというのに囁き掛け、その言葉に同調した者が《堕天》という怪物に変貌してしまう。


 だが、今こうして世界を滅ぼさんとしている瘴気を撒き散らす腐れた竜は《堕天》ではない。


 ならば、どうして世界を腐らせようとするのか。


 氷の中で眠っていたはずの《赫黒(あかくろ)》の封印を解き、《赫黒》の意思に反して瘴気をばら撒かせる。


『……《奇跡》に、抗えない。《聖女》――我を、操れるほどの……』


 傷つき弱っていたとしても、星を壊そうとする邪悪と対峙できるほどの竜の意思を捻じ曲げて、操れるほどの《奇跡》を使う者。


 イズクと共にいた《一桁位》の《聖女》――イズクを《魔女》に仕立てた者。何故に世界を救済する者たちが、世界を崩壊させるような悪行を企てたのか。


「私は……全てを知り、全てを奪うまで――このままではいられない」


 答えを見つけるまでは、終われない。


 この身に宿す《奇跡》の名の通り終わらず、前へ進まなくてはならない。


 だが終わらぬだけのこの《奇跡》で真実に辿り着くことはできない。イズクは無力だ。死ねないだけだ。


 なら、ならば、


「私に……力を、貸して――あなたの願いを叶えてあげる」


 イズクの言葉に、一縷の希望を見たような《赫黒》は自身の声を震わせながら、


『世界を壊したくない……眠らせて、くれ』


 イズクは願う。


 無意識であろうとも、何も思わず、念じる必要もなくイズクの持つ《奇跡》は何度でも生き返る。しかし祈れば、《奇跡》は発動できる。


 《一桁位》の《奇跡》の使い手である《聖女》は祈る動作を取る必要なく《奇跡》を使うことが出来るのが、他の《奇跡》の使用者との明らかな強さである。それはイズクも同様である。


 彼女は別に戦わない。死なないだけの他の誰かに恵みを与えることも、傷や病を治すこともできない。ただ自身が終わらないだけの《奇跡》ではある。


 だがイズクもまた《一桁位》である。


 これまでただ瘴気の《蓋》とされ、絶望し、心は折れ、諦めていたからこそ願うことはなかった。


 しかしここで終わるわけにはいかない。


 《赫黒》との契約を果たし、そして力を手にし、イズクを貶めた《一桁位》を殺す。全てを奪った者へ、意趣返すために。


 イズクはただ何度でも世界の《蓋》となって《赫黒》の瘴気を受け続けている。身体も数え切れぬほどに腐らされて、それでもまた人の形を成そうともがいている。


「私の、中で……眠ればいい――だから、《赫黒(あなた)》の力を、使わせて」

『我の力を、何に使う……』


 イズクの身体がゆっくりと形を編んでいく。黒い繭に包まれたまま、しかし意識ははっきりとある。


「私の全てを奪った者への復讐」

『この世界を終わらせるつもりか?』

「終わらせるのは《聖女》だけ……でも、その後は知らない。死にさらせ人類史」


 その先の未来に興味がない。


 まだこのときイズクは信者(ルリリル)騎士(アルフォーリア)と出逢っていない。これまでも、これからもずっと孤独を生きていると。だが今はただ何も知らぬままに悪役にされ《聖女》の名を《魔女》に変えられた。


『力は貸そう……しかし、人類を終わらせるのならば――』


 そこで《赫黒》の声が途切れて消える。


 そしてイズクを殺し続けていた瘴気は完全に消え去る。


 イズクは目を醒ます。


 元々黒い髪だった。しかし金色だった瞳は深淵の如き深い闇色と化していた。背も伸び、身体が大きくなっているのもわかる。


 これが腐れた竜である《赫黒》とイズクの始まりを終わり。ここでイズクは《奇跡》とは別に《七虹》の力を手にしたのだった。


 それから独り、復讐を果たす物語が始まったのだが――その物語も、いよいよ終わる。

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