37/御伽:《七虹》(1)
それは星が生まれた日。
人類史がまだ始まらぬ前。
宙の向こう始まりを無かったことにしようとした《極光》が星そのものを終わらせようとした。
しかし同時に生まれし七つの竜は《七虹》と呼び、その終焉の元凶を討ち倒した。《七虹》の半数もまた死に絶えたが――それでも、人類は竜たちのおかげで生まれることが許された。
だがそれを完全に消滅させることは出来ず、巨大な瞳だけが月の傍らに彷徨い続ける――そして傷ついた竜たちは傷を癒すために星へ降りた。
まだ生物も動かぬ、自然も形成されぬ平らな星で――七体の竜は各地に散らばりながらその身が癒えるまで静かに眠るのだった。
しかしその内の一体である《赫黒》は最も傷つき、《極光》の攻撃を最もその身に受けてしまった。他の竜と違い瘴気を纏い、如何なる傷も瘴気によって無かったことにする力を持ち――触れるモノ全てを腐り果てる狂気の力。
だが、傷ついた身体は治らない。
このままでは溢れる瘴気で星を呑み込んでしまう。
だから、
『……殺してくれ』
漆黒の竜である《赫黒》は他の《七虹》に懇願する。
自分の力が最も危険だというのは解っていた。このままでは救うことのできた星は滅び、人類史は始まることなく死にさらす。これでは《極光》と同じことになってしまう。
『それは出来ない。同じ《七虹》であるキミを殺すなんて』
朽ち果てていく《赫黒》の願いを拒絶するように、白く輝く竜である《白銀》がそう言う。
『しかしこのままでは……我のせいで人類の住む世界では無くなってしまう』
漏れ出る瘴気は全てを腐らせる。この力が《極光》の外殻を腐らせ、《七虹》の一手が通るようになった。《赫黒》がいなければ決して勝つことは出来なかった。
『今は眠れ……』
草木も生えぬ渓谷の奥底にゆっくりと降りていく。そして深い穴倉の中で《赫黒》は横たわる。そして青き竜である《群青》が息を吹けば、《赫黒》は氷結しそのまま《白銀》と《群青》は傷ついた身体に鞭を打つように飛翔する。
『我々はこの物語に必要ない……しかし、もし、人類が何かしらの窮地に陥るときがくれば――そのときまで、我らも眠るとしよう』
《白銀》の言葉に《群青》は無言で頷き、二竜は分かれて飛んで行く。
それから更に年月は過ぎ、《白銀》も《群青》も人類の見えぬ何処かでひっそりと隠れるように眠り続けていた。
《白銀》も《群青》も《赫黒》に対して最善の方法を選べなかったのは解っている。殺すべきなのだろう――だが、それでも共に戦った仲間に刃を向けることなど出来はしなかった。
――だが、その優しさが……《奇跡》と呼ばれる異能を使うことが常識となった世界の先で一人の《聖女》を《魔女》に変えてしまうことになるとは。
だが《魔女》は止まらない。
《聖女》として、《第六位》として――
復讐を果たす為に、最後の場所へと赴く。




