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35/別離:第四聖女都市・廃墟《第四位》(4)

 《第四位》の言葉を否定することは出来なかった。


 イズクは自分から蟻地獄の巣穴に足を踏み入れたことと同じだった。そして独りではなくルリリルを危険に晒し、アルフォーリアを喪った。完全に自分の落ち度である。何も言い返すことなど出来ない。


 だからこそルリリルを逃がすために、イズクは抵抗しようとした。不可視の重力によってイズクの身体は圧迫され、そのまま押し込まれている。


 しかし《薬》によって《奇跡》は強化されている。人の形をしているだけのイズクでなければそのまま重力によって臓器はすでに損壊していることだろう。


「言ったはずだ……動くな、と」


 しかし抵抗は何の意味もなさなかった。黄金の斬撃がイズクの左腕を、そして右脚を瞬きする間に斬り裂いていた。


「滑稽だな……本当に、滑稽極まりないな――貴様は」


 片脚を失ったことでイズクはバランスを崩し、そのまま床の上に転がったまま立ち上がれずにいた。その虫のようにのたうち回るイズクを見て黄金の仮面の主は害虫を見るような視線を向けている。


 だがイズクを攻撃し、傷つければそこから瘴気が発生する。それで反撃すればいいのだが敵はルリリルを盾にしている。


 このまま瘴気による反撃を行えば敵を殺せてもルリリルまで殺してしまう。即座にイズクは瘴気の効果を切る。対策を取られていることに舌を打った。


 イズクの傷口から溢れる瘴気は霧のように発するものの瞬時に消失する。それを確認したと同時に敵はそのまま黄金の仮面を外し、顔を見せる。


 その顔を見て、イズクは両腕に力が入る。


 それはイズクが《聖女》と呼ばれ《一桁位》として共に世界の救済のために戦った《第三位》であった。それを前に倒れたままのイズクは更に怒りがこみ上げる。


「ゴルディル、……デルリラン――――」


 栗色の髪。鮮やかな緑玉の瞳。知っている。その姿をイズクは知っている。《一桁位》の中で《聖女》よりも《騎士》に近かった存在。


 その黄金の剣はまさに《堕天》を断つ為のもの。《一桁位》の中で最も解りやすい武に寄った《聖女》ではなく《英雄》に近き存在。


 しかしイズクはそんな英雄のような《第三位》にも《魔女》と呼ばれたあの日、同じ仕打ちを受けた。憶えている。腐れた竜の死骸と共に破棄される前、喉を潰され、腹部にその黄金の剣を突き刺さされた。


 その時の記憶がまた再び蘇り、くぐもった声で、イズクはまるで獣のように《第三位》に対して怒気を放っている。ここに《第四位》がいなくとも、《一桁位》が確かにここにいる。こいつでいい。こいつを殺す。それでいい、と。


 だからこそ復讐の意志が、ただイズクを突き動かす。しかしそんなイズクの怒りを他所にゴルディルはルリリルの首を締め上げたまま二歩前へ進みそのまま頭を踏みつけたまま胴体に黄金の剣を刺し込んでいた。


 蝶の標本のようにピンを刺されそのまま動かないイズクを前に、やはりゴルディルの視線は氷のように冷たいままであった。


「私の名を呼ぶな……《魔女》めが」


 心底不愉快そうにそう言いながら、イズクの頭が潰れるほどの強さで踏みつけられている。


 そしてそのまま気味悪くスキップをしながらエルディオの身体がイズクのところへ近づいてくる。その手には注射器が持たれていた。


「《終わら不》の《奇跡》だろうが、なんであの腐った竜の瘴気を纏ったまま生きてんのかわかんないけどさ……別にボクはね、《第六位(キミ)》を殺せる方法なんてずっと前から知ってんの」


 重力によって圧し潰されたままゴルディルの剣が突き刺さり動けぬまま、そしてそのままエルディオは祈ったまま注射針をイズクの左肩に打ち付けるように刺していた。


 祈りの構えは別に両手の手のひらを合わせる必要はない。エルディオは片手で拝む構えを取っているだけで《奇跡》が発動している。そしてもう片方の空いた手で注射器を持ち、イズクの身体に針を刺していたのだ。


 しかし何も起きない。だが解ることがある――イズクの失われた部位が戻らない。


「な………………?」


 イズクの《終わら不》は意識の外から、何も思わず、念じることもなく、思考など必要ない。失えば忽ち戻る。命を失うこともない。終わらない。


 だと言うのに《第四位》に《薬》を投与された瞬間、これまで一度たりとも起きることのなかったイズクの《奇跡》が発動しない。


「知ってるだろ? ボクの《薬》は何でも作れる。ならぁ……さすがに《奇跡》自身を使えなくすることはできなくても効果を遅らせることは出来るんだよね」


 片腕と片脚は喪失したまま、挙句には胴体が貫通している。所詮人の形をしているだけの人外と化しているイズクにとって《奇跡》の効力が低下したところで即死するわけではない。


 だが戻らぬ片腕と片脚。そして貫通する胴体。そして重力によって縫い付けられる全身。イズクの身体は完全に動かない。


「別に《第六位(キミ)》を殺し尽くすことは出来なくても動けなくしてしまえばいっしょだろ。このまま全身バラバラにしておけば何もできずに終わりってわけ」


 傷は治らず、塞がらず、《第四位》の《奇跡》はイズクの力を封じている。これでも死なない――しかしこのまま元に戻らぬというのなら、確かに細分になるまで切り刻まれてしまえば抵抗できぬまま終わらされてしまう。


「いや、それは無用だろう」


 しかしそこでゴルディルが何も無い空間に切先を入れた。虚空を斬り付けたところで何もないはずだ。しかしゴルディルが刃を振るうことで、空間に傷が入っていた。


「別に、ワタシがここで終わらせても大差あるまい」

「私が、終わらせてやる――」


 しかし遮るようにそのまま次は喉を突かれ、声が出ない。首を刎ねればいいのに、ただ追い詰めるように徐々にイズクの身体を潰しているようだ。


 そして《第四位》がいう準備とやらも、何もかもここで台無しにしても構わないだろうと、ゴルディルは黄金の剣をイズクへ向ける。


 やがて空間に入ったヒビが割れ、こことは違う空間からこちらを覗いている何かが見える。


 イズクは動けず、ルリリルも気を失うほどに強く首を絞められているせいで身動きは取れず、反撃の糸口は見つからない。


「じゃあ、そのまま終わらせちゃってよ《第三位》」


 そして処刑執行が言い渡される――そのとき、だった。


「…………まだ動くか」


 通り過ぎる銀の光が、ゴルディルを弾き飛ばす。罅割(ひびわ)れた空間は閉じイズクの処刑は免れた。


 そしてゴルディルが振り向けばそこには右腕を失ったアルフォーリアが立ち尽くしていた。


「ああ……痛ぇな……」


 失った右腕の傷口を縛り上げてはいるが血が漏れ出ていた。しかも左肩から右脇にかけてえぐり取られたような傷痕。いったいこの建物の外で《第三位》に何をされてそのような大怪我を負ったのかイズクには想像できなかった。


「だが……聖女様は()らせん」


 しかし満身創痍であるアルフォーリアは決して挫くことはなく、その左手には剣が持たれている。銀の瞳の輝きはまだ失われていない。


 完全に自由を奪われているイズクはこの状況では何もできない。貫かれた胴体の傷は未だ塞がらず、片腕と片脚も生えてはくれない。


 この絶望的すぎる状況下の中、アルフォーリアはただ一つの選択を取ろうとしていた。そしてその銀の瞳はルリリルを見ている。


 そしてアルフォーリアはただ小さく「すまない」と呟き、その声を聴いたルリリルは静かに頷いていた。騎士と信者が願うは一つ。《第六位》の生還――そこに手段も、方法も厭わない。その願いを叶えるならば、これしかないと。


 アルフォーリアの眼前に《第三位》――その腕の中にルリリルが。その後ろに倒れたままの動けず声も出せないイズクがいる。更に最も奥に立つエルディオは祈りの構えを保持したまま《奇跡》によってイズクを縛り付けている。


 だが、アルフォーリアはその手に持つ銀の長剣をエルディオに向かって投擲していた。エルディオは回避が間に合わず、左胸にその剣は突き刺さっていた。


 きっと本来のエルディオであればその程度の攻撃などかわすことが出来たのだろうが、《第四位》によって操られている状態だ。彼女の反応が遅れたことで回避を失敗したである。


 哀れにもその程度でエルディオは自身の存在を《第四位》に呑み込まれたまま死んだことにも気づかずに眠るように死ぬのであった。そしてそれと同時に祈りの構えが解け、命も尽きたことでイズクを縛っていた重力が消える。


 範囲的に重力を発生していれば近付けばアルフォーリアもその《奇跡》の餌食になっていたが唯一の欠点は対象を一人に絞ることでしかエルディオの《奇跡》は意味をなさなかったことだ。


 そのままアルフォーリアは武器を失い丸腰になってしまったがイズクの元へ駆け寄り、片腕でイズクの身体を抱え走り出す。


「……逃がすと、でも?」


 しかしそこにゴルディルが制するように立ち塞がる。だが、ルリリルは決死の覚悟でイズクを逃がさんと隠していた短剣を持ち、その首に目掛けて突き立てようとしていた。


 だがゴルディルはルリリルの首を絞めていた腕を解くと、同時にルリリルの小さな身体は床に足がついていないせいで落ちていく。しかしそのまま手刀でルリリルの手に持つ短剣を叩き落とし、胸倉を掴んで再び拘束した。


 しかしその隙間はアルフォーリアにとってあまりにも好機だった。アルフォーリアはイズクを抱えたまま疾駆し、建物の外へ向かって行く。もちろんゴルディルは追いかけようとした。


 だが、左胸を貫いかれたままのエルディオはが立ち上がり、


「大事な、大事なぁ……信者ちゃんを返して欲しかったら――あそこで待ってるよぉ~!」


 ケタケタと笑いながら、エルディオを操る《第四位》が手を振らせていた。


「《第六位(きみ)》が《魔女》と呼ばれる()()()()でさぁぁッ!!!!」


 アルフォーリアに担がれたまま逃走するイズクに聴こえるようにひたすら大声でグロウディアの舞台を変更を言い渡される。


 イズクの傷は未だ癒えない。そして声も出せない。アルフォーリアに担がれるイズクは戻るように腕を振り意思表示をするが、アルフォーリアはそんなイズクに対して一切反応を示すことなくただ外へ向かって走り続けるだけだった。


 ゆるさない。


 愚かにも罠に掛かり、そして信者(ルリリル)を放置し、逃げる自分自身――だがそれだけではない。


 《第四位》――クロウディア・アルカナ・ルンセント。


 《第三位》――ゴルディル・デルリラン。


(お前は、……お前だけは――私と同じ目に、遭わせてやる――)


 イズクは敗北を認め、そして信者を奪われ、背を向けて逃げることになる。耐えがたい、舌を噛み切りたいほどの屈辱を受け入れたまま――イズクはアルフォーリアと共に逃走するのであった。


 そのまま奥底で、左胸を貫いた銀の長剣を引き抜くエルディオだったもの。


「可哀そうなルリリルちゃぁ~ん……信じていた《聖女》さまにぃ、捨てられちゃったねぇ」


 男の声だというのに、それは《第四位》が喋っていると思うとただただ気味が悪かった。そしてここにはもうイズクもアルフォーリアもいない。《第六位》の復讐の対象しかいない。


 逃げられない。だがルリリルは酷く落ち着いていた。イズクを無事に逃がすことが出来た。あの人が生きているならこの物語はまだ終わらない。


 そしてその物語を紡ぐ為に自分の命を捧げたのだ。後悔は無い。アルフォーリアのことは心底嫌っていたが、無事にイズクを助けてくれたことは内心感謝していた。


「殺すなら、殺せばいい」


 だからルリリルはそのまま抵抗することなくその場で静かに座り込んだまま二人の《一桁位》に向かって臆すことなくそう言うのだった。


「それでも、《第六位(せいじょ)》さまは必ずあなたを倒します」


 ただそれだけ言い放ち、ルリリルは両目を閉じ、死を受け入れる。


「だいじょうぶだよぉ。殺さないって……きみはさ――」


 しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。


 そしてルリリルの首元に注射器を刺し、そのままルリリルはぐったりと意識を失った。


「亜人一匹殺して何になるのさ。そもそもキミは撒き餌なんだから、生かすに決まってるんじゃん」


 わざとらしくクルクルと回りながら、動かないルリリルに向かって話を続ける。


「まっ、活かすんだけどね」


 そこで完全にエルディオだったものは活動を停止する。《第三位》だけがそのままルリリルを首を掴んで持ち上げ、剣と鞘に戻し奥へと進んでいく。


 ついに《第六位》を壊す為に必要なものが揃い、エルディオが完全に死んだことでここにはいない《第四位》の本体(クロウディア)が、蠕動しながら、歓喜に満ちていた。


「《第六位(アイツ)》は知らないさ。次に会うときは終わらせる」


 そして《第四位》はあの日、《魔女》に仕立て上げたあの北の渓谷で準備を始める。


「ボクの願望(ユメ)に、お前は邪魔なんだよ……」

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