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31/??:《聖女》イズク・フォーリンゲイン

 まだイズクが《一桁位》として《聖女》と呼ばれていた頃だ。


「《聖女(せいじょ)》が来るのが遅いから、死んだんだぞ」


 何処の町が滅んだ。


 《聖女》が来るのが遅かった。


 《堕天》の現われ、町を壊し、人を殺した。


 到着した時には全てを失っていた。《堕天》は処理できた。生き残った住民たちは第一聖女都市に連れて帰った。


 だが失われた命も場所も元には戻らない。


 きっと誰かを救えても、何処かで誰かを救えない――《聖女》は万能だが、全能ではない。


 全ての命を救うことは出来ない。


 ならその失敗を、失態を、責任を取るのは誰だ。


「申し訳ありません……《堕天》の発生に気づかず、我々《聖女》たちの出立が遅れたことで……このようなことに……」


 生存した住民たちのやり場の無い怒りを一身に受け止めていたのもまたイズク・フォーリンゲインだった。


 死なないだけの《奇跡》は本人だけを奇跡の存在にし、他の誰かを救えるような力は無い。だから他の《一桁位》からは《堕天》の殺意だけでなく、人々の憤懣をもまた受け止めさせられていた。


 ――何もかもを救えるわけがない。


 《一桁位》の誰かがそう言った。


 ――そうは、そうだ。


 と、他の《一桁位》が同意する。


 ――何もかも望むな。


 そして《第四位》がそう呟く。


 まだ六人しかいなかった《聖女》たちの《奇跡》によって救済される世界で、未来をその六人の少女に押し付けているのだから。


 人類は救う。


 《奇跡》はその為に与えられたのだから――だが《聖女》たちは何故に、戦うのか。


 どれだけ理を超越した異能を持っていたとしてもその中身はまだ成人していない者ばかりだった。だからこそ救えなかった者と死別することになった生存者たちの怒りが《聖女》に向けられるのは堪えられなかった。


 ならいちばん力の無い、戦っていない者が――()()()で戦えとイズクを寄越したのだ。


 生き残った者たちへ謝罪を。


 何もできないなら、それぐらいしろと――《一桁位》たちに命じられる。


 イズクはなぜそうまでして、自身を犠牲にしているのか。


 選ばれし《一桁位》の《聖女》たちは《奇跡》が仮に無かったとしても貴族の生まれや、上流階級の育ちである。別の力を持って生まれている。


 そんな中でイズクだけが何もないただの平民であり――《一桁位》たちと並んで歩くことすら許されない存在なのであった。


 しかし《奇跡》を発現し、《聖女》として呼ばれたとき。


 自分が前に出ることでせめて家族は護れるとそう思っていたから。《聖女》として《堕天》と戦うことで、家族の身の安全は約束される。そう、言われたからだ。


 いつどこで何があっても家族を護れる。守ってくれると。


 死なないだけの《終わら不》の《奇跡》は盾の役割として動けば、もし家族に何かあっても他の《聖女》たちに助けてもらえる。


 だからイズクはひたすらに犠牲となっていた。


 死なないのだから、痛みもないのだから――私は大丈夫だと。


「自分は死なないからって、他の命はどうでもいいってか?」


 しかし心無い言葉に、イズクは穿たれる。


 自分が弱いから、死なないだけだから――分け隔てなく、救うことを選ぶなんてしたくなかった。


 だからイズクは、人族であって亜人族であっても助けたいと願っていた。力が無いから、それは叶わなかったし、誰一人救えないのもわかっている。


「ちが――――」


 だからそれだけは否定したくて、声を荒げようと、


「見ろよ、傷がすぐに塞がったぞ」


 投げつけられた石が、額に直撃していた。


 裂けたはずの傷は、たちまち無かったように消えていた。致命の傷すらもイズクは死なない。しかしその異常なまでの再生力は何も知らない者からすれば奇異の視線で見られることだろう。


「他の《聖女》と比べて、ただジっとしているだけで何もしないくせに何で《聖女》なんて呼ばれてるんだ」


 イズクは何も言わず、生存者から視線を逸らす。正面を向いて何も言い返すことは出来なかった。他の《聖女》のように壊すことも直すことも治すこともできない。


 本当にただそこにいるだけなのに変わりはない。


 だからこうして全ての怨嗟の捌け口になることも仕方がないと、思っていた。


(ああ、私は、どうして――――)


 こんな《奇跡(ちから)》を手にしてしまったのだろう。


 姿すら見たことの無い女神がこの《奇跡》を与えたのならどうか教えてください、と。


 痛みすら感じなくとも、胸の奥はずっと重く、嘔吐感が込み上げている。誰かの憎しみも怒りも、どうして私が受けなくてはいけないのだろう。


 《第六位》は知らない。


 イズクが滅ぼしたわけではない。


 イズクが失わせたわけではない。


 それなのに、こうして《聖女》としての責務を果たせぬときは――いつも、怒りの矛先はイズクに向けられていた。


 それを遠くから見ていた《一桁位》たち。


 生まれも育ちも違う。《奇跡》すら異質。


 それだけで、彼女たちは仲間などと到底思っていなかった。平民がたまたま与えられた《奇跡》でここにいるだけだ。


 なら、ぞんぶんに役に立て。


「――ねぇ」


 《第四位》が嗤う。


 残りの《一桁位》に向かって、


()()()()()()()()()()()()()()()


 諸悪の根源が、そう囁いた。


 ――《極光(エンデ)》のように。

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