27/祈祷:第一聖女都市《聖女騎士》(7)
アルフォーリアがまだ十の齢になったばかりの頃。
アルフォーリアの住んでいた小さな町は《堕天》に破壊され《聖女》らの救済は間に合わなかった。
なんとか町から脱出することは出来たアルフォーリアの家族はそのまま聖女都市へ向かう途中――別の《堕天》に襲われた過去がある。父と母はアルフォーリアを庇い、息絶えた。
幸福はいとも容易く奪われた。
住んでいた場所も、大切な家族も、温もりはもう二度と戻らない。
幼きアルフォーリアは《堕天》の圧倒的暴力に成す術もなく、終わりを受け入れることしか出来なかった。
誰も助けてくれない――《聖女》は人々を救うために存在しているのではないのか。ならどうして父も母も殺された。
しかしどれだけ心の中で恨みを募らせても未来はもう変わらない。もう、どうしようもない……と、アルフォーリアは目を瞑った。
「………………あれ?」
しかし痛みは感じない。
命が終わる気配もない。
それどころかあたたかい。
そして瞳を開けば、
「間に合わなくて……ごめんなさい――」
《堕天》の爪の一つが女性の腹部を貫き、しかしそれが壁になったおかげでアルフォーリアは死なずに済んだ。
だが黒衣を着た黒髪の女性を凶刃が貫通した際に噴出した返り血をアルフォーリアは顔の半分が真っ赤に染まるほどに浴びていた。その血は、とても温かく――生を実感させた。
そこから他の《聖女》が《堕天》を処理することでアルフォーリアは生還した。しかし家族が死んだという現実は変わらなかった。
どうしてもっと早く来てくれなかったんだ。
お前らが、来るのが遅いから両親は死んだ。
《聖女》なんて、消えてなくなってしまえ。
――――とは、子どもながら言えなかった。
目の前で腹部を繰り抜かれて尚、絶命することなく口元から泡のように血液を溢しながらそれでも深々と頭を下げて、ひたすらに謝り続けている女性があまりにも優しく、そして恐ろしかったからだ。
父や母のように《堕天》の命を略奪するおぞましき攻撃を彼女も受けている。それなのに彼女は立ち尽くしたまま、ただアルフォーリアに両親を喪わせてしまったことを謝っても謝り切れない――と、ただ嘆き、悲痛な面持ちのまま頭を下げ続けている。
「せいじょさまは……ひとり、なの?」
他の《聖女》らは背を向け、アルフォーリアに目もくれず《堕天》を討ち倒せば我先にと帰って行くというのにそんな黒衣の彼女だけがただ孤独なままにアルフォーリアに許しを請いていた。
そんな彼女が、とてもかわいそうに思えて――今まさに独りぼっちになってしまったアルフォーリアはこの人も同じなんだと理解した。
「……え、ええ――わたしには騎士もいませんし」
だったら、
「お、おれが……」
全て失ってしまったアルフォーリアが、ここから腐り落ちることなく進むにはこれしかないとそう思った。
「おれ、おおきくなったら――《騎士》になる。そして、つよくなっていつかあなたの……《聖女騎士》としていっしょにたたかわせて」
強大な《堕天》は《聖女》にしか倒せない。
いや、剣を執り――いつか自分が《堕天》を倒せるほどの強さを手に入れればいい。きっとあるはずだ。それがどこかにあるはずだ、と。
騎士になればもっと強くなれる――そして《聖女》を護る騎士なれれば、もっともっと強くなれる。
子どもながらどこかで聞いた《聖女騎士》の存在を、自分が成ってみせると奮起する。
死と同様に傷を負ってまで息絶えることなく《聖女》の責務を全うする彼女に――しかし独りぼっちの彼女の力になりたいと。
「ふふっ……」
だから、そんな小さな勇気に彼女は微笑む。腹部の傷がゆっくりと塞がっていた。
「そうね、その時が来たら――私を……迎えに来てね」
ここからアルフォーリア・エンドスケッジの物語は始まっていた。夢を見つけた。全てを失った少年が、壊れそうな心を保つために見つけることのできた夢。
いつか一人で《堕天》を殺せる程に強くなって、《聖女騎士》として《第六位》を傍らで護るための《第六聖女騎士》を名乗る夢を。
だが約束を交わしたその数日後に――
イズク・フォーリンゲインは《魔女》として処刑されることをこのときのアルフォーリアはまだ知る由もなかった。
物語は始まる前に、終わっていたのだ。




