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22/祈祷:第一聖女都市《聖女騎士》(2)

「アルフォーリア……?」


 長剣を装備する銀色の髪の白き瞳の探求者――アルフォーリア・エンドスケッジ。


 だがイズクは《魔女》と呼ばれる前の記憶を掘り返しても彼のことを知らない。


「もし困っているなら力になろう」

「どうして?」


 しかし見ず知らずの男がいきなり現われて、力を貸すなどと言われても警戒してしまうのは当然だ。


「《色無し》の私だけじゃない……身内には亜人の子もいる。身元を証明できるモノもない――」


 イズクは自身の環境を正直に話した。


 ただ《色無し》に関しては《奇跡》を持たないからこそそうなったわけではない。内包している《七虹》の影響で瞳の色が黒になっている。だがそこは話してもややこしいことになるので隠しておく。


 しかしイズクも何をやっているのだと、自嘲した。


 こうして本来ならば一声掛けられた時点で拒絶すればいいだけの話だったのに瞳の色に対しても亜人に対しても言及もせずに会話を続けるアルフォーリアが珍しかったからだ。


 色や種族だけで差を別つのが当たり前のこの世界で顔色も目つきも変えずに会話してくれる人族にイズクは興味が湧いた。だが完全に心を赦したわけではない。だからこそ自身の名も、旅の目的も明かさない。


「なら都市に入るのは難しいな。不法侵入はさすがにマズいが……だが、他に方法はないんだろう?」

「ええ、まぁ……そうね……」


 イズク自身も結局どうするべきか答えは出ていない。一人なら力押しで夜に侵入するという考えに至れるのだがルリリルをそんな危険な道に進ませるわけにはいかない。


「俺に良い案があるがどうする? 聞くだけでも……まぁ、そちらには嫌な思いをさせてしまうかも……だが――」


 初めて顔を合わせてここまで干渉してくるアルフォーリアへの不信感は募っていく。イズクは後ろへ一歩引いた。


 だがアルフォーリアはぴたりと動きを止めたと同時に金属音が響き、火花が散っていた。


「……鋭い」


 目を細めたままアルフォーリアが通り過ぎた影を見定めていた。イズクの目にも捉えられぬほどの速さで鞘から刀身が突出していた。


「誰、ですか……コレ?」


 ルリリルは短剣を構えてイズクを庇う様に立つ。影の正体はルリリルだった。容赦なくアルフォーリアを攻撃したのである。


「躊躇なく首を狙った――()()


 だがアルフォーリアは突然襲われたにも関わらず怒りも不満も感じさせることなくゆっくりと長剣の刀身を鞘に戻していく。敵対する意思はないと証明するかのように、両手を左右に広げたまま、


「黒猫の亜人か……リルリの、民か?」

「どうしてそれを――」

「知っているさ。()()()が救ったものだろう?」


 イズクとルリリルが視線を合わせる。《第六位》を知っているなら二つに一つだ。《魔女》と呼ぶのならば敵。《聖女》と呼ぶのならまだ――


「そう《聖女》さまに救ってもらった」

「素晴らしい」

「……?」


 しかしアルフォーリアは天に両手を掲げ、恍惚とした表情で感動している。


「あの人が残した救いが、また一つ……俺のこの目で垣間見れた――生きてて良かった」


 再びイズクとルリリルは目を合わせる。《魔女》と呼ばない――《第六位》を知っているというのだろうか。


「ああ、すまない……忘れてくれ」


 そして我に返ったかのようにアルフォーリアは元の表情に戻る。


「でも《奇跡》を持つあなたたちは、わたしたちを蔑むんでしょ」


 ルリリルは亜人族であり唯一《奇跡》と呼べるか怪しいほどの矮小な力を持っている。だが、本来は亜人族に《奇跡》は宿らない。


 そして《奇跡》を持たないが故に《奇跡》を持つ人族に侮辱される。どうせ、この男もそうだと――ルリリルは憤る。


「いや、俺も《奇跡》を所持しているが……」


 アルフォーリアは右眼に右手の親指を向けたまま、


「俺は視力が常人より良くなるだけの《奇跡》だ。名前もない《奇跡》の所持者だ。だから他者を下げるようなことは言わない。自分の価値も下がる」


 その言葉にルリリルは目を丸くした。信じられない――人族が所有する《奇跡》は文字通り魔法のような異能が殆どだとばかり思っていた。


「まぁ、この目のおかげで遠くから正門を見ている君の姿が見えたんだけどね」


 《奇跡》とは手から炎を出したり、空を飛んだり、物質を増やしたり、精神に干渉したりと様々な能力が使えると思っていた。


 ルリリルのようなただ五感の一つが強化される程度の《奇跡》など他の《奇跡》と比べれば名もすら付けられぬ脆弱さ。


 しかし、


「別に珍しくも無い。人族は《奇跡》を確かに手にするが、それでも俺のようなちょっと目が良くなる程度しか発現しない者もいる。笑っていいぞ。それに……《奇跡》を持たない場合だって、あるわけだし」


 全ての人族が《奇跡》を所有しているわけではない。だからこそ瞳の色が黒ければ《色無し》と呼ばれ、瞳に色があるのに《奇跡》を持たない者だと罵倒される。


 そしてアルフォーリアは二本の指で輪っかを作り、覗き込むようにルリリルを見つめていた。瞳孔が自在に大きくなっている。


「いや……わたしも《奇跡》使える……耳が、良くなるだけ――だけど」


 人族ですら発現する《奇跡》に強弱があるように、そしてその中でも最弱を与えられたアルフォーリアに同情したわけではない。


 だがルリリルのように五感が強化されるだけの《奇跡》を持っていることが他人事とは思えずつい自身の持つ《奇跡》を教えてしまった。


「亜人が《奇跡》を……」

「な、なに? おかしいの……?」

「いや……ますます素晴らしいと思ってね。そうか、()()()が救った全てはこうして繋がっている――と、いうわけか……」


 今にも泣きそうな顔をしているが、アルフォーリアは一人で勝手に自分の世界を形成しているのでルリリルは声を掛けることはできなかった。


 しかしイズクは度重なるアルフォーリアの発言で理解する。《第六位》を知っていると。しかしそれはイズクを誘う罠かもしれない、と。


 このわざとらしすぎる演技のような言動にさすがのイズクも正直に自分の正体を告げることは出来なかった。そもそもルリリルが「やばいですよこのひと」と、もっともなことを言ってしまっている。


「そ、それで良い案ってのは……どういうもの?」


 イズクは話を進めるために敢えてここはアルフォーリアの案に乗ってみようと考えた。


「俺は探求者なんだ。もし……俺と一緒について来れば、都市の中に入るのは簡単だって話だ」


 イズクはなるほど、と納得する。それはルリリルも同じであった。探求者や《聖女》は亜人を奴隷として扱う際は道具として利用している。この道具というのがポイントだ。


 道具なのだから尊厳などない。よって探求者が廻廊(ダンジョン)へ潜るために連れて行く道具だと言えば何も差し出さずに入ることができる。もちろん探求者自身の信頼がなければ無理な話ではあるが。


 探求者そのものが何かしら問題を起こしていたり信用のないものは逆に探求者本人が自身の証明が必要になる。


「探求者の道具――としてなら、実は扱いとしては人ではなく道具。身元を証明する必要がないってわけだ」

「確かにそれなら私もこの子(ルリリル)も何も証明せずに入れるね」

「……はい、この男の言っていることは本当です。わたしもそれがいちばん無難とは、思いますが――」


 亜人であるルリリルは奴隷として扱えば可能だが、イズクは亜人ではない。容姿はどう見ても人族だが。


「人族の奴隷も少なくない……《色無し》なら、特に」


 その言葉にルリリルはキっとアルフォーリアを睨みつけつが彼はそんなルリリルの鋭利な視線に動じることなく言葉を続ける。


「それでどうする? これなら都市に入れるけど??」


 イズクもこれなら確実だろうが、唯一の懸念すべき点はイズクの正体が知られている場合だ。《第四位》はイズクの生存を知られている。


 このまま情報を全て共有されていれば正門にる騎士たちに顔を見られた時点で詰みとなる。だが、イズクは正直それでもいいと思った。


 そのときはもう暴れてしまってもいいとさえ思っていた。考えるのがもう面倒だった。それで《一桁位》が姿を見せてくれれば御の字である。その場で殺してやろうなどとさえ思っている。


 しかし一人なら、その意志を貫き通せたのだがルリリルがいる以上そんな無茶な選択を取ることはもう出来なさそうだ。


 ここからは運だが、もし見つかってしまったら――壊すのではなく逃げればいい。それならルリリルがいても無事に成し遂げることは出来そうだった。


「では、お願いしよう」

「……こんなこと言うのは今更だけど、いいのか?」

「ええ、私はあなたを利用するし……あなたも何か理由があって私に接近したのでしょう??」

「……まぁ、そうだな」


 アルフォーリアがイズクを見つめている。イズクは首を傾げる。元は《第六位》と呼ばれた《聖女》――その《聖女》のことを何かしら知っているのは事実だ。


 だが、それが良いか悪いのか……ルリリルのような正しき認識で《第六位》を知っていてくれるならありがたいが、人類史から見た《魔女》としての《第六位》ならそれはもはや敵でしかない。


「……とりあえず名前を、聞いてもいいか?」


 ルリリルはチラリとイズクを一瞥する。イズクは首を横に振る。他者がいる以上ルリリルもイズクのことを《聖女》とは呼べない。


 そして本当の名を呼ぶこともできない――なら、最初のあの鎧の廻廊(ダンジョン)で出会ったときの名前を使おうと。 


()()()()……いいんですか? そんな道具だなんて……奴隷と同じ扱いなんですよ??」

「構わない。私は聖女都市へ行きたい……そのためなら何であろうと受け入れるつもりだ」


 ルリリルは心配そうにイズクを見つめるが、イズクの答えは決まっている。そしてその決定に対してこれ以上、ルリリルは口を挟むことは出来ない。


 だから、


「私はエンで……この子はルリリル――」

「そうか、よろしく」

「よろしくは、しないです」


 ルリリルはなぜかアルフォーリアに対してはやけに辛辣だった。イズク以上に信用していない様子だった。だがイズクも心の片隅では同じく信用はしていない。


「じゃあ……正門に向かおうか」


 そして手招きして、アルフォーリアが歩き始める。イズクとルリリルはそんなアルフォーリアの背中を追うように歩き出す。


 それにしてもルリリルはイズクといっしょにいるときとは思えないほどの感情を露わにしアルフォーリアの嫌悪を示している。そんなルリリルを前にアルフォーリアは表情一つ変えない。


 見ず知らずの、しかも亜人を蔑視している人族がこんなにも近くにいるというのはやはりルリリルも精神的に厭なのであろうが仕方がない。イズクはあやすようにルリリルの頭を撫でてあげた。


「……聖女さまのこと、いちばん知ってるのは……わたしだもん――――」


 いつもならそれで喜んでくれるはずのルリリルの表情はやはり険しいものだった。


「……ん? ルリリル、なにか言ったかな??」


 ルリリルが何か呟いたのは解っていたのだがイズクはよく聞こえなかったのでつい聞き返すが、


「い、いえ……! なんでも、ごめんなさい……行きましょう……」


 謝罪と共にルリリルはイズクの腕を掴んで歩き出す。イズクとルリリルの前をアルフォーリアが歩いている。


 そしてルリリルが掴む腕はいつもより強く感じた。

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