20/想起:第一聖女都市近辺《ウルリエ村》で(8)<終>
森の奥で、横たわるボルニカにゆっくりと近づく影が一つ。フードを外せばそこには紫の髪色に、前髪の一部だけが白い――赤い瞳をした白衣を着こんだ《聖女》がいた。見た目はまるで子どものようで年齢がわからない。
《第四位》――クロウディア・アルカナ・ルンセンド。
人類の傷を、病を、何もかもも癒すことの出来る彼女の思い描く全てを治すため如何なる効果をも創造できる《剤ぜり薬》の《奇跡》の担い手。
「クロウディア様」
そしてそんな子供のように小さなクロウディアの後ろから現われるのは巨大な鎧を身に纏う聖女騎士であった。第四聖女騎士隊長――エルディオ・オルベニアである。
「あー、おつかれー。どう? いっぱい死んでた??」
「ええ、十名ほどいた聖女騎士が全員死亡。本当に生きておられるのですか? 例の《第六位》が……??」
その問い掛けにクロウディアは口元に手を当てて、自分が酷く歪んだ顔を隠すように笑ってしまった。
「そのことに関しては他言無用でおねがいね」
「クロウディア様に何かしら考えがおありでしたら一切他言しません」
世界を滅ぼした《魔女》が生きているとなればそれは世界をまた混乱に陥れるだろう。しかしクロウディアは何度も何度も笑いながら、自身のある目的のためにこれをわざと放置する。他の《一桁位》にも告げてはいない。
イズクは目を醒まし、復讐のために廻廊を潜り続けている。そこで危険度の高い《堕天》がいれば《一桁位》と遭遇する可能性もある。だからこそイズクは独りで廻廊を潜り回っていたのだ。
そしてクロウディアはそれを知っていながら敢えて放置していた。まるで自分にとっては何の障害にもならないと、イズクの存在を気にも留めていない。
「しかしクロウディア様にとっては些末でしょうが、死なない《奇跡》とやらはやはり厄介でしょう?」
「厄介ってか面倒……かな。でもまぁ《第六位》……ボクは殺し方を知ってるからさ」
「おお……さすがです」
本当につまらなそうに両手を大袈裟に上げて、クロウディアはそのまま地に転んでいるボルニカのところまで歩く。
「役に立たないなぁ」
覚醒したルリリルに瞬間で敗れ、潰れた顔面に折れた鼻。歯も折れに折れてとても見てはいられない。クロウディアはわざとらしく汚物を見るような冷たい視線で見下ろしている。
「……《薬》が欲しいなぁボクの言うことは効いてくれないとぉ~」
そして震えるボルニカを前に、冷たい視線を向けたまま口元だけは緩んで、
「でもぉ、そんなに欲しいならぁ~……」
クロウディアは屈むと、
「お注射あげるぅ」
ブスリと、手に持っていた注射器の針を潰れた顔のままのボルニカに突き刺していた。
その中に入っていた黒色の薬液が注入されると、ボルニカはそのまま痙攣してその場でのたうち回りながら奇声を発したまま一瞬で融解して消えてしまった。
「やっぱこれ……《聖女》にしか効き目なさげかぁ」
そして注射器を踏み砕き、森を後にしようとする。
「我々のように《魔女》は騎士は連れてはいないのですね」
《一桁位》の《聖女》は自身を護る騎士がいる。それが聖女騎士であるが、イズクが再びこの地に復活したいまもしかしたらイズクを信仰する者が剣を執り、共に戦う意志を《聖女》に向けて来るかもしれない。
しかしクロウディアはそんなエルディオの言葉に、
「まぁ、いないからね」
《一桁位》には聖女騎士が《聖女》を護る責務があるが、
「だから《第六位》に聖女騎士はいないよ」
《第四位》であるクロウディアは《第四聖女騎士隊》がある。しかし《第六位》には必要のないもの。守る必要がなかったからだ。死なない者を護る意味などない。
「よって《第六聖女騎士隊》なんて元から存在しない」
よって欠番ではなく、最初から存在しない騎士隊。
だからこそ《第六位》であった頃から他の《聖女》とは違い、イズクにはイズクを護る騎士などいない。よって《第六位》と同じ数字を関する《第六聖女騎士》など存在しないのである。
「あ~……でも、なんか一人だけぇ……う~ん……」
言いかけて、喋るのも億劫になったのかクロウディアは喋るのをやめた。
「クロウディア様?」
「いんや、なんでも」
そして森を出ていく二人。
「……それにしても《第六位》――あの亜人のことめちゃくちゃお気に入りじゃん」
イズクと共にいる黒猫の亜人を見つめる視線に熱を帯びている。希望の象徴にも見える。鎧の廻廊で殺したはずなのになぜか生きているし手元においている。
気に入らない。
《第六位》の《聖女》である頃からクロウディアはイズクのことが気に入らなかった。他の《聖女》と違い、死なないだけの勘違い。身を呈しているだけで救った気になっている人ではなく亜人すらも救おうとする偽善者。
結局その《堕天》を倒しているのは他の《聖女》だというのに。誰もお前のことなど知らない。知るわけがない。救っているのは我々だ、と。
だから、それに希望を抱いて――未だに我々の邪魔をするというのなら、
「壊したらどうなるかなぁ」
クロウディアは舌を出す。その舌の上には四分に咲いた花の紋章が刻まれていた。
二章はこれにておしまいです。
もしよろしけばブクマして頂けると嬉しいです。




