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17/想起:第一聖女都市近辺《ウルリエ村》で(5)

「おかしい……どうやって目覚めたのだ」


 ここで騎士の一人がイズクが活動を再開していることに訝しげに睨んでいた。


 騎士の一人が使う《奇跡》は《(あま)(ねむ)りの奇跡》――その名の通り如何なる生物も眠らせ動きを封じる状態異常を引き起こす《奇跡》である。


 イズクは確かに死なないし、終わらない。それは全ての生命の根底を裏切るおぞましき《奇跡》だが決して万能ではない。なぜなら()()()()()()()()


 毒は受けるし、病も罹る。だからこそ瘴気も防げない。イズク本人は他の人間と大差ないのだ。ただ《()わら()》の《奇跡》がイズクという存在を終わらせないだけ。終わることで、それを否定して再び生き返らせる。


 ダガーで五体を潰されても、それでイズクは終わらない。


 だが目を醒ましたくても聖女騎士が使用した《奇跡》の効果は発揮されていたのでイズクは目を醒ませなかったわけだ。


 だが《終わら不》の《奇跡》で生き返ったと同時に《甘き眠りの奇跡》の効果時間を極端に下げたことでイズクは運よく目を醒ましただけに過ぎない。


(ルリリルの声が聞こえなかったら……まだ眠っていたかもしれない)


 《七虹》の力でルリリルを従者にしたことで何かしらルリリルに特別な力が芽生えたとかそういったことはないが、イズク自身は意識すればルリリルの声が聞こえるようになった。こんな危険な目に遭ってすらイズクのことを案じているのを心が知った。


「ルリリルを離せ」


 だがイズクを遮るように聖女騎士の一人が立ち塞がる。


「行け。ワタシが()る」


 コクリと頷き、そのままルリリルの手を掴んだままもう一人の聖女騎士がルリリルを連れ去っていく。


「治癒や再生の《奇跡》は知っているが……どう見ても致命傷だろう。キサマ……何者だ……?」


 その問い掛けにイズクは表情が歪む。


「《第四位》に仕えている聖女騎士が、私のことを知らないのか……残念と言うべきか、無様と言うべきか」


 《聖女》としての《奇跡》は秘匿とされている。イズクは共に活動していた《一桁位》の力は知っている。だがそれ以外の人間が《一桁位》に関しての《奇跡》の情報はこの目で見る以外知る術はない。


 だが妙であった。《第四位》であるクロウディアはイズクが復活しているのを知っている。にも関わらずイズクに関しての情報は一切広まっていない。


 《第四位》に仕えている聖女騎士がイズクの存在を知らないのもおかしな話である。寝込みを襲われたのもイズクの居場所を知ってのことだと思っていたのに、イズクではなくルリリルを狙った。


「なぜルリリルを攫った」

「あの黒猫の亜人か? 別に……()()()()()()()()()()。ましてや《色無し》が連れている亜人だ。誰も気に留めんよ」


 この世界の生きる者全ては瞳に何かしらの色が彩られる。しかし《奇跡》を持たぬ者は決まって《黒》である。


 だがイズクの瞳が黒いのは《七虹(セブンスヘブン)》である《赫黒(あかぐろ)》をその身に宿しているから。亜人の瞳の色は様々だが、亜人という種の時点で《奇跡》を持たないため色は意味をなさない。


「人類を救済するための《聖女》が自身を護る聖女騎士隊に人攫いか……どうせロクなことではない。《第四位(あいつ)》も《第四聖女騎士隊(おまえたち)》も――」


 だが聖女騎士はイズクの苛立ちを前に気にも留めず、祈りを始める。甘い香りが辺りを包む。この匂いが、イズクとルリリルを眠りに落とした。


「お前がなんであれ危険だというのはわかっている。ここで――」


 しかしイズクはその《奇跡》が鼻孔を擽るより早く、指先を弾き爪先を飛ばしていた。鋭く尖った矢のように剥がれた爪が聖女騎士の手の甲を貫いていた。痛みによって一瞬動きが止まった。


「ここで? 殺すか?? 死ぬのは、お前なのに???」


 左腕の肘から突出した骨が瘴気を纏い刀身となり聖女騎士の首を切り落としている。《聖女》に加担する者は全て敵だ。


 ましてやイズクの大切な信者に手を出す時点で極刑は確定している。断罪という文字通り首を落とし、そのまま落ちた首を掴んで宿屋を出ようとしたが、


「悪いね、店主さん……片付けは任せたよ」


 イズクは懐から金貨を手掴みで台の上に置いて退出した。イズクにとって金の価値は零に等しい。廻廊に潜ればそこらに落ちている。無くなればまた回収すればいいだけの話だ。


 外に出る。


 星も見えない深い夜、宿屋の外には取り囲むように十数人の聖女騎士が待ち構えていた。


 ルリリルの姿が見えない。


「出迎えご苦労。さようなら」


 イズクの手に持たれた聖女騎士の首を見た残りの騎士たちが怒号を上げているが、怒りに満ちているのはイズクも同じだ。ルリリルを攫った愚者たちに対して行うべきことはただ一つ。鏖殺である。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆ 


 時間は数刻、遡る。


 ルリルルは聖女騎士の一人に無理やりに腕を引かれながら外へ連れ出された。


 外には複数の聖女騎士――そして騒ぎが気になり遠くから様子を伺う者たち。見世物のようにルリリルはそのまま押し倒され、地に転がる。大きな猫の耳に、黒い毛と瞳。顔がどれだけ人であっても周囲がルリリルに向ける視線は冷たいものだ。


 知っている視線だ。


 両親を喪い、すぐに奴隷商に捕まって馬車に乗せられ、誰もがルリリルを見る目は酷く厭な目だった。


 それと同じ馬車が、置かれている。


 中には同じようにルリリルのような様々な亜人の子供が乗せられている。


「……この子たちを、どうする――つもり、ですか……」

「お前が知る必要はねぇよ」


 そして短剣を持ったままルリリルを外へと連れ出した聖女騎士が脅すように刃先をちらつかせる。今にも頬に触れそうな刃を前にルリリルは恐怖で両目を閉じている。


 だけど、ここで捕まればイズクと離れ離れになってしまう。それだけは、それだけは嫌だとイズクは意を決して両目を開いた。


「なんだ? その目は……??」


 目を逸らさない。ルリリルはただジっと聖女騎士を睨み続ける。


 いつも諦めて、全てを受け入れていた。


 両親を喪ったあの日からルリリルの時間は止まってしまった。けれどイズクと出会えたことで地獄から解放された。またあの地獄へ還りたくない。どうすればいい。どうすればいい。この理不尽に立ち向かわなければならない。

 

 ならば、取るべき選択は一つだ。


「テメェ……!!」


 ルリリルは掴んでいた聖女騎士の腕に噛みつき、唐突な痛みにルリリルを払い除けた。


 だがそのおかげで自由になったルリリルはそのまま地面の砂を掴んで聖女騎士の顔にばら撒いた。視界が砂で塞がり、前が見えない。ルリリルはそれを好機だと悟り、すぐに村の外へ向かって走り出す。


 足早にそのまま森に向かって一目散に逃げようとした。だが亜人に腕を噛まれたということがその騎士にとっては侮辱であった。


 聖女騎士は手に持っていた短剣とは別にどこから取り出したのか片方の手にダガーを所持していた。そして悪態をついたまま闇雲に投擲していた。一本のダガーを投げたはずなのに、それは複数に分裂し、逃げるルリリルに向かって放出された。


「――――――づっ!!!?」


 狙いを絞らず放たれたダガーの大半はリリルルに当たることはなかった。しかし一本のダガーだけがルリリルの左肩に突き刺さっていた。鋭い痛みが左肩に奔り、視界がひっくり返るような錯覚に陥る。


 しかし息が止まりそうになりながらも、足を止めるなと――ルリリルは自分を鼓舞し、痛みに耐えながら森に向かってひたすらに走り続ける。


 他の者たちも追いかけようとしたが短剣を握り締める聖女騎士がそれを制する。


「さっさと馬車を出せ。他の亜人のガキは連れて行け。もういい、決めた……殺してやるよ。亜人が一匹減ったところで《第四位(せいじょ)》サマは気にしねぇだろ」


 そして馬車はそのまま行ってしまうが、森に逃げたルリリルを見据える聖女騎士は獲物を狩る猛禽類のような視線へと変貌した。


 ルリリルは走る。ただ、この理不尽から。


 左肩に刺さったままの刃が酷く痛い。血が滴り落ちながらも涙を浮かべたまま奥へ、奥へと。


 それを見て聖女騎士は(わら)う。


 血が道を作り、ルリリルの逃げた軌跡が出来ている。


 森の中へ逃げ込んだところで、必ず追い詰めて殺すと――その瞳は凶刃の如き鋭利さを帯びていた。

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