0/序章
――《奇跡》を知っているだろうか。
当然、この世界に生きる者ならば誰もが知っている――勇者の剣よりも多くを救い、賢者の魔法よりも多くを護ることが出来る女神が人々に与えた異能の力である。
だからこの世界に勇者も賢者もいない。倒すべき魔王もいない。それらは所詮おとぎ話の中の存在である。
だが人類史を脅かす生物を怪物に変える《堕天》と呼ばれる人の尊厳を死に到らしめる病のような事象が途絶えることなく数百年が経過してなお続いている。
そんなこの世界を穢す怪物たちを浄化するために『奇跡』が与えらえた人たちがいた。女神の寵愛は人類平等に誰もが奇跡を使えるように与えられている。
だがその中で更に強力な全てを救えるほどの奇跡を持った存在が生まれた。そんな女神に選ばれし救済の奇跡をその身に宿した人間は各地に赴き、世界の為に最も注力した乙女がいた。それを人々は《聖女》と呼んだ。
そんな或る日、前触れもなく人類史に腐れた竜を手引きし、世界を終焉に導こうとした歴史上最初の《魔女》が現われる。しかしそれは五人の《聖女》によって討ち倒された。
だが《魔女》は消えゆく最期の瞬間までこう呟いていたという「救われろ」と。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あれから十年以上が過ぎた……。
五人しかいなかった聖女たちも長い年月が過ぎ、新たな《聖女》が未だ人類史を守るため生まれては増えている。
だが、その裏側で《堕天》は未だこの世全てから消し去ることは叶わず増え続けていた……。
宙を見上げれば、欠けたままの月の傍らで黄金に輝くもう一つの月が人類を見下ろしている。
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