美人と満腹
コトッと小さく音をたて湯呑みを置く。
「ふぃー…」
「ふふっ、御粗末様でした」
食後のお茶を飲んでオヤジくさく一息つくあたし。そんなあたしに、柔らかい笑みでもって声をかけてくれたのはここの店主、早苗さん。
「あ、すみません。でもおいしかったぁ…あたし揚げ出し豆腐にハマりそう…あぁ和食って体に優しい」
「あら。お口に合ったようで何よりだわ。その口ぶりからして和食はあまり?」
「ええ。煮物とか子供の時は苦手で。だから一人暮らしはじめてからは和食なんて遠のいてましたよ。っていうより手料理事態からも、ですけど。お恥ずかしながら。」
仕事が忙しいと帰ってから作るのも面倒、しかも一人分、なんて全く優しくない。今時は買った方が時間も財布にもエコロジーなのだ。なんて言い訳してみたり。
「そうよね、あたしも和食の良さがわかったのは成人して大分経ってからだったわ。…やっぱり年取ると体が求めちゃうのね」
と、頬に片手を添えながらため息混じりに言う彼女。決して派手とはいえない、むしろ地味な、小袖に割烹着の姿。一昔前のおかぁーちゃんを連想させる。が、それは彼女の魅力をより一層艶かしく映す引き立て役。
―(美人だわー早苗さん。美人だ。なんでこんな田舎に美人?…いや、それはいいんだけれど。美人なうえに料理上手…グッジョブあたし!目指せ常連!) ―なんて心情を露とも出さずにあたしは口を開く。友人からも、もちっと表情出せや、なんて評価のあるポーカーフェイスで。
「いやいや、早苗さんあたしとさほど歳違わないんじゃないですか?…雰囲気的に年上かな?とは推察しますが…」
童顔、というわけではないけれど、下手すればあたしよりも2,3つ下に見える彼女。それでも年上かな?と思わせるのはやはりそれなりに人生経験を伺わせる落ち着きさ。仕草や言動だったりもね。「あらやだ、あたしにお世辞なんて言ってどうするの。ふふっ、でもありがとう」
「やっだーお世辞なもんですか、本当の事ですよ!…実際お幾つで?」
冗談半分好奇心半分で口を滑らしたあたしはこの時の早苗さんの笑顔を忘れない。そして二度と口にすまいと固く誓ったのは余談、だ。うん。