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第64話:神敵の烙印

神殿からの脱出。

それは安息の始まりではなかった。

より巨大でそして絶望的な戦いの始まりを告げる狼煙だった。

ゼノとフィオラは神殿の大階段の上に立つ。

眼下には狂信に満ちた数万の瞳。

その全てが憎悪と殺意をもって二人を睨みつけていた。


神々の宣告は絶対だ。

ゼノとフィオラは世界の秩序を乱す神敵。

彼らを討つことは正義。

彼らを討てば来世での栄光が約束される。

その甘美な響きは人々の理性を麻痺させ、狂信者の軍隊へと変えてしまった。


「……すごい歓迎じゃないか」

ゼノは神器を構えながら皮肉っぽく言った。

「ええ。悪くありませんわ」

フィオラも剣を構え不敵に笑う。

虚勢だ。

本当は足が震えている。

だがここで退くわけにはいかない。

二人は見つめ合った。

そして同時に眼下の敵の海へと向かって駆け出した。


「神敵に天罰を!」

「栄光は我らに!」

怒号の嵐が二人を飲み込む。

先頭に立つのは神殿を守護する聖騎士団。

その白銀の鎧が憎しみの色に染まって見えた。

無数の魔法が二人へと降り注ぐ。

聖なる光の槍。清めの炎。

だがその全てはゼノが掲げる神器の前に掻き消された。

神器は神々の力を打ち消す力を持つ。

皮肉にも神々を信じる者たちの力が、今、神器の絶好の餌食となっていた。


「道を開けろ!」

ゼノは神器を大きく薙ぎ払った。

神聖な魔力を打ち消す力の奔流が生まれ、聖騎士たちの陣形を吹き飛ばす。

その一瞬の隙間をフィオラが駆け抜けた。

彼女の剣はもはや貴族の舞ではない。

生き残るための一撃。

仲間を守るための一撃。

その剣閃は敵の鎧を紙のように切り裂いていく。


二人の連携は完璧だった。

ゼノが神器で広範囲の魔法を無力化し道をこじ開ける。

フィオラがその道を突き進み近接する敵を排除する。

彼らは巨大な軍隊の中を突き進む一本の鋭い矢だった。



だが敵の数は無限だった。

一人倒せば十人が現れる。

百人倒せば千人が殺到する。

その全てが死を恐れない狂信者。

彼らにとって死は来世への希望なのだから。


「……はぁっ、はぁっ……!」

フィオラの呼吸が乱れ始めた。

体力も魔力も無限ではない。

ゼノもまた神器の力を使うたびに魂を消耗していた。

二人の動きが少しずつ鈍っていく。

包囲網は徐々に狭まり、やがて二人は広場の中央で完全に足を止めてしまった。

四方八方全てが敵。

逃げ場はない。


「……これまで、ですわね」

フィオラが血に濡れた剣を握りしめながら呟いた。

その瞳に絶望はなかった。

ただ隣にいる仲間と共に最後まで戦えるという満足感だけがあった。

「……ああ。だが、ただで死んでやるつもりはない」

ゼノもまた神器を構え直す。

最後まで抗う。

それが規格外の魂の唯一の戦い方だった。


聖騎士団の団長がゆっくりと前に進み出た。

その手には巨大な聖剣が握られている。

「神敵よ。観念なさい。あなたたちの罪は、その魂の消滅をもってのみ、償われる」

絶対的な死の宣告。

ゼノとフィオラは互いに背中を預けた。

最後の戦いを覚悟したその時だった。



ドオオオオオン!!!

突如として、街の反対側で巨大な爆発が起こった。

聖騎士たちの陣形が大きく乱れる。

「な、何事だ!?」

彼らが混乱する中、次々と爆発が連鎖していく。

そして建物の屋根の上に、いくつもの黒い影が現れた。

見覚えのある黒いローブ。

魂狩りだった。


彼らはゼノたちには目もくれない。

ただ混乱する聖騎士団や神官たちを一方的に攻撃し始めた。

街はさらなる混沌の渦へと飲み込まれていく。


「……どういうことですの?」

フィオラが呆然と呟く。

敵の敵は味方。

だが、彼らが自分たちを助ける理由がない。

その時ゼノの脳内に直接冷たい思考が流れ込んできた。

それは魂狩りの指導者カインの声だった。


《――神敵ゼノ。聞こえるかね》

《君たちは今、我々と同じ場所に立った。神々という共通の敵を持つ場所にだ》

《我々もまた神々の作り上げたこの歪んだ輪廻を破壊することを目的としている。君たちが持つ神器は我々の理想のために不可欠な力だ》


カインの声は続く。

《このままでは君たちはここで終わる。それはあまりにも惜しい。だから取引をしよう》

《我々が君たちの逃げ道を作る。その代わり我々と共に来い。君たちの力を貸してほしい》

《敵の敵は友だ。違うかね?》


それは悪魔の誘いだった。

魂狩りは全ての魂を解放するという大義名分のもとに、無差別な魂の狩りを続ける狂信者の集団。

彼らと手を組むことなどできるはずがない。

だが。

このままでは確実に死ぬ。

神々の狂信者に殺されるか。

魂を狩る狂信者に利用されるか。

どちらも地獄だった。



「……どうするゼノ!」

フィオラが叫ぶ。

魂狩りが作り出した混乱は長くは続かない。

決断の時は今しかない。

ゼノはカインの思考に向かって答えた。

(……取引には乗らない。だが、あんた達が作ったこの混乱は、ありがたく利用させてもらう)


ゼノはフィオラの手を掴んだ。

「行くぞ!」

魂狩りが指し示した逃げ道ではない。

ゼノが自ら見つけ出した第三の道。

爆発で崩れた建物の瓦礫を駆け上がり、地下水道へと続くマンホールへと飛び込んだ。


聖騎士たちの怒号が遠ざかっていく。

魂狩りたちの気配も消えていく。

暗く汚れた地下水道の中、二人はようやく敵の手から逃れることができた。


だが安息は訪れない。

神々に神敵と認定され全世界から追われる身となった。

そして魂狩りからは共闘を持ちかけられるという最悪の状況。

彼らは完全に孤立した。

信じられるのは隣にいる仲間だけ。


「……これからどうしますの」

暗闇の中でフィオてオラが尋ねた。

「さあな」

ゼノは息を切らしながら答えた。

「だが一つだけ確かなことがある。俺たちはまだ生きている。そして戦う意志も失っていない」

彼は神器を強く握りしめた。

「世界中が敵だというなら面白い。その全てをひっくり返してやろうじゃないか」

その瞳には絶望を乗り越えた強い光が宿っていた。

神敵の烙印を押された二人の本当の戦いが今始まった。

彼らの前にはもはや道などない。

自分たちの手で道を切り拓いていくしかないのだ。

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