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第58話:聖域の番人

リィナを仲間をそして世界の偽りを正すため。

ゼノとフィオラは大陸の中心、全ての魂が集う場所、中央神殿へと向かった。

それは世界の理そのものへの挑戦。

そして神々から死を宣告された彼らにとって、処刑台へと向かう片道切符の旅だった。


旅は数週間に及んだ。

道中二人はほとんど言葉を交わさなかった。

だがその心はかつてないほど固く結ばれていた。

互いの覚悟は分かっている。

これから待ち受ける運命も。

その全てを受け入れ共に戦う。

その静かな決意が二人を支えていた。


そして彼らはついにたどり着いた。

地平線の彼方にそびえ立つ一本の巨大な白い塔。

それは天を突き神々の住まう天上界と大地を繋ぐ唯一の楔のようだった。

中央神殿。

そのあまりにも神々しい姿は見る者の信仰心を煽り、同時に抗うことのできない絶対的な力の差を感じさせた。


「……あれが」

フィオラが息をのむ。

「世界の心臓部」

ゼノは静かに頷いた。

神器が彼の背中で微かに共鳴している。

神々の力が満ちるこの場所を憎んでいるかのように。



神殿の麓は巨大な巡礼都市になっていた。

敬虔な信者たちが祈りを捧げ神官たちが厳かに行き交う。

その全てが偽りの神々への信仰だと思うとゼノはやりきれない気持ちになった。


神殿の正門は巨大な光の結界で守られていた。

全ての人間はその門を通る時魂をスキャンされる。

魂の歴史、信仰心、その全てを神々のシステムに審査されるのだ。

『魂歴による選別』。

ここを通れるのは神々に許された魂だけ。


「……無理ですわね」

フィオラが言う。

「わたくしの魂はすでに父やサイラスに背いた反逆者。そしてあなたはそもそも魂が存在しないことになっている。正面からは入れません」

二人は夜を待ち神殿の高い外壁をよじ登り内部へ侵入する計画を立てた。


その夜。

月明かりだけが頼りの闇の中。

二人は音もなく神殿の外壁に取り付いた。

だが彼らが最初の一歩を踏み出そうとしたその時だった。

「――どこへ行かれる迷える子羊よ」

静かでしかし有無を言わさぬ威厳に満ちた声が彼らの真後ろから響いた。

振り返るとそこに一人の老人が立っていた。

純白の神官服を身に纏いその目は慈愛に満ちた金色の光を放っている。

だがその穏やかな表情とは裏腹に、彼から発せられる魂の力はあの熾天使ガーディアンにも匹敵するほど強大だった。


「わたくしはこの聖域を守る者。神々の代理人枢機卿アウグストゥス」

彼は静かに名乗った。

「神々に仇なす異端者たちよ。あなたたちの罪深き旅はここで終わりです」

聖域の番人。

神殿の最初のそして最強の関門だった。



アウグストゥスは攻撃の構えを見せない。

だが彼がそこにいるだけで周囲の空間が歪む。

神聖な力が満ち溢れゼノとフィオラに重力のようにのしかかる。


「……下がっていろゼノ!」

フィオラが前に出た。

彼女の剣が閃光を放つ。

だがその渾身の一撃はアウグストゥスの数メートル手前で見えない壁に阻まれ霧散した。

「……!?」

「無駄ですよ剣聖のなり損ない」

アウグストゥスは悲しげに言った。

「ここは神々の庭。ここでは神々の許しを得ぬ力は全て無に帰すのです」

彼は手を掲げた。

地面から無数の光の鎖が現れフィオラの体を拘束する。


「フィオラ!」

ゼノが叫ぶ。

その時アウグストゥスの金色の瞳が初めてゼノを捉えた。

そしてその穏やかな表情が驚愕に変わった。

「……あなた。魂がない。いや違う。システムに登録されていないバグ。……なるほど。あなたが、あの規格外の」


そして彼の視線はゼノが背負う白銀の槍へと向けられた。

その瞬間アウグストゥスの表情から全ての感情が消えた。

代わりに宿ったのは異端者を裁く神の代行者としての絶対的な怒り。

「――神殺しの神器……! あってはならぬ禁忌の遺物!」

彼の怒りに呼応し聖域の力はさらに高まる。

「世界の秩序を乱すバグと禁忌の武具。二つのエラーが交わる時世界は崩壊する! そうなる前にここであなたたちを完全に消去パージします!」


アウグストゥスの体から神々しい後光が放たれる。

それはもはや防御ではない。

全てを浄化し消滅させる聖なる光の奔流だった。

絶体絶命。


その時ゼノは動いた。

彼はフィオラを拘束する光の鎖を無視しアウグストゥスへと真っ直ぐに突進した。

そしてその手に握られていたのは剣ではない。

あの神殺しの神器だった。


「愚かな! その禍々しい力が神聖なわたくしに届くとでも!」

「――届くさ」

ゼノは確信していた。

「こいつはそのために作られた武器なんだからな!」

神器の穂先がアウグストゥスの放つ聖なる光と激突した。

光と闇。

神々の秩序とそれに抗う人々の意志。

二つの相反する力がぶつかり合い凄まじいエネルギーの嵐が吹き荒れる。


その衝撃でフィオラを拘束していた光の鎖が砕け散った。

「……今ですわゼノ!」

フィオラが叫ぶ。

二人はこの一瞬の拮抗状態を利用した。

アウグストゥスを倒すことはできない。

だが突破口をこじ開けることはできる。


ゼノとフィオラは光の奔流の中心を駆け抜けた。

そしてアウグストゥスの脇をすり抜け神殿の敷地内へと侵入する。

「……逃がしはしませんぞ!」

アウグストゥスの声が背後から響く。

だが二人は振り返らなかった。


彼らは聖域の番人を辛うじて突破した。

そして神殿の内部へと続く隠された通用口を発見する。

番人が最後に残した言葉がゼノの耳に残っていた。

『愚かな者たちよ。あなたたちは自らより大きな地獄への扉を開けたのですぞ』


だがその言葉の意味を彼らはまだ知らない。

もう引き返すことはできない。

二人は覚悟を決めその小さな扉の奥へと足を踏み入れた。

神々の聖域、中央神殿。

その本当の戦いが今始まろうとしていた。

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