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第55話:星に歌う心臓

水晶の扉の向こう側。

それはゼノとフィオラの想像を遥かに超えた神聖な空間だった。

壁も床も天井もない。

まるで宇宙空間に直接放り出されたかのようだった。

無数の星々が手の届きそうな距離で瞬き、美しい星雲がゆっくりと渦を巻いている。


そしてその空間の中央に、巨大な心臓の形をした水晶が静かに浮かんでいた。

それはまるで生きているかのように穏やかなリズムで脈動し淡い光を放っている。

この山が奏でていた神秘的な歌声は、この水晶の鼓動そのものだったのだ。

『星に歌う山の心臓』。

伝説は真実だった。


その水晶の心臓の中心には、一本の白銀の槍の本体部分が封じ込められていた。

ゼノが持つ穂先と柄。

その二つと合わさることで初めて完成する最後の神器の欠片。

二人はそのあまりにも幻想的な光景にしばし我を忘れて見入っていた。


だがその静寂を破壊する者がいた。

「――見つけたぞ! 小僧ども!」

背後の扉から怒号と共に魂狩りの一団がなだれ込んできた。

彼らを率いる幹部はゴーレムとの戦闘で部下を失い激しく興奮している。

「よくも我らを出し抜いてくれたな! その神器は我々がいただく!」


最後の戦いの火蓋が切って落とされた。

だが戦場はあまりにも特殊だった。

暴力的な魂狩りの魔力とフィオラの闘気に反応し、山の心臓がその歌声を一変させたのだ。

穏やかな旋律は耳を劈くような不協和音へと変わる。

そして周囲の水晶の壁から無数の光の矢が放たれ始めた。

それは侵入者を無差別に攻撃するこの聖域の防衛システムだった。


「……っ、これでは戦えませんわ!」

フィオラは魂狩りの攻撃と壁からの光の矢を同時に捌きながら叫んだ。

戦場は混沌を極めている。

このままでは魂狩りと共に自分たちもこの防衛システムによって滅ぼされるだろう。


「フィオラ!」

ゼノが叫んだ。

「俺の時間を稼いでくれ! 俺がこの歌を止める!」

「……!分かりましたわ!」

フィオラはゼノの意図を即座に理解した。

彼女はゼノの前に立つと迫り来る全ての脅威から彼を守るための絶対的な盾となった。


ゼノは戦闘の喧騒から意識を切り離した。

彼は目を閉じ自らの魂の全てを山の心臓へと向けた。

彼は歌った。

扉を開いた時のあの古代の旋律を。

だがそれだけではない。

彼はその歌に自らの意志を乗せた。

リィナを救いたいという願い。

フィオラと共に生き抜きたいという誓い。

この世界の偽りを正したいという決意。


それは規格外の魂が奏でるたった一つのオリジナルの歌。

ゼノの魂の歌は山の心臓が奏でる古代の歌と共鳴した。

すると奇跡が起こった。

あれほど荒れ狂っていた山の心臓の歌がその不協和音を止め、ゼノの歌に合わせてその旋律を変えていったのだ。

それはまるで荒ぶる神が人の子の祈りに耳を傾けたかのようだった。



歌声が穏やかさを取り戻すと壁からの光の矢が止んだ。

そして山の心臓はその守りを解きゼノのために道を開けた。

水晶の心臓から一本の光の道がまっすぐにゼノの足元まで伸びる。

それは主を認めた聖域からの祝福だった。


「……馬鹿な。あのブランクがこの聖域を手懐けたとでも言うのか!?」

魂狩りの幹部が信じられないといった顔で叫ぶ。

ゼノはフィオラに一度頷きかけると、その光の道を歩き始めた。

そして彼はついに山の心臓の前にたどり着いた。

彼がそっとその水晶に手を触れる。

するとその中に封じられていた神器の本体が静かに彼の手の中へと滑り込んできた。


ゼノは自分が持っていた穂先と柄をその本体へと繋ぎ合わせた。

その瞬間、世界が光に包まれた。

三つの欠片が一つとなり神器がその本来の姿を取り戻したのだ。

それは一本の気高くそして美しい白銀の長槍だった。

その穂先は星の輝きを宿しその柄には古代のルーン文字が刻まれている。

神殺しの神器。

数千年の時を超え今その正当な主の手に還ったのだ。


その再誕の衝撃波は凄まじかった。

光の奔流が大広間を駆け巡り、残っていた魂狩りの戦闘員たちを一瞬で吹き飛ばし無力化する。

幹部の男もその圧倒的な力の前に為す術もなく壁に叩きつけられた。

「……ぐっ、これが神器の力。これが神を殺すための力……!」

彼は恐怖と恍惚の入り混じった表情で神器を見つめていたが、やがて部下を見捨て一人闇の中へと撤退していった。



戦いは終わった。

広間には静寂が戻る。

山の心臓は役目を終えたかのようにその歌声を止め穏やかな光を放っている。

ゼノはその手に完成した神器を握りしめていた。

その力は絶大だ。

だが今の彼には分かる。

この力は制御できる。

神器に宿る古代の英雄たちの魂はもはや彼を乗っ取ろうとはしない。

彼の意志を認めその力を彼に託したのだ。


フィオラが彼の元へ駆け寄る。

「ゼノ……!」

二人は顔を見合わせた。

そして共に笑った。

長かった戦い。

多くの困難。

その全てが今この瞬間に報われた。

彼らはついにリィナを救うための最大の希望を手に入れたのだ。


ゼノが神器を天に掲げる。

その輝きはまるで新たな夜明けの光のようだった。

彼らの旅は一つの大きな目的を達成した。

だがそれは終わりではない。

この神々の作った偽りの世界に本当の夜明けをもたらすための戦い。

その始まりの合図だった。

ゼノとフィオラは光り輝く神器と共に山の心臓部を後にした。

彼らの次なる目的地はただ一つ。

仲間が待つ場所へ。

そしてこの世界の全ての理が集まる場所。

中央神殿へと続く道が今開かれようとしていた。

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