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第52話:新たな旅立ち

砂漠を越え荒野を抜け二人の旅は続いていた。

ゼノとフィオラが目指したのはアストリア王国の東の国境に位置する中立商業都市リベルタス。

そこは王国の法も貴族の権威も届かない自由と混沌が渦巻く街。

追われる身となった彼らにとってこれ以上ない隠れ家だった。


リベルタスの門をくぐった瞬間、二人はそのエネルギーに圧倒された。

様々な人種が行き交い未知の言語が飛び交う。

屈強な傭兵たちが酒場で笑い抜け目のない商人たちが市場で声を張り上げる。

ここには魂歴を尋ねる者など誰もいない。

誰もがその過去を問わずただ「今」の力と富だけで評価される。

それはある意味で世界で最も公平な場所だった。


二人は街の片隅に小さな部屋を借りた。

そして彼らの新たな生活が始まった。

それはリィナを救うための準備期間。

そして自分自身を鍛え直すための時間だった。


ゼノの日課は街の外れにある古代遺跡で始まった。

彼は誰にも見られずただ一人あの不完全な神器と向き合う。

最初はそ強大すぎる力に触れることさえ恐ろしかった。

下手に力を引き出せば前の二の舞になる。

だが彼は諦めなかった。

毎日毎日彼は槍と対話した。

自らの規格外の魂を神器に流し込みその古代の意思と共鳴しようと試みた。


それは魂の綱引きのような作業だった。

神器に宿る神々への憎悪が彼の心を飲み込もうとする。

だがゼノは屈しない。

彼の心にはリィナを救うという揺るぎない目的があったからだ。

少しずつ本当に少しずつ。

彼は神器の力を制御する術を学び始めた。

槍を意のままに光らせること。

その重さを自在に変えること。

それはまだ赤子のような歩み。

だが確かな前進だった。


一方フィオラもまた自らの戦いを始めていた。

彼女は名を偽りリベルタスの地下に存在する非合法の闘技場にその身を投じた。

アストリア家の美しい剣技ではない。

『剣聖の魂』が囁く完璧な動きでもない。

泥臭くがむしゃらにただ目の前の敵を倒すためだけの剣。

それが彼女が選んだ新しい道だった。


最初は苦戦した。

魂が求める理想の動きと彼女の意志が食い違いその剣筋はちぐはぐだった。

負けもした。

地に膝をつく屈辱も味わった。

だが彼女の心は折れなかった。

負けるたびに彼女はより強くなった。

魂の声に頼らず自分の頭で考え自分の体で答えを見つけ出す。

その繰り返しの中で彼女の剣は次第に無駄が削ぎ落とされ、洗練された実戦の刃へと生まれ変わっていった。

それはもはや『剣聖』の模倣ではない。

フィオラという一人の剣士の紛れもない本物の力だった。



数週間が過ぎた。

二人は見違えるように成長していた。

ゼノの瞳には神器の力を受け入れた覚悟が宿り。

フィオラの佇まいには過去を乗り越えた本物の自信がみなぎっていた。

そして彼らは次の一歩を踏み出す時が来たことを知った。


リベルタスの裏社会を牛耳る情報屋。

ゼノは闘技場でフィオラが稼いだ金でその男から情報を買った。

彼らが求めていたのは神器の欠片に関する伝説。

あるいは魂狩りの動向。


「……『星に歌う山の心臓』ねえ」

情報屋から得た一つの古い伝承。

北の果て。

万年雪に覆われた極寒の山脈に空の星と共鳴し歌を歌う巨大な水晶が眠っているという。

それは神器の材料である星の欠片を示唆している可能性が高かった。

そしてもう一つ。

その北の山脈の古い地図を最近黒いローブの集団が高値で買い漁っているという情報も。

魂狩りだ。

奴らもまた同じ目的地に向かっている。


全ての準備は整った。

次なる目的地が決まった。

そして何よりも彼らにはもう迷いがなかった。

今の自分たちならどんな困難も乗り越えられる。

その確信があった。



リベルタスの街を出る朝。

空はどこまでも青く澄み渡っていた。

二人は北へと続く街道に立った。

その先には厳しい冬の世界が待っているだろう。

魂狩りとの熾烈な戦いも避けられないかもしれない。


だが二人の足取りは軽やかだった。

それは絶望的な逃避行ではない。

明確な希望へと続く新たな旅立ちだったからだ。


「行きましょうゼノ」

フィオラが微笑んだ。

その笑顔は太陽のように明るかった。

「ええ。わたくしたちの旅へ」

ゼノも頷き微笑み返した。

彼の心にはもう孤独の影はなかった。


魂を巡る壮大な物語は今新たな章へと入る。

リィナを救うため。

そして世界の偽りを正すため。

ゼノとフィオラの本当の旅が今ここから始まる。

彼らは未来へと続くその道を力強く歩き出した。

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