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第48話:ゼノの奇策

「神器ごとあの小僧を破壊しろ!」

ギデオンの狂気に満ちた号令が、崩壊しつつある異次元空間に響き渡る。

残った魂狩りたちが、感情のない戦闘人形となって二人へと殺到した。

フィオラは動けないゼノを背にかばい、剣を構える。

その美しい顔に絶望の色はなかった。

あるのはただ、仲間を、そして自分たちが掴み取った希望を、命に代えても守り抜くという鋼の覚悟だけ。


「……ゼノ、聞こえますか」

彼女は背後のゼノに、静かに語りかけた。

「わたくしが時間を稼ぎます。その間にあなただけでもお逃げなさい」

それは彼女の自己犠牲の精神の表れ。

だがゼノは、か細く、しかしはっきりとした声でそれを拒絶した。

「……馬鹿を、言うな」

彼は神器を握りしめたまま、ふらつきながらもその身を支えている。

神器から流れ込んでくる膨大な情報と力に、彼の精神は焼き切れ寸前だった。

だが彼の頭脳は、この絶望的な状況を覆すためのただ一つの活路を探し続けていた。


「……策がある」

「策ですって? この状況で……?」

「ああ。とんでもない奇策だがな」

ゼノは荒い息の下で、フィオラに囁いた。

その作戦はあまりにも単純で、そしてあまりにも無謀だった。


「……正気ですの?」

「正気で勝てるか」

フィオラの問いに、ゼノは不敵に笑って見せた。

その極限状況下での揺るぎない自信。

フィオラは一瞬ためらった。

だがすぐに彼女もまた、覚悟を決めた。

この男は、そういう男だ。

常識の外側で、奇跡を手繰り寄せる。

彼女はその奇跡に賭ける。

「……承知しました。あなたの無茶に付き合ってさしあげますわ」

フィオラの瞳に再び闘志の炎が宿った。



「――行きますわよ!」

フィオラが動いた。

だが彼女が向かったのは、迫り来る魂狩りたちではない。

全く逆。

この異次元空間を支えている、巨大な水晶の柱だった。

彼女はその美しい剣にありったけの魔力を込めた。

そしてその全力の一撃を、水晶の柱へと叩き込んだ!


ガシャアアアアアン!

凄まじい破壊音と共に、空間の支柱が砕け散る。

その瞬間、この異次元空間の均衡が完全に崩壊した。

床が消え、壁が剥がれ落ち、全てが中心の虚無へと吸い込まれていく混沌の渦が生まれた。

「な、何をする、小娘!」

ギデオンが驚愕の声を上げる。

自らの足場さえも破壊する自殺行為。

彼の論理的な思考では到底理解できない行動だった。

魂狩りたちも突然の事態に混乱し、その完璧な連携を乱した。


その混沌の中心で、ゼノが動いた。

彼は手にした不完全な神器を天に掲げた。

そしてそのありったけの魂の力を注ぎ込む。

神器は彼の意志に応え、太陽のように眩い光を放った。

ゼノはその光の中で絶叫した。

その声はギデオンの、そして全ての魂狩りの魂に直接響いた。

「――神器は制御不能だ! この空間ごと自爆するぞ!」


それは真っ赤な嘘。

今のゼノに、神器を完全に解放する力などない。

だがそのあまりの迫力と、神器が放つ本物の古代のエネルギーは、そのハッタリに絶対的な説得力を与えていた。


「……!?」

ギデオンの顔が初めて恐怖に引きつった。

科学者である彼だからこそ理解できた。

未知のエネルギーが暴走した時、何が起こるのかを。

彼の脳裏をよぎったのは勝利ではない。

自らの研究成果が全て無に帰すという、最悪の可能性だった。

「……退け! 全員撤退だ! 神器の確保を放棄し、ここから離脱しろ!」

彼のプライドよりも探究心よりも、科学者としての生存本能が勝った。



魂狩りたちが一斉に神殿の入り口へと殺到する。

その混乱。

それこそがゼノが作り出した唯一の逃走経路だった。

「フィオラ、今だ!」

ゼノはフィオラの手を掴むと、魂狩りたちの逆の方向へと走り出した。

彼らが目指したのは、崩壊する空間の壁の裂け目。

その向こう側にあるはずの、現実世界への出口だった。

二人は混沌の渦の中を駆け抜ける。

背後でギデオンが自分たちが騙されたことに気づき、怒りの絶叫を上げているのが聞こえた。

だが、もう遅い。

ゼノとフィオラは最後の力を振り絞り、空間の裂け目へと飛び込んだ。

体が引き伸ばされ、捻じ切られるような感覚。

そして二人は、地下神殿の硬い床の上へと叩きつけられた。

背後では異次元空間へと通じていた扉が、その役目を終え、永遠に閉ざされていく。


静寂が戻る。

後に残されたのは、ボロボロになった二人と、その手に握られた不完全な神器だけ。

ゼノはそこでついに意識を失った。

彼の奇策は見事に成功した。

だがその代償もまた、あまりにも大きかった。

フィオラは気を失ったゼノの体を支えながら、静かに息を吐いた。

彼女は勝ったのだ。

父の教えでも、魂の歴史でもない。

ただ一人の仲間を信じ、その無謀な賭けに乗ることで。

彼女は自らの手で未来を切り拓いた。


「……帰りましょう、ゼノ」

彼女は小さな声で言った。

「わたくしたちの帰るべき場所へ」

彼女はゼノを背負い、崩れかけた神殿を後にした。

その足取りは重い。

だがその心は、不思議なほど軽かった。

二人の旅はまだ終わらない。

だが彼らの絆は、もはや何者にも断ち切ることのできないほど、強く結ばれていた。

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