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第46話:地下神殿の封印

無法の国境地帯を抜けて、さらに北へ。

ゼノの胸元で輝く銀のロケットだけが、二人の道標だった。

彼らがたどり着いたのは、地図に載らない広大な砂漠地帯。

そしてその中央に、巨大なクレーターが口を開けていた。

遥か昔、星が落ちたと伝えられる場所。


「……ここなのか」

ゼノはクレーターの縁に立ち、その底を見下ろした。

幻視ビジョンで見た光景と同じだった。

砂に半ば埋もれた、古代の巨大な建造物。

それはもはや神殿というよりは、一つの都市のようだった。

二人は砂の急斜面を慎重に下り、その地下神殿の入り口へとたどり着いた。

一枚岩から削り出されたかのような巨大な門。

その表面には風化しかけた古代の文字が刻まれている。

『魂の眠る場所。神々の干渉を拒む聖域なり』


「……行くぞ」

ゼノが頷く。

フィオラは剣の柄を強く握りしめた。

二人が門を押し開けると、それは意外なほどあっさりと動いた。

まるで来訪者を待っていたかのように。

その奥には、どこまでも続くかのような長い長い階段が、闇の中へと続いていた。



地下神殿の内部は不気味なほど静かだった。

だが、空気は震えていた。

強大な魔力が渦巻いているのが、肌で感じられる。

二人は幻視で見た中央の大広間を目指した。

そして、彼らは見てしまった。

大広間の中央。

そこには幻視の通り、巨大な一枚岩の封印の扉がそびえ立っていた。

扉の表面には、無数の古代文字が光の鎖となって絡みつき、その奥にある何かを厳重に封じ込めている。

そしてその扉の前で、十数名の魂狩りたちが邪悪な儀式を行っていた。


「……ギデオン!」

ゼノはその中心にいる男の姿を見知っていた。

ソウルガードの資料で見た顔。

魂狩りの幹部の一人。『魂魄の外科医』の二つ名を持つ禁術の権威。

狂気の科学者、ギデオンだった。


「おお、素晴らしい! この古代の封印術式! 神々の技術のなんと美しいことか!」

ギデオンは恍惚とした表情で封印の扉を見つめている。

彼の周りでは部下たちが詠唱を続けていた。

その詠唱の中心には、いくつかの黒い水晶が置かれている。

その中には複数の魂が閉じ込められ、儀式のためのエネルギーとして消費されていた。

『魂の揺りかご』から奪われた魂たちだ。


「この封印を解き、神々の叡智をこの手で解析する。これこそ神への冒涜にして、科学の究極の探求!」

ギデオンの目的は神器ではなかった。

この封印そのものが彼の研究対象なのだ。

彼は部下たちに命じた。

「最終段階へ移行せよ! 全ての魂を注ぎ込み、封印を破壊するのだ!」



「――やめろ!」

ゼノは隠れるのをやめ、飛び出した。

フィオラもそれに続く。

「ほう。ネズミが紛れ込んでいたか」

ギデオンは初めて二人の存在に気づいたように振り返った。

その目は狂気と純粋な知的好奇心に濁っていた。

「規格外の魂と剣聖のなり損ないか。丁度いい。お前たちの魂も、この偉大な実験の糧としてやろう」

魂狩りの戦闘員たちが二人を取り囲む。

激しい戦闘が始まった。


フィオラが剣を振るい、道を切り拓く。

ゼノはその死角を補い、敵を的確に無力化していく。

二人の連携は完璧だった。

だが、敵の数も多い。

そして何より、ギデオンが続ける儀式が封印に影響を与え始めていた。

ビリビリと大気が震える。

封印の扉から、制御を失った膨大なエネルギーが漏れ出し始めた。

それは魂狩りにもゼノたちにも等しく襲いかかる、暴力的な力の奔流だった。

二つの敵。

ゼノたちは魂狩りと、そして暴走を始めた封印そのものと同時に戦わなければならなかった。


「ゼノ! このままでは神殿が崩壊しますわ!」

フィオラの悲鳴が響く。

その通りだった。

ギデオンの儀式と自分たちの戦闘が、最悪の形で封印を刺激してしまったのだ。

このままでは封印の中身が何であれ、全てがこの神殿ごと崩壊する。

ゼノは決断を迫られた。

彼は戦うフィオラに叫んだ。

「時間を稼げ!」

そして彼は一人、封印の扉へと走り出した。

漏れ出すエネルギーの奔流が、彼の体を叩く。

だが彼の魂は揺るがない。

《魂魄固定》が魂への直接的なダメージを防いでいた。

ゼノは封印の扉の中央へとたどり着いた。

そこにはノアのロケットと同じ紋章が刻まれている。

(……賭けるしかない)

彼は懐から神器の欠片と銀のロケットを取り出した。

そしてそれを扉の紋章へと強く押し当てた。

これが鍵であることに賭ける。

これがこの暴走を止める、唯一の方法であることに賭ける。



その瞬間、世界から音が消えた。

ゼノの魂と神器とロケット、そしてこの古代の封印が共鳴した。

魂狩りの邪悪な儀式の魔力が浄化されていく。

暴走していたエネルギーが静まっていく。

そして封印の扉に刻まれた光の鎖が、その輝きを変えた。

禍々しい赤色から、神聖な白色の光へと。


「な、なんだと!? 我が儀式が上書きされていく!?」

ギデオンが驚愕の声を上げる。

だが、変化はそれだけでは終わらなかった。

封印は静まった。

だがそれは再び閉じるためのものではなかった。

ゼノという正当な『鍵』の持ち主を認めた封印は、その役目を終えようとしていたのだ。

ゴゴゴゴゴゴ……。

神殿の全てが揺れるほどの地響き。

数千年の沈黙を破り、巨大な封印の扉がゆっくりと開き始めた。


「おお……! おお!」

ギデオンはその光景に狂喜した。

「開く! ついに神々の秘密の扉が!」

フィオラは息をのんだ。

そして、ゼノは覚悟を決めた。

自分たちが今、この瞬間に何を解き放ってしまったのか。

それはまだ分からない。

扉の隙間から純粋な光が溢れ出してくる。

それは希望の光か、それとも新たな絶望の始まりか。

地下神殿の封印は解かれた。

そして物語は新たな未知の領域へと足を踏み入れようとしていた。

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