表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/67

第42話:神殺しの神器

古代神殿で知った世界の真実。

その重い事実を胸に、ゼノとフィオラの旅は新たな局面を迎えていた。

もはやただの仲間を救うための旅ではない。

それは世界の運命を左右するかもしれない伝説の武具『神殺しの神器』を巡る、魂狩りとの熾烈な争奪戦の始まりだった。


胸元の銀のロケットがこれまで以上に強く、熱を帯びて輝いている。

それは二人の進むべき道を明確に指し示していた。

「……急ぐぞ」

ゼノの声には焦りの色が滲んでいた。

神殿に残されていた魂狩りの痕跡。

奴らもまた神器の存在に気づいている。

これは時間との戦いだ。


二人は険しい山道を昼夜を問わず進み続けた。

ゼノの野生動物のような鋭い感覚と、フィオラの常人離れした身体能力。

その二つが合わさることで、彼らは驚異的な速さで山脈を踏破していく。

そして数日後。

ロケットの光が最大になった場所。

二人はその異様な光景に息をのんだ。

そこは全ての木々が黒い石のように化石と化した、『石化の森』だった。

生命の気配が一切しない死の世界。

その森の中心には、ぽっかりと口を開けた巨大な火山の火口があった。

ロケットの光はその火口の底を指し示している。


「……なんという、禍々しい魔力」

フィオラが警戒に剣の柄を握る。

火口の底から濃密で原始的なエネルギーが、渦を巻いて立ち上っていた。

「ああ。だが、行くしかない」

ゼノの覚悟は決まっていた。

二人は互いに頷き合うと、慎重に火口の内壁を下り始めた。


火口の底は広大な黒い溶岩台地になっていた。

そしてその中央に、それはあった。

祭壇のように盛り上がった岩の上に突き刺さる、一本の巨大な槍の穂先。

それは黒曜石のようでもあり、星空を閉じ込めた水晶のようでもある、不思議な物質でできていた。

全体が淡い光を放ち、周囲の空間を歪ませている。

間違いなく、あれが『神殺しの神器』の欠片の一つ。


だが二人がそれに近づこうとした、その時だった。

ゴゴゴゴ……と地面が揺れ、祭壇の岩がその形を変え始めた。

それは岩ではない。

この火口の主。

神器の欠片を守護する古代の番人だった。

溶岩の体を持つ巨大なゴーレム、『黒曜の守護者』が、その巨体を起こし二人を敵として認識した。


「……来るぞ!」

ゼノの叫びと同時に、守護者が灼熱の腕を振り下ろしてきた。

フィオラが瞬時に前に出て、その一撃を剣で受け止める。

凄まじい衝撃。

だが彼女は一歩も引かなかった。

家の呪縛から解き放たれた彼女の剣は、以前よりも遥かに力強く、そして自由だった。


「ゼノ! あなたは援護を!」

フィオラが守護者を引きつける。

ゼノは冷静に戦況を分析した。

守護者の体は硬すぎる。

正面からの攻撃では歯が立たない。

弱点はどこかにあるはずだ。

彼は自らの思考を加速させる。

瞬間集中モーメント・フォーカス》。

守護者の動きがスローモーションに見える。

その巨大な体の中で、一際強い魔力を放つ一点。

胸の中心にあるコア

あれが弱点だ。

だがそれは分厚い装甲に守られている。


(どうすれば……)

ゼノが突破口を探していたその時。

火口の縁からいくつもの黒い影が飛び降りてきた。


「――魂狩り!」

フィオラが叫ぶ。

やはり奴らも追いついてきたのだ。


「フフフ……犬と猿が共食いをしている間に、漁夫の利をいただくとするか」

魂狩りの一団を率いる新たな幹部が嘲笑う。

彼らはゼノたちと守護者の戦いを、高みの見物と決め込むつもりらしい。

状況は最悪だった。

ゼノは決断した。

この膠着した状況を破壊する。

彼はフィオラに叫んだ。

「フィオラ! あの崖を見ろ!」

ゼノが指さしたのは、今にも崩れそうな脆い岩壁。

「奴らごと、あれを崩すぞ!」

「……正気ですの!?」

「正気で勝てる相手か!」


フィオラは一瞬ためらった。

だがすぐに、その口元に不敵な笑みを浮かべた。

「面白い! やってやりますわ!」

二人の呼吸が完全に一つになる。

フィオラが守護者の注意を引きつけ、大きく横へと跳躍する。

その一瞬の隙に、ゼノは岩壁の基部へと走り込み、そこにあらかじめ仕掛けておいた小さな爆薬を起動させた。

それは旅の途中で彼が自作した、ただの道具。

だが今、この戦況を覆す切り札となる。


轟音と共に岩壁が崩落した。

大量の岩石が魂狩りの一団へと降り注ぐ。

「なっ……!?」

魂狩りたちが混乱に陥る。

そしてその崩落は守護者の足元をもぐらつかせ、その巨大な体のバランスを崩した。

(――今だ!)

ゼノとフィオラは同時に動いた。

体勢を崩した守護者の胸のコアが、一瞬だけ剥き出しになる。

フィオラはそこに全霊の一撃を叩き込んだ。

彼女の剣がコアを貫く。

守護者は断末魔の咆哮を上げ、その溶岩の体は内側から崩壊し、ただの黒い石の塊へと変わった。


守護者が倒れたその中心に、あの槍の穂先が静かに浮かんでいた。

ゼノはそれに手を伸ばす。

指先が触れた瞬間、彼の脳内に遥か古代の神話の記憶が流れ込んできた。

神々への怒り。世界を守るという誓い。この神器に込められた人々の想い。

彼の規格外の魂が、神器の記憶と共鳴したのだ。


「ゼノ!」

フィオラの声で彼は我に返った。

岩石の中から抜け出した魂狩りたちが、怒りの形相でこちらへと殺到してくる。

ゼノは神器の欠片を強く握りしめた。

「――行くぞ!」


二人は神器を手に、火口から脱出するための道を駆け出した。

彼らの手の中には今、世界の運命を変える一つの可能性が握られている。

だがその代償として、彼らはより大きな闇に追われる宿命を背負った。

戦いはまだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ