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第28話:ゼノの仮説

ソウルガード最終試験、模擬任務は混沌の様相を呈していた。

ゼノは、リーダーであるオリヴァーのあまりにも実直すぎる指揮に内心で頭を抱えながらも、自らに課せられたもう一つの秘密の任務を遂行していた。

それはこの受験者たちの中に紛れ込んだ『裏切り者』を見つけ出すこと。


(……おかしい)

瓦礫の陰から他のチームの戦闘を観察しながら、ゼノは思考を巡らせていた。

裏切り者の目的がこの試験を妨害することであるならば、もっと分かりやすい破壊活動やサボタージュを行うはずだ。

だが敵の妨害は巧妙で、そして限定的だった。

まるで特定のチームの足止めをし、その戦闘能力を観察しているかのようだ。

先ほどフィオラとユリウスのチームを襲った想定外の警備ゴーレムもそうだ。あれは二人を倒すためのものではない。二人の高位の魂が極限状況下でどのような戦闘データを示すのかを、『観測』するための舞台装置だった。


そこまで考えた時、ゼノの脳裏にクロエの言葉が蘇った。

『彼らは、魂のデータマイニングをしていた』。

そうだ。

敵の目的は今も変わっていない。

この模擬任務は彼らにとって絶好の実験場なのだ。


ゼノの仮説が形を成していく。

――裏切り者の真の目的は、この試験の妨害ではない。この模擬任務の最終局面で生まれるであろう最大の混乱を利用して、目当てのエリート受験者の魂のデータをスキャン、あるいはその魂そのものを狩ること。

そして試験の最終目的である『情報奪取』は、そのための壮大なおとりに過ぎない。


(……ならば)

ゼノの口元に不敵な笑みが浮かんだ。

(その土俵に乗ってやる。そしてお前たちの計画ごと、この手で暴き出してくれる)

彼の頭の中で、危険だが唯一この状況を打開するための逆転の策が組み上がり始めていた。



「――目標、中央データバンクに到達した!」

各チームが苦戦の末、ついに最終目的地である巨大なビルの前に集結した。

だがその入り口は、強力なエネルギー障壁と無数の自動防衛タレットによって固められている。


「総員突入! 一斉攻撃を仕掛ける!」

ユリウスが功を焦り、叫んだ。

「待ちなさい! それは無謀です!」

フィオラが制止する。

受験者たちの間に再び不和の空気が流れる。

このchaoticな状況こそが、裏切り者が最も望む環境だった。


その混乱の中で、ゼノは動いた。

彼は正面の派手な戦闘からこっそりと離れると、ビルを迂回し裏手にある小さな通用口へと向かった。

そして通信機を手に取ると、全ての受験者に聞こえるように声を張り上げた。その声には意図的に興奮と焦りの色が込められている。

「――やったぞ! こちらゼノ! 正面のデータバンクはダミーだ! 本物の情報データは別棟の補助サーバルームにあった! 今俺がデータを確保した!」


それは真っ赤な嘘。

彼が見つけたのは、ただの空っぽの部屋だ。

だがこの一言が、戦場の全てのルールを塗り替えた。

試験の目的は『情報の確保』。

その情報を今、ゼノが独占した。

つまり彼を倒し、そのデータチップを奪えばこの試験の勝者となれる。

ゼノは自らの身を餌に、全ての受験者の欲望と、そして裏切り者の真の目的を炙り出すための巨大な罠を仕掛けたのだ。


「なんだと!?」

「あのブランクに手柄を独り占めされてたまるか!」

案の定、受験者たちの一部は正面の敵との戦闘を放棄し、ゼノのいる別棟へと殺到し始めた。

もちろんその中には、あの地味な平民の受験者レギスの姿もあった。



ゼノは補助サーバルームで静かに敵を待っていた。

やがてドアが開き、三人の受験者が入ってきた。

その中心にいたのは、やはりレギスだった。


「ゼノ君。よくやってくれたね」

レギスは穏やかな笑みを浮かべている。

「だけど、その重要なデータチップは君のような不安定な要素が持つべきではない。僕たちチームで管理させてもらうよ」

彼の両脇にいる二人の受験者も、じりじりとゼノとの距離を詰めてくる。彼らはレギスに上手く言いくるめられ、協力しているのだろう。


「……断る、と言ったら?」

「残念だよ」

その瞬間、レギスの表情から全ての色が消えた。

その瞳には人間的な感情ではない、まるで機械のような冷たい光が宿っていた。

そして彼の右手には、見慣れたあの禍々しい紫色の魂魄攻撃の光が灯り始めていた。


「まさか……お前が!」

レギスに協力していた二人の受験者が驚愕の声を上げる。

「――我が名はレギオン。魂狩りの一員にして、全ての魂を観測し記録する者」

レギス、いやレギオンは静かに名乗った。

「光栄に思うがいい、規格外のオンリーワン・ソウル。君のその特異な魂は、我々の大いなる解放計画の礎となる貴重なサンプルだ。ここで回収させてもらう」


その絶体絶命の状況で、ゼノはしかし不敵に笑っていた。

「……待っていたぜ、『レギオン』」



「――なに?」

レギオンが眉をひそめたその瞬間。

ガシャアアアアン! という轟音と共に、サーバルームの全ての出入り口が分厚いブラスト・ドアで完全に封鎖された。

ゼノが部屋に入る前に仕掛けておいたトラップだった。


「な、なんだと!?」

「罠か!」

状況の急変に、レギオンの仲間たちが動揺する。

部屋の照明が赤色の非常灯へと切り替わる。

そしてスピーカーから、冷静な女性の声が響き渡った。

「――初めまして、魂狩り『レギオン』。あなたの魂が発する特殊な波長は、学園の時からマーキングさせてもらっていたわ。私の仮説を裏付けてくれて感謝するわね」

クロエの声だ。


「……おのれ!」

レギオンは自分が罠にかかったことを悟った。

だが、彼はまだ余裕を失っていなかった。

「面白い余興だ。だが、この狭い部屋の中で俺から逃げられると思うなよ!」

彼はその紫の光をゼノへと向けた。

だがその攻撃が放たれるよりも早く、部屋の暗闇の中から二つの影が飛び出した。

一つは月光のように美しい銀色の閃光。

もう一つは世界の理を捻じ曲げる神秘の光。


「――そこまでですわ、裏切り者!」

フィオラの剣がレギオンの仲間の一人を打ち倒す。

「ゼノには、指一本触れさせない……!」

リィナの根源魔法がもう一人を完全に無力化する。


ゼノがフィオラに送った匿名の通信。

あれはただの警告ではない。

『敵の狙いは、お前たちだ。だが本当の舞台は別にある。合図をしたら、すぐにこちらへ合流しろ』。

彼はフィオラの判断力と自分への信頼に賭けたのだ。

そしてフィオラは、その賭けに見事に応えてみせた。


「……なるほどな」

レギオンは一人孤立しながらも、その冷静さを失っていなかった。

「全てはこの状況を作り出すための芝居だったというわけか。面白い。面白いぞ、規格外のオンリーワン・ソウル

彼はゼノを真っ直ぐに見据えた。

「だがお前たちはまだ分かっていない。俺は一人ではない。我々はレギオン。我々は、大勢なのだ」


その不気味な言葉と共に、彼の体がぐにゃりと歪んだ。

模擬任務は終わった。

だが、ソウルガードの本当の最終試験は、今まさに始まろうとしていた。

閉ざされた部屋の中で、魂に抗う者たちと魂を狩る者の死闘の幕が切って落とされたのだ。

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