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第22話:隊長ガウェイン・アームストロング

ソウルガード選抜試験、当日。

王都の外れに設けられただだっ広い練兵場には、国中から集まった百名以上の若者たちがその野心と緊張を隠そうともせずに剥き出しにしていた。

エリート意識に満ちた貴族の子弟たち。一発逆転を狙うハングリーな平民出身者。そして、そのどちらにも属さない数名の特異な存在たち。

ゼノとリィナはその集団の中でひときわ異質な空気を放ちながら、静かにその時を待っていた。


「ゼノさん! リィナさん!」

そこに人懐っこい声と共に、新生ニューボーンの少女ティナが駆け寄ってきた。

「いよいよですね! 私、緊張で昨日はあまり眠れませんでした!」

彼女の何の屈託もない笑顔は、この殺伐とした場所では場違いなほどに眩しい。


その時、練兵場の入り口がわずかにざわめいた。

受験者たちの視線が一斉にその一点に集中する。

登録終了時刻ぎりぎり。そこに現れたのは、フードを目深に被り、黒い旅人のような簡素な衣服に身を包んだ一人の少女だった。

彼女がフードを取る。

月光を編み込んだような美しい銀髪が、朝の光を浴びてきらめいた。


「フィオラ……様!?」

「なぜ、あなたがここに!? しかも、そのような庶民のような格好で……!」

特にユリウスをはじめとする貴族の受験者たちが、信じられないといった顔で声を上げる。

だがフィオラは彼らに一瞥もくれることはなかった。

彼女はまっすぐにゼノとリィナの元へと歩み寄り、その隣に当然のように立った。


それは言葉以上に雄弁な彼女の決意表明だった。

アストリア家の令嬢としてではない。一人の受験者『フィオラ』として、仲間と共にこの試験に臨むという静かな宣言。

ゼノとリィナは何も言わず、ただ静かに頷き彼女を迎えた。

三人の運命共同体が再びここに揃ったのだ。



「――ガッハッハッハッ! 威勢のいいヒヨコどもが揃ったようだな!」


全ての受験者が揃ったその時。

全ての音をかき消すような、腹の底から響く豪快な笑い声が練兵場に轟いた。

声の主は建物の入り口から、地響きを立てるような足取りで歩いてきた。

太陽を背に巨大なシルエットが近づいてくる。年齢は三十五歳ほど。歴戦の勇士であることを物語る無数の傷跡が刻まれた鋼のような肉体。その魂は、まるで燃え盛る太陽のように圧倒的な熱量を放っていた。

彼こそがこのソウルガードを率いる部隊長、ガウェイン・アームストロングだった。


「ようこそ、未来の英雄候補、あるいはただの死体候補の諸君! 俺がここの隊長、ガウェインだ!」

彼は受験者たちの前に立つと、ニカッと獰猛な笑みを浮かべた。「まず最初に言っておく! ここではお前たちのその上等な家柄もピカピカの魂歴も、クソの役にも立たねえ!」


そのあまりにも粗野な言葉に、貴族の受験者たちが色めき立つ。

「お前らのご先祖様が『伝説の英雄』だろうが『大魔導師』だろうが知ったことか! 俺が知りたいのはただ一つ! 『お前自身』は戦えるのか? 隣の仲間がぶっ倒れた時、そいつを守れるのか? 半殺しにされても次の日、ツラ汚してまた立ち上がってこれるのか!? それだけだ!」


ガウェインの言葉は雷のように若者たちの心を打ち抜いた。

それは魂の歴史を絶対とするこの世界の常識を根底から覆す、あまりにも過激な理念。

だがその言葉には、数多の死線を乗り越えてきた者だけが持つ圧倒的な説得力があった。



ガウェインは値踏みするように受験者たちの顔を一人一人見渡した。

ユリウスのような自信に満ちたエリートの顔。

ティナのような希望に満ちた新生ニューボーンの顔。

そして彼の視線は、やがてひときわ異彩を放つ三人の一団の上で止まった。

貴族の頂点に立つはずの令嬢が、なぜか庶民の服を着て決意の顔でそこにいる。

その隣には、今にも倒れそうなほど儚げな少女。

そしてその中心に、全ての視線を平然と受け流す空っぽの魂を持つ少年。


「……お前か」

ガウェインは他の受験者たちを押し分けるようにして、まっすぐにゼノの前までやってきた。

「あの性悪女狐のイライザが『面白いオモチャを見つけた』と推薦状を寄越してきた『ブランク』だな」

彼はゼノの顔を覗き込むようにして、にやりと笑った。

「見たところ大したことねえな。高貴な魂が持つ独特の輝きもねえ。ご先祖様のカビ臭い匂いもしねえ」


そのあまりにも不躾な物言いに、周囲が固唾をのむ。

「小僧。単刀直入に聞く。てめえは何でソウルガードに入りてえ?」

ガウェインの真剣な目がゼノを射抜いた。

「出世のためか? 金か? それとも『ブランク』でもやれるってことを世間に証明してえのか?」


ゼノはその圧倒的な覇気を前にしても一歩も引かなかった。

彼はただ真っ直ぐにガウェインの目を見つめ返すと、静かに、しかしはっきりと答えた。

「……守りたいものを守れるだけの力が欲しい。そして、生き残るため。それ以上でも、それ以下でもない」


その答えを聞いた瞬間、ガウェインは一瞬きょとんとした顔になり、やがて腹を抱えて今日一番の大声で笑い出した。


「――ガッハッハッハッハ! 気に入った!」

その笑い声は練兵場全体を震わせた。「最高じゃねえか、その答え! 栄誉だの忠誠だの、くだらねえ建前は一切なしか! ただ守るため、そして生き残るため! いいぞ小僧! そういう正直でハングリーな奴こそ、本当の戦場で最後まで生き残るんだ!」


ガウェインはゼノの肩をバーン! と力任せに叩いた。その衝撃にゼノの体がぐらりとよろめく。

「よく聞け、ブランク! 俺はお前を特別扱いするつもりはねえ。だが注目はしてやる。家柄も過去の栄光もねえ、てめえ一人の力がどこまで通用するのか、この俺に見せてみやがれ!」



ガウェインは満足そうに頷くと、再び受験者全員に向き直った。

その顔から笑みが消え、一人の指揮官の厳しい顔つきへと変わる。


「さて、てめえら! 無駄話はここまでだ! これよりソウルガード選抜試験、第一次試験を開始する!」

彼の声が響き渡る。

「お前たちをこれから本物の『地獄ミートグラインダー』に叩き込んでやる。そこでてめえらの魂が本物かメッキか、見極めさせてもらう!」

彼はニヤリと口の端を吊り上げた。

「ルールは簡単だ! 『生き残れ』! ただそれだけだ! 途中で『来世で頑張ります』なんつって泣き言を言った奴は、その場で即不合格だ! いいな!」


ゴゴゴゴゴ……と重い音を立てて、練兵場の奥にある巨大な転移ゲートがその口を開いた。ゲートの向こう側は禍々しい瘴気が渦巻く暗闇が広がっている。

恐怖に顔を引きつらせる者。

武者震いに体を震わせる者。

そして決意に瞳を燃やす者。

受験者たちの様々な想いが交錯する。


「さあ行け! 未来のソウルガードども! 試験開始だ!」


ガウェインの号令を合図に、若者たちは一斉に地獄の入り口へと駆け出した。

ゼノ、フィオラ、リィナは互いに一度だけ強く頷き合うと、その流れの中へと身を投じた。

三人の本当の力が、そして絆が試される時が来たのだ。

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