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エピローグ?: 動き出す世界

王立転生学園を震撼させた、二度にわたる魂狩りの襲撃事件。

その嵐が過ぎ去った学園には、表面的な平穏が戻り、季節は、一つの学期の終わりを告げようとしていた。

だが、あの事件が残した波紋は、決して消えることなく、世界の水面下で、静かに、しかし確実に、大きなうねりへと変わり始めていた。


その変化の中心にいる三人は、あの日、共に勝利を掴んだ時計塔の鐘楼に、再び集まっていた。


「わたくしは、王都へ戻ります」

最初に口火を切ったのは、フィオラだった。その表情には、もう以前のような迷いはない。

「父と、アストリア家と、向き合わなければなりません。そして、わたくし自身の剣の道を、この手で切り拓くために」

彼女は、ゼノとリィナを見つめた。

「あなたも、来るのでしょう? ソウルガードへ」


「ああ」とゼノは頷いた。

「俺も、王都へ行く。グッドマン教官の誘いを受けるつもりだ。残された謎を、このままにしてはおけない。それに……」

彼は、隣に立つリィナに、穏やかな視線を向けた。

「……守りたいものを、自分の手で守れるくらいには、強くならなくちゃいけないんでな」

その言葉に、リィナは、幸せそうに微笑んだ。

「私も、行くわ。ゼノのいる場所が、私の『今』だから」


三つの視線が、交差する。

そこに、かつてのような隔たりは、もうない。

『ブランク』、『剣聖』、『無限輪廻の少女』。

それぞれの呪いを背負った三人は、今、同じ未来を見据える、揺るぎない仲間となっていた。

彼らは、この学び舎を離れ、より大きな世界の荒波へと、共に漕ぎ出すことを決めたのだ。

学園での物語は、一つの終わりを告げ、新たな旅立ちの章が、始まろうとしていた。


同時刻。学園長室。

イライザ・マーロウは、天井に映し出された、巨大な魂の天球儀を、満足げに見上げていた。

無数に輝く魂の星々の中で、ひときわ強く、そして異質な光を放つ三つの星が、ゆっくりと、一つの流れとなって動き始めている。


「行きなさい、私の愛しい『バグ』たち」

彼女は、まるで、舞台上の役者に語りかけるように、独り言ちた。

「盤上の駒は、揃った。さあ、神々の退屈なゲーム盤を、存分にかき乱しておくれ。君たちが創り出す、誰も見たことのない、筋書きのない物語ネクストライフを、この私に、見せておくれ」

その口元に浮かぶ笑みは、聖母のようでもあり、悪魔のようでもあった。

彼女の視線は、三人の少年少女の、遥か先。この世界の理を創り出した、天上の観測者たちへと向けられていた。

世界は、彼女の望み通りに、動き始めたのだ。


一方、大陸のどこかにある、魂狩りの拠点、『解放区』。

薄暗い聖堂の中で、先の襲撃でゼノに腕を砕かれた、仮面の『処刑人』が、一人の男の前に、膝をついていた。

玉座に座る男は、白銀の髪を持ち、その瞳には、狂信的なまでの理想と、全てを見透かすような、深い知性が宿っていた。

彼こそが、魂狩りの指導者、カイン 。


「申し訳ありません、カイン様。例の『鍵』の捜索は、失敗に終わりました。そして……」

処刑人が、忌々しげに報告を続ける。

「学園にて、規格外のオンリーワン・ソウルに遭遇。我々の魂魄干渉が、一切通用しない、イレギュラーです」


「……規格外の魂」

カインは、その報告に、怒るでもなく、ただ、興味深そうに呟いた 。彼の隣に立つ、人形のように無表情な少女、エヴァが、その言葉に、かすかに反応を示した 。



「神々の汚れた輪廻に染まっていない、純粋な魂か。面白い。彼は、我々の『解放』の、最大の障害となるか、あるいは、最高の協力者となるか……」

彼は、手元のデータ端末に視線を落とした。そこには、最初の襲撃でスキャンした、何百人分もの、不完全な魂のデータが並んでいる。

「『鍵』の在り処は、依然、不明。だが、我々の計画に、変わりはない。全ての魂を、苦しみの輪廻から解き放つ。その大義のためならば、我々は、いかなる犠牲も厭わない」

カインは、立ち上がった。

「その『規格外』の名は?」

「……ゼノ、と」

「ゼノ、か。覚えておこう。世界の歪みが生んだ、その孤独な魂に、いずれ、我々の理想を説く日が来るかもしれない」

彼の瞳の奥で、静かな、しかし、より巨大な計画の炎が、燃え盛っていた。


そして、その波紋は、王都アストルにも、届いていた。


アストリア公爵邸。

当主ゲオルグ・フォン・アストリアは、学園から届いた報告書を、苦々しい表情で握りつぶした。

「……愚かな娘め。自らの責務を忘れ、あろうことか、『ブランク』の小僧とつるんで、王都に戻るだと?」

彼の脳裏に、フィオラの新たな婚約者として定めた、公爵家嫡男、サイラス・フォン・ヴァレンシュタインの、冷徹な顔が浮かんだ 。



「もはや、フィオラに、アストリア家の未来を任せることはできん。こうなれば、サイラス殿の力を借りてでも、家の秩序を、正さねばなるまい……」

娘への情よりも、家名と伝統を重んじる彼の決断は、フィオラの未来に、新たな嵐が吹き荒れることを、予感させていた。


時を同じくして、王都のソウルガード本部。

戦術教官アーサー・グッドマンが、一枚の推薦状を、机に叩きつけて、豪快に笑った。

「来たぞ、クロエ! あの、クソ面白い小僧が、ついに、俺たちの巣にやってくる!」

その向かいで、天才解析官クロエ・ラングが、眼鏡の奥の瞳を、きらりと光らせた。

「待ちわびていましたわ。世界で唯一の『規格外の魂』。私の、ありとあらゆる測定器で、彼の魂を、丸裸にしてあげるのが、今から楽しみで仕方ありません」

新たなる才能サンプルの到来に、二人の、変人じみた専門家たちは、腕を撫していた。


数日後。王立転生学園の、正門前。

ゼノ、リィナ、そしてフィオラは、旅立ちの時を迎えていた。

見送りに来たのは、レオだった。

「ゼノ! 絶対、死ぬんじゃねえぞ! 俺も、もっともっと強くなって、いつか、必ず、お前たちの隣に立てるようになってやるからな!」

その言葉に、ゼノは、ふっと笑った。

「言ってろ。俺には、死ぬなんて選択肢はないんでな」


三人は、一度だけ、学び舎を振り返った。

多くの出会いと、戦いと、別れがあった場所。

彼らの、物語が始まった場所。

そして、彼らは、前を向いた。

門の先には、王都アストルへと続く、長い、長い道が伸びている。

その道が、どんな過酷な運命へと続いていようとも、もう、彼らは恐れない。


なぜなら、彼らは、もう、一人ではないのだから。

世界の片隅で、それぞれの孤独を抱えていた少年少女たちの、抵抗の物語は、ここで、一つの幕を閉じる。

そして、世界の理に、運命に、そして神々にさえも、抗うことを決めた、三人の仲間たちの、本当の戦いの物語が、今、まさに、始まろうとしていた。

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