3.いつの間にかデートに
ドレス選びが終わり、時刻はまだお昼。
少しお腹空いたなぁ。
「メル。そろそろお腹空きませんか?」
「アクア様……そうですね、ちょっとお腹空いたかもしれません」
ド直球に言う訳にもいかず、遠慮がちに伝えれば再び手を差し伸べてくるアクア様。まだ5歳よ?なのになんでこんなにエスコートが完璧なのかしら。やっぱり第一王子だから?
「では、行きましょう」
「え……?どちらへ……?」
そう聞き返してもアクア様は何も言わず、そのまま私の手を引いて歩き出す。護衛が慌てて着いてくるけれど、行き先は分からず。
ここは大人しく着いていこう。もしここで何か間違えてしまったら。それこそお先真っ暗だわ。
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しばらく歩いた後、着いたのは小さな食事処。下町の人達がよく利用していそうな。そんな雰囲気のお店。
アクア様は躊躇う事無く扉を開ける。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
店員のおば様に案内され、受け付け近くの席へと向かうアクア様に必死に着いていく私。護衛は少し離れた席へ着席した。
「あの……アクア様。ここは……?」
「僕がいつもこっそり来ている食事処です。美味しい料理がたくさんあるのでメルも気に入るかと」
そう言いながらニコニコ私にメニュー表を渡すアクア様。いつもこっそり下町まで来ているのね。知らない事が知れて少し嬉しい気もする。
「僕のオススメはこれです。エッグチキンと言うらしいですよ」
アクア様が指し示した所には、オムライスらしき絵が描かれている。この世界では初めて見るけれど、エッグチキンと言うのか。また1つ知識を蓄えた。
「では、それにしますわ。注文は……」
「僕がします。すみません」
「ご注文お決まりですか?」
アクア様が声をかけると、先ほど案内してくださったおば様がやってきた。アクア様の注文を紙にメモしてお待ちくださいと告げた後、裏に戻って行った。
「メル、楽しみですか?」
「えっ……?はい、初めて食べるので少しドキドキしていますわ」
不意に問いかけられ、驚きながらもなんとか返事をする。でないとアクア様に嫌われて暗殺されてしまうかもしれないもの。
そんな私の内心など露知らず、アクア様はニコニコと私を見つめている。
「メルが知らない事は僕が教えてあげます。だから、他の人に聞いてはダメですよ?」
「ええと……それはどういう……?」
戸惑っていると、注文した料理・エッグチキンが2人分運ばれてきた。美味しそうな卵に赤いソース。ケチャップかしら?やはりオムライスと言っても良さそうな料理に私は胸が弾んだ。
「では、食べましょうか。いただきます」
「い、いただきますわ」
早速スプーンを入れると、ふわふわとした卵に中にはケチャップライス。これはどこからどう見てもオムライスだわ。そんな事を言おうものなら変な目で見られるのは確実だから黙っているけれど。
口に運ぶと甘い卵に程よい塩加減のケチャップライスが合わさって。とても美味だわ。ここの料理はきっと他の物も美味しいのでしょうね。
私は美味な料理に集中してしまい、先ほどまで感じていた違和感を忘れてしまっていた。