ベランダから始まるニチア(ラ)サ(ー)物語
「さぁて、久しぶりの休みだし、これ干して出掛けるか~」
久々にゆっくり服でも見に行こうか--って……ん?
「--ぬいぐるみなんて干した記憶無いんだけど……」
洗濯物を干そうとカーテンを開けると、ガラス越しに見えるベランダの縁に、薄ピンク色のもふもふがぶら下がっていた。
ここはマンションの5階。
投げ込まれた等とは考えにくいから、上階に住む誰かの落とし物だろうか?
そう思って、ガラス扉を開けベランダに踏み入った瞬間だった。
「--っ!?」
「ぎゃぁあ!」
弾かれたように顔を上げたピンクの熊と目が合った私は、悲鳴を上げながら後ずさる。
「ぎゃあって……もうちょっと可愛い反応は無かったクマ?」
「うっさいわ! アラサーの社畜に何求めてんだ!」
そりゃアタシだって、さっきのは乙女としてちょっとどうなのよ……って思ったよ?
でも、他人から言われるのは……っつーか--
「--シャベッタァァァ!?」
「反応が鈍いクマ。 神様……ホントにこの人で大丈夫なのクマ……?」
ボソッと言われたからちゃんとは聞こえなかったけど、とりあえずディスられた事だけはわかったよクソァ!!
「なんなのよ、このさっきから一々失礼なクマは!」
「僕は神様の遣いクマ。 人間界で聖力を持つ人を探して、ラレッカーの侵略を防ぐために契約して貰うのが役目クマ」
……ほ~ん。
これは、あれか?
日曜の朝に良くやってるやつ。
変身して悪と戦う魔法少女的な?
「……ん? だったら何でベランダで干されてんのよ。 さっさと魔法少女探しに行きなさいよ」
「いや、対象者はもう見つかったクマ」
あ、そうなの?
「こう言うのは、様式美も大切クマね。 コホン--僕と契約して魔--」
「--言 わ せ ね ぇ よ !?!?」
スッと立ち上がり、咳払いをしてから、右手を差し出したクマの言葉を遮り、両手でその顔を掴み上げた。
「ちょっ、何するクマ!?」
「お前こそ何してんの! 魔法少女ってのは“少女”だからいいの! 間違ってもアラサーのババ--ゲフン--お姉さんがなるもんじゃないの!」
大体この歳であんなヒラヒラした可愛い衣装着ろって?
どう考えてもイタァいコスプレイヤーにしかならんだろ!
「何言ってるクマ? 僕と契約すれば魔女として戦えるように--」
「--やってラレッカー!」
「そんな!? もうここまでラレッカー達の浸蝕が!? もうこうなったら力ずくクマ!」
両手を掲げたクマが放った強烈な光を浴びて、私は意識が遠のいて行くのを感じるのだった。