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オータニじゃないショーヘイとイッペイ

 翌日私はニャームズを説得し、彼をカバディー会場へ連れて行った。

 私はこの夏のスタンダードになった麦わら帽子とバック代わりの猫サイズの虫かご。

 ニャームズはこの暑いのにハンチング帽に黒のコートを着ていた。

 

「僕は今、世界的な事件と向かい合っているのだ」とごちゃごちゃ言っていたが、電車に乗りスタジアムに近づくにつれて機嫌が良くなり、私が虫かごからとりだしたおやつのゼリーを食べるとご機嫌になり、ジャズのメロディーを奏でたりオペラを歌い出した。

 天気のいい日のお出かけは猫人間問わず楽しいイベントなのだ。

 人間と違い。私たちは電車もスタジアムの入場料もタダだ。

 これが楽しくないはずないだろう?


「COINを置こう」


 ニャームズはイギリスペンスコインをスタジアム前の茂みに隠した。

 ここも彼のCOIN.IDスポットだったらしい。

 ニャームズのIDを知る動物がこのCOINを見たらどう思うのだろう? ニャームズがCOINを教えるぐらいなのだから、とても頭の良い動物だろう。

 それは私が想像しても仕方がないという事だ。


「じゃあ行こう」


 たくさんの人間が溢れかえる縁側スタジアムの入口をくぐり抜け観客席に移動する。

 本拠地縁側スタジアムでエンガワスがどんなプレイを見せて……いや魅せてくれるかが楽しみである。


「おっ? 来たかにゃんコロ。ん? 今日は友達もいるのか?」


 やっぱりノモ・ヒデオも来ていたか。

 ニャームズの推理通りの太り気味で怒りっぽい猫好きの男。

 ノモは今日も私にフランクフルトを食べさせようとして来たが、ニャームズが私の猫背を肉球でグググと強めに押してきたので断った。

 まぁいいだろう。探せばどこかに唐揚げの欠片ぐらいどこかに落ちているだろう。


「食わんのか? 珍しいな? ダイエットか? おっと選手入場だ!」


 大型モニターで『エンガワスVSヤン魚ーヤンキースの戦いの歴史』の煽りVTRが流れるとまずはヤンキースの選手達が子供達と手を繋ぎ、入場してきた。

 入場曲は電気グルーヴで『シャングリラ』。

 サビでの『Kiss』連呼に合わせて観客が手拍子をして選手たちの闘志を高める。

 

「悪くない」


 ニャームズはすました顔で足を組んでいたが、興奮しているのが分かった。

 何度も舌なめずりをして音楽に合わせ首を揺らしている。


『エンガワス入場!』


 流石にホームだ。歓声が凄い。

 入場曲は中村あゆみの『翼の折れたエンジェル』。

 折れちゃだめだろなどという無粋なツッコミは無しだ。

 

「おいニャトソン。彼は……?」


「気がついたか? あれがシューヘイさ!」


 エンガワスの選手の中に一際背の高いサングラスの青年。

 隣にはラブラドールレトリバー。

 

「……まさか」


「そう。彼は『盲目』さ。あの犬はシューヘイの相棒のイッペイだよ」


「驚いたね!」


 盲目の選手が一般選手に紛れているのは不思議な光景で誰もが一度は驚く。

 そしてこう思う。


『盲目の選手がドジョー・リーグで戦えるのか?』と。

 

 ニャームズもそう思っているに違いない。  

 だが、彼のプレイをみればそんな疑問は吹っ飛ぶ。

 それどころか彼の魅力に『やられて』しまうだろう。

 シューヘイは試合前の僅かな時間をイッペイと話をして過ごしている。

 シューヘイは相手チームの選手の名前、身長体重。プレイスタイル。生格。クセなどを全て過去の試合からデータを取り。丸暗記していると私が教えるとニャームズはまた驚いた。

 自分より頭の良いやつを驚かせるのは気分が良い。

 凄いのは私ではなくシューヘイだが。


 コイントスの結果。試合はエンガワスがレイダー(攻め)でスタート。

 ヤンキースはアンティ(防御)の姿勢を取る。

 試合開始のブザーがなった。


『シューヘイ! ヒイイズアメージングワン!』


 おお。海外の実況者まで来てるじゃないか。

 

「……カバディーカバディーカバディーカディーカバディー」


 シューヘイはチャント(攻撃中カバディーと言い続ける事)しながらゆっくりと中央ラインを跨ぎ、相手チームの陣地に侵入した。

 これからマッチョ達が襲ってくるというのに半笑いだ。

 

「いくぞ!」


「おおっ!」


 シューヘイを止めるべく、6人がシューヘイを取り囲む様に一斉に襲いかかる。

 

「……あれ?」


 私たちはある程度離れているから分かるが、選手たちはまだ気がついていないだろう。

 シューヘイはすでに相手陣地の最後尾ラインにいた。

 敵地のより奥に侵入すればポイントは上がる。


「馬鹿めっ! だが我々にタッチして自分の陣地に戻らなければ得点にはならんぞー!」


「……」


 シューヘイの顔から笑みは消えない。

 まるで蜃気楼か陽炎だ。

 シューヘイの姿が歪んだと思ったらもうすでにシューヘイは自分の陣地にいる。


「……えっと」


 審判もどうしていいか分からずキョロキョロしている。

 審判からしたら瞬間移動を見ている要なものだ。

 シューヘイが相手にタッチしたかどうかも分からない。


「……ちっ!」


 そこは流石に名門ヤンキース。

 全員が手を挙げてタッチされたと申告した。

 彼らのスポーツマンシップに拍手だ。


『シューヘイ! Ultra instinct!』


 会場の盛り上がりは半端ではない。

 無理もない。いきなりの全滅だ。


『シューヘイ! シューヘイ! シューヘイ! シューヘイ!』


 大シューヘイコール!


「あれは……身勝手の極意」


 ニャームズは呟いた。



 






 

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