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最終回前編ーニャームズの名推理ー

「イッペイ。そこから先は危ないよ」


「シューヘイ。今日はお母さんの所へいかないか?」


「……タクシーを」


「行けるよ。だって君は目が見える」


「……イッペイ」


「行こう」


 シューヘイはサングラスを外して捨てた。


 シューヘイとイッペイはガードレールを乗り越え、道路を走って渡った。

 この道路の先はシューヘイタウンの外。

 言葉は通じていないのに通じ合っている不思議だなぁ。


「やはりシューヘイを救えるのはイッペイだけだった。そしてシューヘイは救われる為にまたイッペイに拐われた。悲劇にて喜劇だね」


 イッペイを説得したのはニャームズだった。

 シューヘイの嘘や町の住人達の嘘を知り、何よりジブンハウス盲導犬でないと知ったイッペイは動揺したが、最終的にシューヘイの嘘を断ち切る作戦に頷いてくれた。

 『盲目のスター』として生きてきたシューヘイはこれからどれだけのものを失うのだろう?

 盲目のスターだからこそエンガワスは彼に金を払い、盲目のスターだからこそファンはグッズに金を落とし、盲目のスターだからこそドジョースは彼に払おうとした。

 賠償金とやらも発生するだろう。

 お金は大丈夫だろうか?

 シューヘイタウンの住人達も多くの物を失う。

 医師やトレーナーなどは警察に責任を問われる。

 シューヘイによってもたらせる未来の『町の金』も消える。

 あの町……『ホッ貝道小巻貝ホッカイドウコマキガイ』はシューヘイタウンからどこにでもある町に戻る。

 彼らは『イッペイ君』に頼るだろうが、イッペイ君はすでにニャームズとチャップマン。そして『D』に目をつけられている。

 逃げるのは不可能だ。



『シューヘイの兄の名前はイッペイなのか!?』


 あの夜の衝撃は忘れない。


『うむ。住人達は言っていたろ『シューヘイとイッペイ君は町の宝』だってね。彼らは犬のイッペイは呼び捨てにしていた。決定打はシューヘイの父親が電話で言った事だよ。『お前とイッペイには苦労させるな』。これはおかしいだろ? 彼の父親は犬のイッペイの名前はルースだと思っている。『犬のイッペイの他に人間のイッペイがいる』これは間違いない。シューヘイは犬のルースに自分の兄『イッペイ』の名をつけた。彼が精神性の盲目を演じたきっかけはイッペイが日本から去ったショックからだろう。それだけ兄を慕っていたんだな。写真の男はシューヘイの父親じゃない。年の離れた兄のイッペイだ。イッペイの赤いジャージ。あれはアメリカの野球チームのものなんだよ』


 これには少しゾッとしたりもした。

 ニャームズは少し話を聞いただけでこの事件に登場すらしていない犯人を見つけてしまったどころか全てを丸裸にしてしまった。


『シューヘイの苗字は覚えてる?』


『なんだっけ?』


『試合を見に行った日を思い出せ。観客はこう言ってたよ。『ミズハラサン。ノーギャンブル』ってね。シューヘイのフルネームは『ミズハラ・シューヘイ』だ。僕は鬱の時期に人間の名前についてのテレビ番組を見ててね』


『あー。人間の苗字と名前の統計番組ね』


『この世にシューヘイの兄と同姓同名の人間はいない。そして僕はずっとCOINでチャップマンとDと連絡を取り、『世界的大事件』の犯人を追っていた。その犯人はシューヘイの兄と同姓同名だ。つまり?』 


 世界的大事件の犯人と、シューヘイタウンのもう一人のヒーローと、シューヘイ誘拐事件の犯人は全て同一人物……。

 しかし何度ニャームズには驚かされるやら。

 やたら貧弱な鳥だと思っていた彼の友。オオソリハシシギのチャップマンはとてつもないスペックの渡り鳥だった。

 日本からロサンゼルスを行ったり来たりしてニャームズと犬のDのCOINのやり取りの手伝いをしてくれた。

 D……『Dコピン』は飼い主のO。『O谷』をとても心配していたのでニャームズへの依頼を決意したらしい。


『ニャームズさん。どうにもイッペイがO谷の金を盗んでギャンブルに使っているらしいんです』


 ニャームズがずっと追いかけていた『世界的大事件』はこれだった。

 詳しくは説明できないが読者諸君はこの事件について知らないということはないだろう。

 『悲しみの二刀流』の通訳の裏切りは連日テレビ、ネットで嫌と言うほど報道されただろう?


「僕はもともと狂言誘拐程度で彼を捕まえるつもりはなかった。アメリカはお金については日本よりずっとシビアだ。彼はロサンゼルスで裁かれるべきさ」


『シューヘイはこれから苦労するな』


『そうでもない。シューヘイの父が言ったろ? 『酒に頼れ』って』


『アルコールに頼るのはダメだろう』


『違う違う。あの店には箱付きの山崎とマッカランがあるって僕は言ったろ。どちらも50年物だ。近年のウイスキーバブルは凄まじい。余程の悪徳バイヤーにでも当たらない限り一本800万前後で売れるんじゃない?』


「お、おい。そりゃあドングリ何個分だ?」


「たあくさん」







 

さぁ。最後に2025年の夏の話をしようか?


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