タイトル未定2024/07/28 21:15
私とニャームズはクリヤマの横に並び、夜空を見ていた。
空は好きだ。動物や人間にどんな事があっても何もなかった様にそこにある。
「シューヘイは金に困っていない。彼は犯人の顔を観ているはずなのに証言していない。犯人は『金に困っていて住人やシューヘイに信頼されている人物』となる。となるとイッペイしかいないよね?」
「いやいや。そりゃ証言できないよ。シューヘイは盲目……」
「彼は視えてるよ。僕はその事にシューヘイの試合を見に行った日に気がついた。盲目のスターが実は目の見えないフリをしている……それに気がついた僕の気持ちが分かるかい?」
「エンガワスとヤンキースのあの試合の日か!? 理由を聞かせてくれ」
「もちろんだよ。イッペイは初めて僕達にあった時『おうっ!』と言ったんだ」
覚えている。確かニャームズはその時に何かガッカリしたような顔をしていた。
「そ……それが?」
「『無駄吠え』だ。盲導犬はそんな強い鳴き声は出さない。イッペイはね。盲導犬じゃない。つまりシューヘイは盲目ではない。君はウーバーイーヌで盲導犬の訓練所に行っただろう? 思い出せよ。彼らやジャッジの挨拶を……」
「うーーん」
イッペイが盲導犬じゃない? サラッとニャームズが言った事が衝撃過ぎて頭が中々働かない。
イッペイと盲導犬訓練所に行った時に……ジャッジと初めて会った時は……思い出せ思い出せ。
『やあ』『やあ』『やあ』『やあニャームズ』
「思い出した! 『やあ』だ。全員同じ挨拶だった!」
「そうだ。穏やかな第一声だったろ? それが盲導犬って奴だ」
「ちょっと待て! って事はジャッジは……」
「言ってなかったけ? 元盲導犬だ。彼にイッペイを預けたのはイッペイが本当に盲導犬かどうか彼に判断して欲しかったからだ」
「聞いてない!」
「おやそうかい。シューヘイに招かれ、バックヤードに呼ばれた時に僕はわざとタバコのおもちゃをイッペイに近づけた。彼は強く拒否した。盲導犬はタバコの火を押し付けられても飼い主を不安にさせないように鳴かない様訓練されている。僕はそこから憂鬱だった。もう一度言うが。イッペイが盲導犬でないならシューヘイは盲目ではない」
タバコの火を押し付けられても鳴いてはいけないとは……盲導犬というのは真なるプロフェッショナルなのだな。
答えを聞いてからこんな事を言うのはズルいかもしれないが、確かにイッペイにそんなプロフェッショナルのオーラは感じなかった。
「そうだ。あの時君はCOINがどーのこーのと言って急に帰ったんだ」
「興味が無くなったからね。君からスターも奪いたくなかったし。悪質な詐欺でもない。むしろシューヘイが一流のカバディープレイヤーであるのは変わらないし、人々に夢を与えている。『こいつは目が見えているぞ!』と僕が言うことに何の意味があるのかと悩んだよ。シューヘイが目が見えない事で君を含むファン。シューヘイタウンの人達が希望を持てるなら黙っていようかとさえ思った」
悪いことをしたなぁと思う。
ニャームズはずっと嘘を嘘と指摘できない苦しみに一匹で悩んでいたのだ。
助手として彼の友として恥ずかしい。
「僕はほんの少しの希望にすがった。イッペイが本物の盲導犬ならと。だが彼は誘拐犯に噛みついた。そうだろ?」
「うむ。そしてジャッジは自分には何も出来なかったと嘆き……そうか! 盲導犬なら……」
「飼い主を守るためでも人は噛まない。彼らは人のために存在しているのだから。イッペイは子犬時代にパピーファミリーであるシューヘイの家で飼われていたと言ったそうだね? その後一度、敷設に戻り盲導犬の試験に落ちたのだろう。パピーファミリーはあくまで子犬が人間に慣れるまでの期間だけしか彼らを飼えない。『パピーファミリーであるシューヘイの元に盲導犬であるイッペイが飼われる』ってのはありえないんだ。君。僕がこんな事を言っていたのを覚えていないか? 『嘘は嘘を呼ぶ』」
「言ったね! 君はその時カバディーの歴史を教えてくれた」
この時ニャームズは何故か少しコミカルに動揺し、目をキョロキョロさせ音を立ててツバを飲んだ。
「まぁ〜。それは置いといて。シューヘイは嘘をついた。嘘は嘘を呼び続けた。僕はその嘘の道に行き止まりを造る」
「行き止まり?」
「シューヘイはストレスで目が見えないと嘘をついた。医者はそれが本当だと嘘をついた。トレーナーはシューヘイの為にイッペイが盲導犬だと嘘をついた。嘘が嘘を呼び。嘘は街全体を覆い尽くし、今ではみんなウソつきだ。この町には『作られたスター』が二人いる。一人はシューヘイ。そしてもう一人がイッペイだ! イッペイを止めれるのは僕しかいない。そしてシューヘイを止められるのはイッペイだけだ」
だからイッペイはイッペイじゃないのか? 本日2度目の頭がイッペイイッペイだ。
ニャームズの言う『イッペイ』とは誰のことなのだろうか?