あの事件の解決編へ
「おいおいお前さん。付いてきたのかい?」
「にゃー」
「まぁいいや。入んな」
私とニャームズはクリヤマの家に招き入れられた。
ニャームズはどうやら事件の真相に2番目に近いクリヤマに興味を持ったようだ。
「クリヤマと話して頭の中をまとめたい」と言いだした。
私は早く「犯人はイッペイ」の説明会を聞きたいのだが。
クリヤマの家は広い。そして天井が高い。
ゴテゴテしたシャンデリアが落ちてきそうで怖い。
シャワーを浴びてバスローブを着たクリヤマが椅子に座ったので私たちはテーブルの向かいにある椅子に二匹で座った。
「おかしな話だね」
「全くだ」
クリヤマはニャームズの言葉がわからないはずなのに何故か会話になっている。
頭が良い者同士通じ合うものがあるのだろうか?
「狂言誘拐だね」
「間違いない」
「えーーっ!?」
私が驚いてシャーの顔をしているとニャームズは私の頭を叩き「少し黙って聞いていなよ」と言った。
少し腹が立つがこの2人の会話にはついて行けない。
ここは大人しく聞いて後で説明してもらおう。
「シューヘイはプロ・カバディープレイヤー6人が襲いかかっても触れることも出来ないフィジカルエリートだ。恐怖があったとしても『武器を持たない個人』にあっさり誘拐されるもんかね?」
「それ以前だよ監督。シューヘイタウンの住人は彼のランニングにいつも声援を送っているはずなのにその日だけ誰もいなかった」
「知人。友人。もしくは」
「親族による犯行」
はぇー。冷静になると確かにあの誘拐はおかしな事ばかりだ。
シューヘイの親族となると両親? 写真の男かあの母親……。
ああ! 早く聞かせてくれニャームズ! もしくはクリヤマ! 私の知的好奇心が爆発しそうだ!
「『警察に連絡するな』と犯人に言われたのにシューヘイの家は人がたくさんいたよな?」
「矛盾だね。シューヘイの身を案ずるならイラブ1人で十分だ」
これまた確かにだ。あの時は(みんなシューヘイが心配なんだなぁ)と疑問にも思わなかったが、人が集まっていること自体が異常だったのか。
おや? ということは?
「そこで俺はこいつは茶番だと思ったね」
「いいぞクリヤマ。そう! 住人達も犯人とグルだ!」
「おっほっー!」
流石に声が出た。シューヘイタウン全員が犯人って事か!
「ニャームズ! それは確かなんだろうな!」
「黙って聞いていろと言ったのに……そうだよ。君もイラブのスマホを見たろ?」
「見た。数字が一杯あった。それが?」
「あまりにも不自然だ。着信履歴に『非通知』もしくは『公衆電話』からの着信は無かった。イラブは『犯人の電話番号を知っていた』事になるよね?」
オーマイキャット! 返すニャーもないとはこの事か。
「シューヘイも一口噛んでいるだろう」
「噛んでいるどころでは無い。立派に共犯だ」
「シューヘイが!?」
私は無意識に悲しそうな顔をしてしまった。
私の悲しそうな顔はニャームズいわく「レベルが違う」らしい。
人間の前でこの顔をすると周りが野菜で一杯になる。
なぜ私を慰めるために野菜を置くかは分からないが。
「その顔をさせたくなかったんだよ。ニャトソン」
「いや。続けてくれ。君に正義を信じろと言ったのは私だ」
「いいだろう。ケーブはこう言ったよね? 「ここから二人は車に乗って件の公衆電話に向かった」と。ケーブは優秀なドーサツだ。僕が興味を持ちそうなポイントを報告しないわけがない。二人はごく普通に家から出て車に乗った。相変わらず犯人は武器を持っていないし、シューヘイは抵抗の素振りなく拘束もされていない……」
「うん。シューヘイがグルってのは納得出来たよ。しかしそれでなぜ犯人がイッペイなんだ? 犯人は人間だ」
「……」
クリヤマはもう話すことが無いのか、黙って夜空を視ながら驚くほどでかいグラスでブランディを飲んでいた。
いちいちダンディーな男だ。
「僕は犯人の話をしているんだ。犯犬じゃないよ。もう一度言う。『犯人はイッペイ』だ」
イッペイは犯人でなくてイッペイが犯人? ん? イッペイ? 混乱してきた。
頭がイッペイイッペイだ。
「狂言誘拐なんて些細な話だよ。問題はシューヘイとシューヘイタウンの未来。そしてあちらの世界的大事件の方さ」