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ニャーロック・ニャームズの帰還

「何だって!?」


「わお!」


 ニャームズが大声を出すので私は驚きすぎて後ろにスッテンコロリンしてしまった。

 こいつが『何でもいいからシューヘイやシューヘイタウンに関する情報をくれ』と言うから最近あったどうでもいい些細な事をあれこれ話してあげたのにこれはない。

 一体どの話が彼をここまで興奮させたと言うのだ。

 

「どれだい? 君が幼いシューヘイとお父さんの写真だと言ったのは」


「ええと。あっ。これだ」  


 シューヘイ誘拐事件があってからのゴタゴタで写真立てが倒れてしまっていたのか。

 私が写真立てを立て直し、ニャームズに見せてやると彼は肉球で顔を覆い、首をブンブンと振り出した。


「ウソだろ! 見ろよその赤いジャージ! 2017!? つまりだ!」


「ああ。うん? 赤だなんて若いお父さんだよな」


「憂鬱だ」


「おいおいニャームズ。こんな所で。……ああ!」


 いつも憂鬱で右斜め下を見ていたニャームズがとうとう左斜め下を見出してしまった!

 左右の斜め下を見出したらもう病院へ連れて行くしかないのだろうか?


「ニャームズ。一体何がそんなに憂鬱なんだ? 最近の君はずっと憂鬱じゃないか」


「君だ。君なんだよニャトソン。君から奪わなきゃいけない事が憂鬱なのだ」


「私?」


「そうだ。今回の『一つのウソが招いた長い長い世界的大事件』を解決した場合。何千。何万人が。そして君は多くのものを失う。尊敬、信頼、熱狂……私はそれが憂鬱だ。いや。ハッキリ言うが君という友を失うのが怖い」


「……?」 


 何が何だか分からない。

 分からないがどうやら我が友はかなり心を痛めている。

 ここは彼の相棒として茶化さず声を荒げず真剣に答えねばと私は猫背を伸ばした。

 

「おい君。私が何を失うかはしらないが。君は正義の心を持った猫だ そして私は君と君の正義を信じている。君がその正義に則ってした行動が私にとって不利益になったとしても君を恨んだり嫌ったりはしない。もう一度言う。君は正義の心を持った猫だ。正義に従うんだニャーロック・ニャームズ」


 右斜め下、左斜め下と忙しなく視点を移動していたニャームズが顔を上げて私の顔を正面から見た。

 私は久しぶりにニャーロック・ニャームズを見たなぁと感じた。

 そうだ。時に憎らしいがこの美しく凛々しいグリーンの眼を持ったオスがニャームズなのだ。

 この瞳は多くの真実を見てきた。

 真実というのは美しいものばかりではない。

 いや。残酷なものの方が圧倒的に多い。

 私も彼の相棒になっていくつもの真実を見て来たが、知らない方が幸せだと思えるような真実もあった。 

 しかしそれを見つけられるのはニャー探偵だけ。

 伝えられるのもまたニャー探偵だけ。

 世界一のニャー探偵。

 見返りと責任と義務が割に合っていない職業だ。

 重荷があるなら私も背負うとしよう。

 私だって4年も彼のそばにいるニャー探偵助手なのだ。


「何をしようとしているか分からないが、君が怖いと言うなら私も付き合おう」


 ニャームズの猫背に肉球を置くと彼のそれはしなやかに伸びた。

 私は彼の復活を感じた。

 

「うん。僕はどうかしていたね。責任から逃げようとしていた。ありがとうニャトソン。そうか。僕は君を失わないのか。それならば恐れることはもう何も無い」



 

「あー。うるさいね。俺は帰るよ。シューヘイ。またな」


「……」


 住人達は待てだの戻ってこいだのクリヤマに言っているが、クリヤマは我関せずと腰を上げて出口に向かった。

 

「丁度いい。僕達も外に出よう。ここは空気が悪い」


「おい。ちょっと待てよ」


 私はシューヘイとイッペイに挨拶をしてニャームズの後を追った。


 「いたい!」


 何度目だ? 空からCOINが落ちてきて私の頭に当たった。

 ニャームズはそれを見てやっぱりねと呟いた。


「Nシステムに引っかかる車は無かった様だ」


「じゃあ犯人はまだこの町に?」


「いる。いるが出ていってくれねば困るね」


「よく分からないな。これから現場に戻って犯人が誰か推理するのか?」 


「その必要はない」


「見逃すのか? 君の正義ってのはそんなものか? 君は……」


「ハハハッ! おかしな事を言うなよ。もう犯人は分かっているのに推理する必要はないだろう? 犯人はイッペイだ。ヘイッ! ドッグシー!」


「イッペイ!?」


 こいつは何でそんな大事なことをサラリと言うのだ!


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