やあとは優れたあいさつ
「ヘイッ! ニャームズ!」
「チャップマン! 会いたかったよ!」
ニャームズの鬱は日に日に悪化していったが、この日は少し元気だった。
彼のCOIN仲間であるチャップマンという鳥が我が家に遊びに来た。
チャップマンは脚もクチバシも細い華奢な鳥だった。
鶴やサギを思わせる。
浅瀬の川で片脚で立っているのが何となくイメージ出来る鳥だ。
「ニャームズ。彼は?」
「彼は信頼できるオスだ。気にしないでくれ。ニャトソン。こちらはオオソリハシシギの『チャップマン』だ」
チャップマンと私は会釈をし合った。
チャップマンのクチバシがあまりにも長いので後頭部を貫かれそうで怖った。
「で? 『D』からのCOINがあるそうだね?」
「そうだそうだ。ほれ見ろ」
チャップマンが懐から取り出したのは鳥のコインと犬のコイン。
そしてニャームズの猫のコインだ。
鳥のコインはドル。犬のコインはセント。猫はペンスだが……それは私にはどうでもよい。
どうせニャームズどニャームズのコイン仲間の話し方など私には難しくて分からないだろうから、私はイッペイに会いに行く事にした。
そろそろ日が暮れる。シューヘイが晩ごはんを食べて寝たら夜の分のウーバー・イーヌの仕事が始まる。
栄養の付く骨のお菓子でも持っていってやろう。
「えっ!? そんな偶然ってあるかい!?」
ニャームズが何やら驚いている。
ニャームズでも世界は知らないことばかりなのだろう。
彼の鬱がこのまま治ればいいな。
やはり鬱は誰かと話すのが一番だ。
うむ。
『『シューヘイ! シューヘイ! シューヘイ!』』
あい変わらずシューヘイ街のシューヘイフィーバーは凄い。
シューヘイとイッペイはトレーニングの締めに街を走り、家路についた。
おや? と私は思った。
シューヘイの家に珍しく灯りがついていた。
「もしかして母さんかい?」
「シューヘイ!」
シューヘイお母さんいたのか。
二人は数秒ハグをして離れた。
「元気? 活躍は聞いてる。いつまでもここにいないで母さんと暮らそうよ」
「ここが好きなんだ。思い出もあるし」
「またその返事ね。この写真もずっとこのまま。あーあ。これ見てるとお父さんの事思い出すわぁ! もぅ。でもお父さんの所へ行かれるよりはマシか……」
シューヘイのハハ。シューハハはすぐに帰った。
シューヘイはシューハハが持ってきたシューマイを食べて風呂を済まし、自室にこもった。
寝息が聴こえてきたらイッペイの仕事の時間だ。
シューヘイのハハのシューハハが作ったシューマイをシューチチは食べないのだろうか?
シューハハとシューチチは別居しているのか? 離婚ってやつか?
シューヘイの家族は謎ばかりだ。
いやいや。人の家庭を探るような事はやめとこう。
知らなくてもえーやんえーやんシューやんだ。
ウーバーイーヌで盲導犬訓練所の訓練生達におやつを配達した。
訓練生達だってたまには健康には悪いが美味しいものを食べたいのだ。
わかる。
なので私は目を瞑った。
「やあ」「やあ」「やあ」「やあ」
流石盲導犬候補。挨拶がしっかりしている。
「おや?」「おや?」「おや?」「おや?」
「おう。……何ですか?」
『『ルース先輩だ』』
『ルース』。訓練所でのイッペイの仮名だったらしい。
後輩達は学校にある『傑出した卒業生一覧』のポスターでイッペイを知っていた。
一番大きな写真を飾られているイッペイはこの学校のスターなのだ。
後輩達はイッペイに憧れ、イッペイを目指していると目をキラキラさせて言った。
「……そうかぁ。ワシに憧れてるかぁ。バレたくなかったなぁ」
借金返済のためにウーバーイーヌで働くのを後輩達に見られたイッペイは悲しい顔をしていた。