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カバディーと言いながら相手にタッチして自分の陣地に戻って来るゲーム

 あれはコロナ禍が落ち着き。人々がマスクを外し初めて迎えた2023年の夏の事だったと思う。

 人々はコロナ自粛の間に溜まったフラストレーションを『カバディー』にぶつけた。


 この頃の私。茶トラ猫の『ニャトソン』は縁側町のカバディーチーム「エンガワス」のスター選手『シューヘイ』に夢中になり、同居猫のロシアンブルーの『ニャーロック・ニャームズ』に煙たがられていた。


 カバディーのプロリーグ『ドジョーリーグ』全体でアタックとディフェンスの二刀流の大活躍を魅せるシューヘイはヒーローとしか言いようが無い。


「カバディーカバディーカバディーカバディーカバディー……」


 鰹が丘という町にあるアパートの221B室は何の変哲もない2LDKだが、私にとってはスタジアムだ。

 毎夜毎夜飼い主であるハリモト嬢や他の猫達にタッチしては逃げるカバディーごっこをし、疲れたら寝る生活。

 私ももう6歳。いい歳をした猫なのだが、成猫ほど何かにハマると抜け出しにくいものだ。


「カバディーカバディー……はぁはぁ」


「ねぇ君。ベッツを知っているよね?」


 ニャームズは煙が出るタバコのおもちゃを咥えながら言った。


「そりゃあ知ってるよ。笑顔が素敵な人間だ。ハァハァ」


 ムーキー・ベッツ。本名は『ベップさん』らしい『ベップ』が訛り『ベッツ』になり、すぐにムキになる性格なのでムーキー・ベッツと呼ばれている。


「彼は猫で言う6歳なんだぜ?」


「へぇ〜」


 人間が見た目で猫の年齢が分かりにくい様に猫も人間の年齢が分かりにくい。

 だがベッツは猫からみても「ああこの人間は年をとっている」と分かるぐらい顔にシワが多い。


「それだけだよ」


「……ふぅ。息が落ち着いてきた。なんだい? ベッツが6歳だから何なんだ?」


 私がこれをニャームズの嫌味だと気がついたのは半年ほど経ったある日に革靴を噛んで遊んでいる時だった。


『いい成猫おとなが何やってんの?』


という意味だろう。


 この時の私は嫌味を言われたことにすら気がついていないのでキョトンとしていた。 


「……君はいいねぇ。ニャトソン」


 これも嫌味だったのか私には分からない。


「いいと思うならそうなればいい。君らしくもない」


 ニャームズは目を閉じてタバコの煙を吐き出し、ゆっくり首を横に揺らした。

 彼は町1番のハンサム・キャットなので仕草がいちいち決まっている。

 私がやったら脳の病気を疑われてすぐに飼い主に病院に連れて行かれるだろう。


「……とにかく僕は今カバディーどころではないんだよ。COINの返信を考えているんだ」


 私がカバディーに夢中な様にニャームズはある新しい友との『COIN』に夢中だった。

 COINは動物の世界の連絡手段で、自分のID(縄張り)にコインを置く事でコミュニケーションを図れる。

 人間の世界にも似たようなモノがあるらしいが、スマホとやらにもCOINはあるのだろうか?

 私のCOINは『ジューエン』なのだがニャームズは『英王属領マン島 25ペンス銀貨 1975年 38.52mm 29.35g KM#31a』とかいう何だかもう訳が分からないお洒落な猫のCOINを使っていた。

 私はCOINをそのへんに置いておいて誰かが持っていったら「フフフッ。誰かが持っていったなぁ」ぐらいの使い道しかしていないのだが、ニャームズはCOINの置き場所や角度や傷の是非などで高度な意思疎通を図っていた。

 ニャームズのCOINを知りたいメス猫はたくさんいて、私はいつも彼のCOINを聞かれる。

 彼女達は誰も私のCOINを聞いてくれない。

 正直傷つく。


「で? ニャトソン。君の太り気味で怒りっぽいが猫には優しい友人は今日も元気だったかい?」


「ああ。何やらトーニョービョー間近とか言っていたが今日も元気……」


 ここまで言って私は猫背がゾワッとした。

 

「おい君! なんでそんな事が分かるんだ!」


 私はニャームズに彼の事を話したことが無い。

 まるで魔法ではないか。


「簡単な推理だよ! 君は何年僕と一緒にいるんだい?」





 トゥ ビィ コンティにゃー

  


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