第一章 最終話 『目的』
後日、ドク博士は研究所内のある場所にひとりで入室します。
その部屋は、入口から見て両端の壁にドク博士よりも高く大きな本棚が設置されており、その中にはノートがぎっしりと詰まっておりました。
ドク博士は、身体の向きを変え、左壁に設置された本棚の前に移動すると、腕を伸ばしひとつのノートを抜き出します。
【スノイス国 イー次元理論 No.284】
ノートの表題には黒の太字でそう書かれていました。ドク博士の夫、イーが存命中に書き遺した理論です。ドク博士は、ぱらりと開き思いふけるように呟きます。
「いつ見ても、難解じゃのう……」
ドク博士は、ぱらり、ぱらりと閲覧すると、ノートを閉じ【スノイス国 イー次元理論 No.284】を、本棚に戻します。
「さてと……」
次にドク博士は、身体を入口とは逆、突き当たりの壁に向けると、そちらに向かって歩いていきます。
それは、両の壁に設置されている本棚と本棚の間、向かいの壁の丁度真ん中辺りに置いてありました。
ドク博士の背丈よりも低い本棚、その本棚の天板の上には、もちゃもちゃ黒い髪に、閉じたように垂れた目、もやしっ子のような細い顔が写った、写真ケースがひとつ置いてありました。
「イーよ、中々来れんで、すまんかったのう……」
写真の人物はドク博士の亡き夫、イーその人でした。
ドク博士はイーの写真の横に、生前好物だったお菓子をちょこんと置くと、床に膝をつき、下の低い本棚を覗き込みます。
そこにも、両壁の本棚と同じように、ノートが密に詰まっていました。
ドク博士は、その中から先程と同じように、ノートをひとつ取り出します。
【スノイス国 イー次元理論 No.901】
ノートの表紙には、そう書かれていました。ドク博士は、ぱらりと表紙を開きます。
【第十章 未来は、過去を変えても変化しない】
それが、ノートの副題でした。ドク博士は、今度は少し遅めの速度でノートの内容を確認していきます。
【第十章】の内容は、簡単に説明するとこんな感じでした。
『一度起こった未来は、我々が過去へ戻ってその事変を改変しても変わらない。例として、一度生まれた子供を、過去に戻り、そもそもの両親の出会いを無くし、生まれ無かった事にしようとするものがあるが、それは、新たなパラレルワールドを生むだけである。事が起こった遠い未来では、何の影響も受けず両親は結婚していて、子供は生を受けている』
「この理論を証明するために、儂はタイムマシンを完成させるぞい」
ドク博士はそう言うと、ノートを本棚に戻し、部屋をあとにしました。
―――第一章 おしまい―――




