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1-8 side.レオ

 寝ているときに突然落ちる感覚で目が覚めるように。気付けばさっきのロベリアとは全く異なる景色が目の前にあった。


「無事に移動出来たな」


 【ライラック】と呼ばれるそこは、グラッシーのように大きい街だった。広場前の大通には馬車が走っている。通りを歩く人は僕と同じように剣を持っている人もいれば、ニーナのように杖を持っていたり、全身を鎧で覆っている人など、冒険者と思われる人たちが沢山いた。


「じゃ、ボスたちとはここでお別れだな。一定時間はパーティを変えられねぇから俺の名前は残るが、時間になったらすぐ抜けるから気にすんな」

「え? ブリッツは一緒に行かないの?」

「言っただろ、俺は元、攻略組だ。今更戻る気はねえ」

「でも――」


 言葉を遮るように立ち去るブリッツ。その背中にルシルが声をかける。


「い、いつでも待ってますから……! あなたは十分に強いです……!」

「ボス……」


 一瞬だけ振り返って、また直ぐに背を向けた。右手を掲げ、ブリッツはその場から姿を消した。


「よかったのですか? 彼を行かせて」

「よくはないけど……」


 ルシルも言ったようにブリッツは強い。けど、今の状態だと戦闘中に命を落としかねない危うさがある。僕たちだって死ぬ可能性がないわけじゃない。むしろ何度も死にかけたことはある。


「アイツの覚悟を待てるほど、今はのんびり出来ないでしょ。アタシたちは攻略組より先にサイサリスに着かなきゃいけないんだから」


 まるでブリッツに同情するように、神妙な面持ちでニーナは言った。


「それで、次はどちらへ行くのですか?」


 ウィズの質問に、僕たちは気持ちを切り替える。ニーナが地図を広げてこれからの道を示した。この地図はポイントとなる町や迷宮をおおまかに示しているだけで、細かい部分は自分たちで歩かないと何があるのか分からないらしい。


「先ずは直ぐそこにある【断崖絶壁ロックロック】を越える。その先は分からない。以上!」

「分からないってどういうことさ」

「【断崖絶壁】の中は迷路になってるうえ、出入り口が複数あってどこに出るか分からないのよ」

「千里眼とやらは使えないのですか?」


 流石ウィズ。ニーナと並ぶ頭脳派だ。


「それがさっきから調子が悪いというか……モヤがかかったようにハッキリ視えないのよね……」

「ッたく役立たずですね」

「ハァ!? 約立たずってならアンタ何もしてないでしょ!!」

「ちょ、二人とも落ち着いて!」


 頭脳派って冷静なイメージがあったけど、この二人はどうしていつもこうなのだろう……。


 二人を宥めた後、僕たちは宿へ向かった。僕とウィズ、ルシルとニーナで一室ずつ部屋をとった。翌日の集合時間と場所を決めて、部屋の前でルシルとニーナと別れた。部屋は、ベッドと椅子机がそれぞれ二つある簡素なつくりだった.


 僕はベッドに腰かけて一息つく。ウィズは、机の上に薬品や器具のようなものを並べ始めた。

 ウィズと二人きりになることは滅多にない。いつもはイーサンが色々話かけてくるから賑やかだけど今はいない。だから部屋は静かだった。


 この二日間は、今までの旅が凝縮されたように沢山の出来事があった。ルシルとウィズ、イーサンの無事(?)も分かって少しほっとした。最初の夜が緊張と不安で眠れなかったせいだろうか。ベッドの傍らに剣を置いて横になると、ドッと体が重くなって動けなかった。


 うつらうつらしていると、爽やかな甘い香りが鼻をくずぐった。体がふわっと浮くように心地がよかった。


「ゆっくり休んでください、レオ」


 耳の奥にそんな声が聞こえて、僕は深い眠りについた。




 翌朝。どんよりとした曇空とは別に、僕の体はとても軽かった。


「おはよう、ウィズ」

「おはようございます、レオ。昨夜はよく休めたみたいですね」

「うん!」


 着替えをしてから、宿の一階にある食堂で朝食を済ませる。それから部屋に戻って装備の最終チェックをした。今までは運よく街の宿で過ごせたけど、ここから先は野宿が増えるだろう。緊張の中で、冒険のどきどきを楽しんでいる僕がいた。


 ウィズも準備が出来たところで部屋を出る。外では既にルシルとニーナが待っていた。


「それじゃあ早速行こう!」


 街を出た瞬間、声をかけられた。


「君達がロベリアのPK集団を倒した冒険者だね?」


 女の人だった。二つに結ばれた長く白い髪。腰には見たことのない細長い剣を携えている。服装も何だか変わっていて、異国の人という感じだ。けれど、唯一見覚えのあるものがあった。敵意のなさそうな笑顔を向ける瞳は、魔族の象徴である赤い色。


 僕が剣を構えるとともに、他の三人も臨戦態勢に入る。


「わっ!? 待って待って、私に戦う意志はないよ」

「魔族の言葉を信じろっていうのか」

「魔族……? 私は別に魔族じゃ……」

「ならその赤い目はなんなんだ」

「赤い瞳……」


 何やら考えこみ始めて、突然にやりと笑った。


「あぁ、うん。そうだね、そうだよ。私は魔王様の勅命で君達を殺しにきた魔族さ」

「やっぱり。僕たちをこの世界に連れてきた理由は何だ!?」

「さあね、何だろう。 ところで私はさ、魔王様の勅命とはいえ、PKはしたくないんだよね。だから決闘デュエルをしよう」

「決闘?」


 魔族のくせに変な奴だ。けれど攻撃してくる気配はない。


「そう、決闘。君と私で、ルールはそうだね……先にHPが半分になった方の負け。私が勝ったら大人しく捕まってもらう。君が勝ったら、ここを通ってもいい。どう?」


 返答を待つ姿勢に、僕は相手の目的が分からなかった。


「何かの罠かもしれません、早く倒したほうがいいのでは」

「で、でもあの人隙が全然見当たらないよう……」

「ニーナはどう思う? ……ニーナ?」


 魔族から意識を離さず、ちらりと視線をニーナに向ける。


「あっ……そうね、敢えてここは相手の罠に乗りましょう。ルール通りの決闘なら死ぬことはない。レオには悪いけど、相手の力量が分からないなら見せてもらいましょう」


 僕を囮として、僕が戦っている間に相手を見極める。もし僕が負けても、そこを三人で一気に叩く。


 僕は魔族に向かって返事をした。


「分かった。その決闘、受けて立つ」

「良かった、ありがとう」


 相手が右手を操作すると、軽快な音と共に表示が出た。【えんじゅさんからの決闘を承諾しますか? ルール:先にHPが半分以下になった方の負け】


 【はい】を選んで剣を構える。ニーナとウィズがその場から離れた。ルシルは気配を消し、既に敵の背後の方に位置取りをして様子を伺っている。


 視界の真ん中でカウントが始まった。


 あれは構えているのだろうか。赤い瞳は真っすぐに僕を見ている。右足が大きく後ろに引かれ、下に降ろされた剣身は体に隠れて見えない。


【3】【2】【1】【START!】


 僕は真っすぐに駆け出した。

レ オ「またブリッツに会えるといいね」

ルシル「うん」

ウィズ「ルシルさんには及びませんが、なかなかの強さでしたよ彼」

ニーナ「目の前に敵がいてその話する? 次回【決闘】少しずつ話が動き始めたわね」

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