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1-7 side.魔王

 

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「まったく……最近とんと姿を見ないと思えば、何故ペペの奴まで向こうに居るのだ?」


 魔石板はサイサリスを映している。


 アマリア同様、世間では魔王軍の一人と呼ばれているペペ。じゃが、今の魔王軍に軍隊としての機能はない。先代は魔族を統べる魔王として軍を率いて人里を襲っていたと聞く。わしは違う。幾ら数が集まろうと所詮は雑兵。足手纏いにしかならず、大抵はわし一人で事足りる。


 てか、今どき世界征服とか古いと思うんじゃよね。平和が一番! 共存賛成! 


 映しだされる光景に変化はない。ペペとイーサンは黙って座っている。一人でもうるさいあのペペが大人しいとは稀有な事。最初こそ会話をし、一度は安全圏外そとに出たものの直ぐに戻ったのは賢明な判断と言えよう。


 魔力を体内に巡らせ、スキル【次元直視】のレベルを上げる。今度は偶発的ではなく意図的に。わしの部屋と異世界――VRMMO『Next Earth Onine』を繋げる。以前に使用したときと世界が異なる故、調整に戸惑ったが問題なさそうだ。とは言え、まだテスト段階。精々が映像と音声のみじゃが、今はそれで充分だろう。


「あーあー、お主ら聞こえるか?」


 魔石板の奥で辺りを見回す二人。


『何だ、この声?』

『ま、魔王様!? どこにいるんですか!?』

『魔王ッ――!?』


 即座に戦闘態勢に入った鎧からは殺気さえ感じられる。感度良好、問題なし。


「安心しろ、鎧の。お主らに手を出すつもりはない」

『敵の言葉を信じられるわけねぇだろ。どこにいやがる、姿を現せ!』


「敵、か。わしはお主らのことを敵とは思ってないんじゃが。わしのことを信じられないというのなら、騙されたと思って一度わしのことを信じてみるのはどうじゃ?」


『言ってる意味が分からねぇな』


「お主にわしの姿は見えない。わしにはお主の姿が見えるし、いつでも攻撃が可能じゃ。そうしないこの状況が敵ではない証じゃ。それに、そこに居るペペも危害を与えてないじゃろう」


 鎧は黙って考え込み始めた。その間のペペといえば、『魔王様―、どこー』を連呼しながら画面内を動き回って騒がしい呑気な奴だ。暫くして鎧が口を開いた。


『一つ質問だ。俺たちをここへやったのはお前の仕業か? 目的は何だ?』


 いや、質問二つじゃん。……まあ良い。


「目的はない。これは事故のようなもの。じゃが責任はわしにある。お主らが無事に戻って来られるよう手助けをしよう。わしの仲間も居るからの」

『分かった、一時休戦といこう。その代わり、何が起きてんのかきっちり説明しろよ』

 彼奴らにわしの姿は見えていない。それでも何か感じるものがあるのだろう。確たる瞳で、鎧はわしを見ている。

「お主こそ、話を聞いて信じらせないなどぬかすなよ。……おいペペ、お主も少しはじっとしろ」

「――!」


 ペペは即座に鎧のよこで直立不動の姿勢をとった。


「さてと。どこから話したものか……」


 異世界転移の原因、異世界のルール、彼奴らとはぐれた仲間の現状、今後の方針うんぬんかんぬん。調整を行えばわし自身が彼方へ行くことも可能だろう。だが彼奴らを此方へ戻すのはちと骨が折れそうだ。

 時間はかかるが勇者きゃつらは必ずサイサリスへ来る。そう、時間はある。


「――ククッ」


 思わず笑みが零れた。彼奴らにだけ楽しい思いをさせるわけにはいかない。ペペと鎧に説明をする傍ら、わしはサイサリスのボス、アミ―を動かす為に【次元直視】と【迷宮作成】の調整を試みる。


 同調開始。用意したもう一つの魔石板に次々と文字――ソースコードと呼ばれるものが映し出される。わしにとっては馴染みのない異世界の言語だが、スキルを使えば簡単に解読が出来る。解読と掌握でおそらく二日といったところか。彼奴らが到達するまでには間に合おう。





「くっっっそ疲れたぁぁぁあああ」


 気付けば日の半分が過ぎていた。片手間に解析をするつもりが、あの二人への説明に存外手間取ってしまった。


「あのまま質問ばかりされたら敵わんわ……」


 強勢的に交信を切断し、静かになった魔石板に頭を預ける。文字が流れ続ける魔石板を横目で眺めていると、ジジっと文字が揺れた。


「!」


 直感。わしが干渉していることを誰かが気付いた。そして、排除しようとしている。


「面白い、面白いのう! 遊び《ゲーム》とは張り合う相手がいてこそじゃ!」


 わしの干渉に気付くとはかなりの手練れであろう。矢継ぎ早にかつ正確に対策が構築されていく。このまま放っておけば、勇者きゃつらの存在も危うい。


 顔をあげ、静かになっていた魔石板にも魔力を込める。


 スキルとは魔力を必要としない、或いは少量の魔力で事足りるもの。一定の魔力を消費することで、スキルは魔法へと変わる。


「ちと本気をだすかの」


 最期に魔法を使ったのは百年以上前か。久々に、魔法を発動させた。



 ×


魔王『わしの出番が少ない!!』 

イーサン「お前のとこのボス、何か言ってんぞ」

ペペ「残念なことに、僕にも理解は出来ないのです」

魔王『貴様ら全部聞こえておるからな!! 次回【魔族】 彼奴は何者なんじゃ?』


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