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1-4 side.レオ

「ぁぁぁぁぁああああああああ早く助けてニィィナァァァァァァ!!!!」


「うるさい! アンタ勇者でしょう。自分で何とかしなさい!」


 シロザの街へ向かう途中の森で、ニーナは【食用果樹デビルツリー】と戦っている。僕はといえば【食用果樹】の伸びた枝が体に巻き付いて、言葉通り手も足もだせずにいた。剣を振ることもかなわないのでお手上げだ。手は上げられないんだけど。


 僕の名誉を守るために言っておくけど、普段ならこんなミスはしない。


 ニーナが言うには、この世界には【再使用時間リキャストタイム】というのが存在するらしい。【MP】を消費する【魔法】と、魔法とは異なる【スキル】――剣術や体術の技のようなものでMPを消費しないそれが適用される。魔法やスキルを使ったあと、一定の時間が経ってからじゃないと同じ技を使うことが出来ないルール。

 これを戦闘中に教えられた。


 当然、僕は【再使用時間】を知らないので、いつものように技を連続で出そうとして失敗したところを見事に掴まったわけだ。大事なことはもっとはやく教えてほし――


「あっっっつうぅぅぅ!!?? ちょっとニーナ! 助けるにしても一声かけるとかさぁ! 僕ごと燃やそうとしたでしょ!?」


【食用果樹】から解放された僕は華麗に着地をしてみせる。


「はぁ!? 助けてあげたんだから先ずはお礼をしなさいよ! 早くしないと死ぬわよ」


 そう言ってニーナが投げてきたソレをキャッチする。回復薬の入った小瓶だ。見れば僕のHPは赤く、十分の一も残っていなかった。


 やばいやばいやばい。痛みを感じないからすっかり油断していた。急いで瓶の中身を飲み干すと、鈴の音とともに瓶が消えた。空いた手で剣を抜き振り返って背後の【食用果樹】を斬りつける。連続で同じ技が使えないのなら、違う技を使えばいい。一撃目と二撃目で迫る枝を斬りつけ、最後に本体を決める。


「【三斬撃トリプルスラッシュ】!」


 僕が両手を広げても足りない幹がまっぶたつに割れて、さっきの瓶と同じように消えた。

 【三斬撃】なんてかっこいい名前がついてるけど、ただ三回斬っただけだ。僕自身は【スキル】を覚えたつもりはない。どうやら、元の世界での剣技が自動的にこっちの世界のスキルに適合されているらしい。気をつけなきゃいけないのは、剣技だけでなく守備や回避行動などにもスキルが使われていることだ。何気ない行動が実はスキルでした、なんて後で知ったら次の行動に支障が出る。僕はニーナに説明を受けながら実践で感覚を掴んでいられてるけど、他の三人が心配だ。残っている【食用果樹】を倒してシロザの街へ急いだ。




 シロザの街に着いたのは日がすっかり傾いた後だった。一刻も早くロベリアへ向かいたかったが、夜は昼よりも強力な魔物が出やすい。仕方なく宿をとって翌朝出発することにした。


「夜でもお店は開いてるし、回復薬とか必要なものを買っておきましょう」

「あ。そういえばこの世界のお金持ってないけど大丈夫?」

「さっき倒した【食用果樹】の素材や魔石を売れば大丈夫よ。皮よりも果実の方が高く売れるみたいだけど、アンタ持ってる?」

「ごめん、途中でお腹空いて食べちゃった」

「アンタに期待したアタシがバカだったわ」


 なんだろう、僕もバカ呼ばわりされている気分だ。

 幸い、ニーナが持っていた分と僕の残りの素材を売ったお金で、必要最低限の道具は買えた。まだまだ慣れないことは多いけれど、伊達に魔物を倒し続けてきたわけじゃない。装備だって最初の頃は家にあった鉈を使っていた。今の剣と比べたら戦闘には不向きだけど、あれはあれで肉の解体に優れていた。魔物の肉は味が独特で、旨いやつと不味いやつで当たり外れが大きい。【豚頭族オーク】の肉は柔らかくておいしいのが多かったなー……。


 ぐーーきゅるるるるる。


 ニーナが僕を見た。僕はお腹と話し合ってニーナに言った。


「ご飯にしよう!」

「つまみ食いしておきながら……。ま、アタシもお腹空いたしご飯にしましょう」


 近くのごはん屋さんに入って、ご飯を食べた後、そのまま明日の予定を確認していると、冒険者らしき男の人が近づいてきた。


「兄ちゃんたちロベリアへ行くのか? それなら今まで以上に気をつけた方がいいぜ。あそこは前から荒くれ者や【PK】のたまり場で有名だが、ここ最近さらにやべー奴が現れたって噂だ。名のある【PK】が尽くやられてるらしい」

「【PK?】」


 僕が首を傾げてると、ニーナがこっそり、


「【PKプレイヤーキラー】。要は人殺よ」

 と教えてくれた。

「【PK】を殺して治安を良くしよう、って話ではないのそれ?」

「襲われているのはなにも【PK】だけじゃない。数少ないロベリアの善良な冒険者も巻き込まれたって話だ」

 物騒な話になってきた。でもそれなら余計に。

「教えてくれてありがとう、おじさん。でも、僕たちは行くよ。仲間がいるんだ」

「冒険者らしくていいじゃないか。気をつけろよ」

「うん」


 と、ニーナの意見を聞かずに答えてしまったけど……大丈夫そうだ。あの笑みはきっと【PK】を脳内で殴り倒しているのだろう。




 翌日。準備を整えた僕たちはシロザの街を出た。シロザとロベリアを繋ぐのは【憂愁遺跡ロストゥーム】。街をひとつ隔てただけで、昨日とは全く異なる景色が広がっていた。

 まだ昼間だというのに空は暗く、霧が立ち込めていてはっきりと先を見ることが出来ない。


「それじゃあ行こうか、ニーナ」


 ……。あれ?


「ニーナ?」

「ベべべ別に怖くなんてないんだから! ほら、さっさと行くわよ!」


 そう言った彼女の足が動く気配はない。そういえば彼女は幽霊ファンスマの類が苦手なんだっけ。

 大陸では人が死んだとき、遺体は清浄の炎にくべるのが習わしだ。そのまま土に埋める地域もあると聞いたことがあるけど、そうすると魔族に死体を利用されたり、魔物そのものになることがある。そっちのほうが僕は怖いと思う。


「大丈夫、僕が守るよ」


「――っ! そ、それならアンタが前を歩いてよね」


 背中を押されるまま僕は歩き始めた。ニーナが後ろで僕の服をぎゅっと掴んでいて、少し歩きづらい。

 ひんやりとした空気に鼻がむずむずする。


「っ、はっくしょん!」

「ひぃゃあ!?」

「うわぁ!? って、ニーナか。急に叫んだりしてどうしたのさ」

「あああアンタが最初にくしゃみなんかするからでしょ! くしゃみ禁止!」


 なんて理不尽だ。


 と、今の騒ぎのせいか魔物が現れた。名前は……【現世の放浪者(リビングコープス)】。数は十体以上。一人だと少し厳しいかもしれない。でも、守ると決めたんだ。


「さがってて、ニーナ。ここは僕が――」


 熱く眩しい光が次々と放たれた。鈴の音がして、理解するのに時間がかかった。ニーナの魔法による攻撃だった。


「見えるものなら怖くはないのよ!」


 誇らしげな彼女に僕は声も出なかった。


レ オ「ニーナって幽霊のどこが苦手なの?」

ニーナ「はぁ!? アタシに苦手なものなんてあるわけないでしょ!」

レ オ「でもさっき――」

ニーナ「次回【魔王】! 絶対にぶっ飛ばす!」

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