表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/27

1-14 side.内海

 ×


 休息を一日もらい全ての音や光を遮断して爆睡した翌日、おれは再びパソコンと向きあっていた。


「海人だから怪盗なのかい?」


 後ろからモニターを覗き込む社長が訊ねる。答えたのは社長の隣に立つ江狛だった。


「そうなんですよー。普段は寡黙でクールぶっていますが、こう見えて結構厨二病なんです。高校生のときは引き籠り、名立たる企業のセキュリティもなんのその。情報を盗むことも掛けて自分で怪盗を名乗った元天才ハッカー」


「元じゃない。そもそもハッカーとはコンピューターに精通している人を表す言葉で今もだ。お前の言葉を正しく言うなら元クラッカー」


「今も結構ギリギリなことしてない?」

「必要悪はときに正義だ」


 掲示板で情報を集めながら、モニター右下にある日付を確認する。

 五月十五日。江狛が戻ってきたのが十二日。それから話し合いや検証を行い、十四日、つまりおれの休息日とレオナルドたちの最後の目撃があった日。今までの攻略速度から今いる位置を予測する。


「それにしても回りくどいことをするね。内海くんの実力があれば、彼等の位置など直ぐに割り出して捕まえられるだろうに」


 モニターから目を離して椅子ごと向きを変える。


「先日も述べましたが、彼らとサイサリスへはこちらから干渉出来ません。コントロール権を奪われました。それ以外は生きています。一応、彼らの動きは観測出来ますが、その情報がダミーの可能性も否定出来ません。なのでこれは裏付けです」


「そうだね。だからこれは状況確認だ」

「それで、これからどうするの?」


 再びモニターと向き合い、ネオの舞台となる大陸の一層目のゴール付近の地図を映す。丁度フクシアとサイサリスが画面内に収まるよう拡大をする。


「彼らは今オヒアにいます」


 手近にあったボールペンの、ノックカバー側でモニターを指す。オヒアはフクシアとサイサリスの五分の一ほどの場所にある、火山と温泉が特徴的な村だ。


「なので、先回りして次のレヒアでおれと江狛で待ち伏せします」


「待ち伏せって。私たちはまだレヒアどころかオヒアすらマッピング出来てないよ」


「あのなー、どうして正攻法で行くんだよ。向こうが先に不正してきたんだ。こっちも社員権限を使わないでどうする」


 不正とは言え、あいつら――レオナルドは被害者だろう。

 介入してきたのは異世界の魔王。


 細かい理屈は分からないが、魔王の能力によって、あいつらの能力がゲーム仕様に言語・数値化されている。言わば魔王のプログラムで動いているようなもの。アクセス権を失ったとは言ったが、彼らに関しては元からこちらにアクセス権はない。


 高二の夏。おれ達が異世界に飛ばされたときも同じだ。本来の理を書き換えられて異世界に存在していたようなもの。複数の言語コードを組み合わせたプログラムは決して不可能じゃない。だが、異世界の魔法なんてめちゃくちゃ相手に、下手にプログラムを変えようものなら何が起きるか分からない。最悪、存在そのものが消える可能性もある。


「社員でも不正は禁止だ。が、今回は特例。具体的にどうするつもりだい?」


「座標転移を少し改良して未到達の場所、この場合サイサリスへ転移出来るようにします。レヒアで彼らと合流したら事情を説明して、共にサイサリスへ行きます」


 サイサリスのボス、アミ―も乗っ取られている。魔王の狙いは分からないが、アミ―を倒せば何かしら解決の糸口が掴めるかもしれない。


「あの子達もサイサリスを目指しているんだよね? わざわざ待ち伏せして一緒に行く必要ある?」


「ここまで順調に来ているが、あいつらがこの先死ぬ可能性がないとは限らない。それに、アミ―は一層目のフロアボス、言わば現時点でのラスボスだ。簡単依倒せるよう設計はされてない。少しでもおれ達が手を貸してやるのがいいだろう。もちろん、おれ達に死後罰則デスペナが出ないよう細工してな」


「それに、これ以上私のものを好き勝手させたられたくはないからね」


 おれの言葉に社長が続けた。


 その隣からなにやら輝かしいオーラを感じる。見れば江狛が、明らかに嬉しそうな、子供がする期待の笑みを浮かべていた。おそらくこれは、アミ―との戦闘を楽しみにしている顔。


 江狛はこの街に古くからある江狛神社の神主の娘だ。それなりに大きな神社で、年末年始には隣町からも人が来るほどの。両親も厳しく、ありとあらゆる礼儀作法を叩き込まれている。そんな良家のお嬢様は、全てのストレスをゲームで発散している。この会社に入ることも、ましてやゲームをすることも両親には反対されたそうだ。けれどそこはお嬢様(?)何事も全力で取り組み、模試では一位を取り続け、家業や習い事もそつなくこなして無理矢理納得させたという。


 その反動からなるゲームでの暴れっぷりは【烈火の鬼】、なんて異名がつくほどで、あの紅葬軍にも誘われ。結局、一人の方が気楽という理由で断ったとらしいが。


「いつ出発する?」


 浮ついた声で訊いてきた。こっちを見る目が眩しくて、思わず目を逸らす。


「一時間もあれば終わると思う」

「分かった! それじゃあ一時間後にフクシアの噴水広場で待ち伏せね!」

「あ、おい、待て……」


 江狛は部屋を飛び出していった。残り一時間、少しでも熟練度を上げるつもりだろう。


「フクシアって今の最前線じゃねーか……。おれまだ行けてないんだけど……」


 仕方がない。フクシアへの座標転移も出来るように弄るか……。


「内海君さ、江狛君のこと好きだろう」


「ななななんですか急に!!??」


「まさか隠せてると思っているのかい? 君達は高校生からの付き合い――この場合は人としての関わり、なんだろう。告白はしないのかい?」


「それこそ、まさか、ですよ」


 偶然一緒に異世界へ飛ばされて、このゲームを作るのがあいつの夢になった。あいつを異世界に巻き込んだのはおれの責任でもある。おれはその償いをしているにすぎない。おれとあいつが一緒にいるのは本来、身分違いというやつだ。


「ちょっと外の空気を吸ってきます」


 一時間とは言ったが、その気になれば三十分あれば大丈夫だろう。

 おれはパソコンの画面を閉じて部屋を出た。


 ×



江 狛「ねえ、かいと-―間違えた。内海」

天王寺「ところで、かいと――内海君」

内 海「お前らわざとだろう」

天王寺「たった一文字『う』があるかないかの違いだろう。気にするな」

内 海「気にしますよ!」

天王寺「次回【温泉】 今までのどの話よりも熱量があるぞ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ