1-12 side.レオ
散開。さっきまでいた場所に拳が襲い掛かった。当たればひとたまりもないだろうが、動きは遅い。
「僕とニーナで敵を引きつける! ウィズは支援、ルシルはウィズの援護!」
「「「了解!」」」
駆けだすと共に僕の体が淡く光った。ウィズによって僕の攻撃がと速度が底上げされる。振り下ろされた敵の腕に駆けのぼり、頭上から叩き斬る。
キィィィィンッ。耳を塞ぎたくなるような音が響いただけで、大したダメージにはならない。宙を舞う僕に敵の集中が向いた。焦ることはない、予想通りだ。
「ニーナ!」
「任せなさい! 【火炎放射】!」
敵の背後で炎が弾ける。巨体がバラバラと大きな塊に崩れて、一本目のHPがぐっと減る。
「ビンゴ! 今まで岩の魔物だからって水魔法を使ってきたけど、コイツは火が弱点の鉱石よ! アタシに任せなさい!」
そう言われても、明らかに今までと異なる敵をニーナだけに任せることは出来ない。
ふと思うんだけど、剣で斬れるものって大体が燃えやすいんだよね。僕の出番なくない? ますますニーナから魔王討伐に誘われたのが不思議だ。
「【炎の享受】!」
僕が着地をして再び駆けだしたとき。ウィズの声に反応して剣がぼんやりと赤く光った。
「火の属性を付与しました。それで少しは攻撃が通りやすくなります!」
「ありがとう!」
ニーナの攻撃によって崩れた岩が、【叫ぶ岩壁】に姿を変える。数は十五。ルシル一人でも大丈夫だと思うけど、斬撃が通りにくい敵だ。
【堅牢の番人】の攻撃を避けながら、手近な【叫ぶ岩壁】を攻撃。襲い掛かる【堅牢の番人】の手足にも攻撃を入れていく。的がでかいから攻撃自体は当たりやすい。少しずつその巨体と共にHPを削る。同時に崩れた敵の体から【叫ぶ岩壁】が生まれる。
【堅牢の番人】に注意しながら、先に【叫ぶ岩壁】を倒す。数が減ったら【堅牢の番人】を崩す。その繰り返し。
二本目のHPバーが黄色になる。
「!?」
突如地面が揺れて、天井から岩が降り注ぐ。
もしかしてまた……!? 魔王城へ続く道での出来事が甦る。けれどその心配はなかった。やがて揺れも収まり顔をあげる。
そこには体HPも回復した【堅牢の番人】がいた。
「コイツ……! 今の地震で起きた落石を自分の体にしたのね……!」
「また最初っからってこと!?」
「見れば分るでしょう!」
さっきと同じようにHPを削っていく。けれどこのままだと同じように回復されてしまう。あの揺れる足下の中で、降り注ぐ岩を全て壊さなければいけない。
ウィズが叫んだ。
「レオ! チャンスは一度だけです! 二回挑戦できる魔力も道具も残っていません!」
「分かった!」
勢いよく返事をしたものの、攻略方法は何もない。一本目のHPが削れて二本目に入る。
どうする。このままだと。あれを僕一人で捌ききるのは――。
「大丈夫だよ、レオくん」
「ルシル!? どうしてここに!?」
「ウィズさんが『私は一人でも平気なのでレオのところへ』って。ニーナちゃんが敵の注意を引き付けてくれる。私が小さい落石を何とかして道をつくるから、レオくんは大きいのを防いで」
「分かった」
敵の僅かにデコボコとした体表に足を置いて体を駆け上る。
「いくわよ!」
ニーナの攻撃で敵のHPが黄色になった。大きく揺れ始める直前。スキルを使って上空へ跳ぶ。空中なら地震の影響を受けない。続けて落石を足場に跳びまわりながら砕いていく。
全て壊した後、足場を失った僕は落ちていく。けれど死ぬつもりはない。
「はああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 」
両手で剣を逆手に持つ。振り上げて、敵の頭上に着地の瞬間振り下ろした。
剣先が刺さった場所を中心にピシリとヒビが入って徐々に広がっていき、青い光となって全てが砕け散った。
「やりましたね、レオ」
「やったね」
「やったわね」
声は聞こえるものの、視界では今の戦闘で得た道具やら称号が並べられて、三人の姿がよく見えなかった。
「ねえ、アソコ」
来た道の向かい側、何もなかった空間に扉が現れた。
「さすがにこの先も洞窟、ってことはないよね……?」
ここまで大きい魔物と戦ったのは初めてだったから、少し疲れたかもしれない。
「大丈夫よ。さ、早く行きましょう」
ニーナに押されるがまま、僕は扉を開ける。
四日ぶりの太陽がそこにあった。
レオ「やっと出られたー!」
ウィズ「ここだけで他の迷宮五つ分くらいありましたね……」
ルシル「こんなに長く潜ったのは久々かも……」
ニーナ「少し休みましょう……次回【掲示板】」