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伝説の傭兵、勇者の父【大賢者】に転生する  作者: 高木幸一
プロローグ 誕生と出会い編
1/5

第1話 あるはずない、なんてことはこの世にない

 人生は、予期せぬことに満ちている……ということは、【そのとき】にならないと分からない。


     ◇


「だっ……! まっ……! 待ってくれ傭兵ようへいの旦那っ!! 話がしたいっ! ……好い話だっ!!」


 森の中で男――盗賊かしらはそう言って、幾つもの無骨ぶこつな剣やよろいや死体が転がる中、巨木きょぼくのうろにでかいケツを突っ込まんばかりに下がって訴える。俺は短髪をだるそうにかいたあと、剣先をかしらの分厚い唇に突きつけて、ヒッ! と悲鳴を上げさせてから、地面に落ちた、ヤツご自慢の汚いナイフを蹴飛ばした。


「テメーの口からなんの【好い話】が? そんなもんがありゃ、美味しく呑み込むはらだろうが。口をきくなら死に方をはけ。首か? 腹か。それとも股か。――好きな場所を選びな」


 首、腹、股と。年季の入った傷だらけの両刃もろは剣をさっさと動かして促した。かしらは「あびひぃ!!」と、いよいよ悲鳴を上げて股を押さえる。お前は、辺りに転がる手下のゴロツキたちと同じようには死ねない――。俺が伝えたのは、そういうことだからだ。


 俺は死への時を刻むように、カッ、カッ、と自身の黒ブーツに剣を当てる。が、すぐに横っ面をパチン、ちいさな手で叩かれた。見ると頬をぷくーっと膨らませて、小鳥のようにくうをぱたぱた舞うちいさな相棒……妖精のシロルが、かすかな唾を飛ばしてきた。


「んもーっ! い・つ・も言ってるでしょ! そんな残酷なことしちゃ、ダメーっ! 殺すときはサクッと、だよ! じゃないと【好い生まれ変わり】ができないんだからっ!」


 と、半透明の青いドレスのスカートをふわりと動かし、青の長髪を払ってから、俺の頬をつつく。……またか。そもそも妖精のくせに生まれ変わりとか信じてるってのがな。いや、妖精だからか? 俺たち人間よりかは、神に近い存在かもしれんしな。……だが。


「そっちこそ、いつも言ってるだろうが。俺は生まれ変わりなど信じちゃいないし、仮にあったとしてもどうでもいいと。いま、この俺の人生がどうあるかがすべてだ。たとえばこの村荒らしのクソ悪党やろうをぶち殺して、依頼主に証拠のブツを持って行って、報酬である50万リブラを頂戴する。それでひと月の休暇へ洒落込むという、な。……さて。もう死に方は決まったか?」


 盗賊頭を見やる。それでシロルが、「この馬鹿ゼロぉ……。分からずや! アンポリグッセ!(そういう不細工な獣がいる。ふざけるなよくそったれ)」と罵倒を始めたが、かしらは再び、「待ーてマテマテっ!! いま! 妖精の美人ちゃんが好いこと言った! まさに俺が話したかったのはそれ! ……【生まれ変わり】のことさ!!」と叫ぶ。

 そして汚い髭づらを笑顔にして、やはり汚い伸びきったもじゃもじゃヘアーをばっばと払い、粗末な衣服に手を突っ込むと、赤い液体の入った小瓶を取り出し見せた。それでシロルが「……!? あっ!!」と声を上げた。


「なんだ。なにか知ってるのか? アブハ(回復薬)……のようにも見える……」


 俺は言葉を止めた。なぜなら、シロルがいつもの子供表情がおを消し去って、恐ろしいほど冷ややかな目でかしらを見据えていたからだ。それにかしらは声も出せないほどに震えあがった。

 俺はいぶかりつつも、ひとまずシロルが落ち着くのを待つことにした。だがしばらくのち、ヤツは、冷やかさこそ消したものの、今度はこちらを、半眼横目でじー……っとにらむ。……はっ?


「……教えてあげなーい。どーせ言ったって信じないだろーし。ま、どーしても、って言うなら~。アタシを喜ばせてみてよ。そこの【ワルモノ】ですら美人だって言ってたんだからね。どーしてずっと隣にいる、【いちおうイイモノ】アンタが誉め言葉のひとつすら言えないの? ……ほら、ほら! 5、4、3、2、1……――ゼロっ!」


 と、とつぜんまくし立てると、俺の名を叫ぶように秒読みを締めくくり、腕組みをするシロル。……正直、液体あれにはそこまで興味ないが、さっき見せたシロルの表情かおが気になるな。誉め言葉ね。けっこう言っているほうだと思ったんだが。……仕方ない。とっておきを出すか。


「シロル。お前は……」


「うん。……なに?」


「毎日、ほんとう美味そうに飯を食うよな。あと量もすごい。お前を見て、俺は、妖精が可憐ではかないものだとか、そういった伝聞のたぐいがいかに【まゆつば】で、人間はじかに物事に接するべきだという確信を得た。いまの俺の生きざまがあるのは、お前のおかげと言っても過言ではない。感謝しているぜ。相棒」


 そう言って微笑んだ。が、次の瞬間、シロルは鼻を蹴飛ばしてきた。いてぇっ!


「……ほんっっとにズレてるっ! 根・本・からっ!! 女性に対する気遣いゼロ! 名前の通りのゼローっ!! そんなデリカシーゼロの男にはぁー! やっぱり教えてあげませんよーだっ!」


 ぷいっと背を向けて、ぱたぱた透明の羽を不規則に動かし始める。ち・か・づ・く・な。のサイン。しかし、どこかへ飛んでいってしまわないこの段階は、『最後のチャンスをあげる。失敗したらひと月どっか行く』というサイン……でもあるということは、ガキのころから知っていた。……あああー面倒くせぇ……。

 俺は小瓶を持ったまま呆然とする盗賊頭に「動いても喋っても殺す」と脅してから、シロルの背中に言った。


「なあシロル。いままでは照れくさくて、とても言えなかったことだが……。俺はお前が人間だったら、結婚したいとすら思っていたんだ」


「……えっ!?」


 びっくりしたように振り向いた。……よし。第一関門突破。俺は咳払いして、続けた。


「いつも旅先で女と……うまくいきそうになっては、いかなくて終わるだろ? それは心の片隅に、いっとう付き合いの長いお前のことが常にあったから、どの女とも先に進めそうになかった。そういうことなんだよ」


「……ほんとにぃ? アタシには、いつもただ失言と無作法で振られてただけのように見えるんだけどぉ。……前のリィナ? とかいう子にだって、デートのときに、『おい、なんだその頭についてるのは。髪飾りというよりもフォークじゃないか。頭に突き刺さってたらまるで髪がめんだな。ははっ。よし、晩飯はそれでいくか。うまいところを知ってるんだ』とか言って、半殺しになってたじゃない」


「そりゃあいけねえぜ旦那……。どんな女だって平手を飛ばす。最悪だ」


「……黙っっっってろと言っただろうがあっ!! 股に食らいたいのかぁ!!」


「いひいぃ!!!」


 かしらを怒鳴りつけてから、半眼で腕を組むシロルに目をやると、俺は顔を歪めつつ、半笑いで続ける。


「そ、そういう粗雑な言動に至ったのも、けっきょく根っこのところは、お前に心の奥深くを奪われてたからだ! その寂しさをほかの女で埋めようとしていた、のが分かってそういうふうにだな……。彼女らにも悪いことをしたと思っている……」


 うなだれたまま、ちらっ……とシロルの様子をうかがうと、ヤツは、「ゼロ……」とうるんだ目で俺を見つめたあと、……――にたぁ……と黒い笑みを浮かべてから、地面に飛んでゆき、小石を拾ってきて鼻に投げつけた。……またっ! いてぇ!!


「そぉの手に乗・る・かぁ~~~~~っ!! アタシはぁ! あんたがおねしょもしてたちびすけのときから! 生意気に酒だ女だっていい加減に生きてる25歳のいままでのっ! なが~~い付き合いなんだからねっ!! その【性根】も【やり口】もあんたのお母さんより知ってるわっ!! ……はっ! でも逆に、教えてあげる気になった!! そのワルモノが持ってる小瓶は、本物よっ!! ホ・ン・モ・ノっ!!」


 俺はしばたたき、かしらを見やる。頭自身も、何度も小瓶を見返して、「……ほっ、ほんとうにかっ!? ……マジだったのか」と驚愕の面持ちで息をはく。俺は頭を押さえ、ぷんすこ怒っているシロルに尋ねた。


「ちょっと待て。どういう意味だ? 本物っていうのは……。【なんの本物】なんだ?」


「だぁかぁらぁ~、本物の【生まれ変わりの薬】だって言ってんの! それは【妖精界の秘宝メロ・ディ・ウェルティ】のひとつなんだから! 100年に一度しか生成できないすごいものなのよ!? ……【お盗み】のワルモノが持ってるっていうことは、どこかの里から盗んできたんだろうけど……。どーせこのあと、ゼロに殺されるからその罪はチャラにしてあげるわ」


 再び、恐ろしく冷ややかな目でかしらを睨みつけるシロル。ヤツは真っ青になって、「たっ、たっ、たのたの頼むっ!! 命ばかりはっ!! こ、この薬を盗むときだって、妖精ちゃんたちはいっさい傷つけてないっ!! 薬だってまったく手を付けていないっ! 返すっ! 返すから……」と、薬を掲げて懇願する。俺はシロルに代わり、ため息をついて返した。


「お前がそれを返そうが返すまいが、俺の仕事はお前ら盗賊団を壊滅させて、依頼主に頼まれたとおり、村に平和をもたらすことだ。特にその平和は、いままで村人を、両手の指では足りないほど殺してきたお前の死にかかっている。つまり殺す以外の選択はない。……言いたかったことは、それを差し出しての命乞いか? なら、無駄なことだったな。……俺は死なない限り、依頼は完遂する――」


「あっ……!! うっ……!!」


 悲痛な声を漏らし、小瓶を掲げた手を下げてゆく。俺はシロルがそっぽを向いたと同時に、剣を振り上げた。だがその瞬間、盗賊頭は目を閉じるのではなく、目を見開いて――。こちらを見据えるのでもなく、どこか【別の世界を見据えるように】(そら)を見つめ、大声で叫んだ。


「……――……神よっ!! どうか次の世では、もう少しばかりマシな天運をっ!! ミラレ・クフーディアッ!!」


そしてすぐさま小瓶を開け、赤い液体を口に含む。するとおおきくその体が跳ね上がり、地面に落下すると……動かなくなった。


 俺はゆっくり、おおきく首も胴もねじって転がるかしらに近づくと、つぶやいた。


「……。死んでるな」


口から泡をはき、白目をむいて息絶えている。見慣れた悪党の無惨な最期だが……。


「……そりゃ、死ぬわよ。【生まれ変わり】の薬なんだからさ。ほんらいは~、世に尽くして生き切った立派な妖精や、不運にも幼くして消えゆく運命にある子に飲ませてあげるものなの。……あんなに跳ね上がったりしないんだけどね。【ワルモノ】だから、薬が怒ったんじゃない? 古来からの、妖精たちの、優しい願いがこもったものだからさ……」


 シロルは亡骸(なきがら)に目を落とす。それから倒れた小瓶に飛んでゆき、自身の半分ほどあるそれを起こして栓をすると、俺まで抱えて持ってきた。


「どこの里かは分かんないけど、届けたい。持ってて。もう少ししかないけど、それでも……。きっと必要としてると思うから」


「……分かった」


俺はひとことだけ返して、腰の袋にしまう。かしらの死に方を見るに、少なくともこれは人間用ではないのだろう。シロルの言葉どおり、妖精が安らかに死ぬためのもの。それに、『死者が、どうか次の世へ生まれ変われるように』……と願いを込めた、ということだろう。


 別に、意固地に疑っているわけじゃない。いかに妖精が超常的な力を持っていると言っても、生まれ変わりを確認しようがないだろう。魔術士が他者の魔力を察するように、死者がどこかで新たな生命を得たことを察知するのか? それは確かな察知なのか? ……本人が、『生まれ変わった◯◯よ! 逢いたかった!』とか言って、遺された者たちを訪ねてくるとかなら別だが。……ともかく、そんなことを根掘り葉掘り聞く趣味はない。


 俺は(かしら)の亡骸に近づくと、指輪をはめた人差し指を切断した。


「……村に戻るか。いまからでも、急げば日が落ちる前に着く。こんなところで野宿なんてしたかないしな」


 俺は辺りを眺めてから息をはき、ゴツい指を布にくるむと、さっきとは別の腰袋に入れる。シロルは俺の隣で羽ばたきながら、ぼんやりと亡骸を見ていた。


「なにか気になるのか? ……土にでも埋めておくか」


「……いい。ここなら二、三日で、ワルモノたち全部、魔獣か動物たちが持っていってくれるから。そうじゃなくて……。この人、【なにに】生まれ変わるのかなぁ~、って」


「なに、に……?」


 俺は(いぶか)った。シロルは、そんな俺を見てからこちらに飛んできて、俺の肩に座ると言った。


「ほんらいの使うべき……立派な妖精、可哀想な妖精たちは、また、妖精に生まれ変われるの。だけど人間に使った例なんて、聞いたことないからね。ワルモノだから、石にでもなるのかな……」


 少し憐れむようなまなざしを、亡骸に向ける。生まれ変われる【と思う】じゃなくて、生まれ変われる【の】。……シロルは、じっさいに生まれ変わりに会ったことがあるのか? 俺より長生きだから、俺と出会う前、俺が生まれる前にでも……。……――いや。


「……コイツは、罪のない人間を己の欲のために殺し続けた。そんなヤツの行く末を、お前が案ずる必要などない。……行くぞ」


 俺は身を返し、歩み出す。シロルは肩に乗ったまま、「へぇー……。やっさしぃんだぁ~きょうは。どうしたの? もっしかしてぇ……。ホントにアタシのこと、人間だったら結婚したいほど好きなのぉ? のぉ~?」と頬を突いてきた。俺は眉をひそめたが、なにも言わずに草を踏みしめ、うるさくするシロルを無視して、小瓶を入れたほうの袋へ手をやった。……生まれ変わりがある、ない、信じてる、信じてない、は関係ない。ただ、必要としている者へ渡すべきというだけだ。そしてこれは俺の人生には、……必要のないものだ。


 俺は足を速めた。そうして死体の山から遠ざかり、空が光をなくしてきたころ、樹々が開けて道らしき道が現れる。俺はようやく足取りが軽くなって、シロルの軽口にも、同じように軽口で返せるようになった――が。


 ……メキャメキャメキャ!!


 と、突如、右の巨木が折れて倒れ込み道をふさぐ。俺は立ちのぼる砂ぼこりに目を細めてすぐさま後退し、古皮のさやから剣を抜く。シロルは飛び上がり、上空から叫んだ。


「……ゼロ! 『アル・ヴィ・ボース』よ!!」


 その言葉が耳に届いた刹那、三本の風の刃が飛んできて俺の剣を叩き斬った。俺の頬をもかすめて血がしたたる。俺は舌打ちして横へ飛び、刃の出どころを凝視する。砂ぼこりの中から、光る目が俺を見返していた。だんだんとほこりが落ちて、その姿があらわになった。


 立ち上がった際の身の丈は、並の男ふたり分。太さはその倍。全身黒の毛むくじゃら、太い手足から生える三本爪に、赤いぎょろ目、頭に生えた耳まで裂けた口――。アル・ヴィ・ボース。王宮指定A級の魔獣だ。


「……ああ。見たままだな。だが……。コイツが起き出すのはまだ早いんじゃないか? まだ月も出ていない……」


 言い終わる前に、アルはおおきく腕を振り、再び三本、風の刃が飛んでくる。けた俺の後ろの樹々が激しい音を立てて折れ、それに気を取られた一瞬で、間を詰めてきたアルの【蹴り】が俺のガードした両手に直撃し、俺は吹っ飛んだ。


「――がっ……!!」


 折れて残った半分の樹にぶつかり、息ができなくなる。俺は必死に呼吸を取り戻そうと、そして危険から身を遠ざけようと、胸を押しながら後退、やがて「――かはっ!!」と息をはきだして、前方を見やると……。アルが【腕組みをして、ニヤけたつらでこちらを見ていた】。……なんだと?


〖【強い】……ってのは。最高だよなあ。傭兵の旦那〗


 俺は眉をひそめた。それから辺りを見まわすが、上空のシロルと、前方の魔獣アルしか目に映らない。俺は舌打ちして、鼻で笑ってから【話しかけた】。


「……近ごろは。魔獣も知恵をつけてきたのか? それとも高靴たかぐつはいて毛皮をかぶった変態か? どちらにしても会いたくないもんだな。どっちも、超絶クソな相手すぎてな……――」


 前方の魔獣――アル・ヴィ・ボースは、俺の言葉に【ニヤリと笑い】……。果たして俺が欲しくない言葉を、実に楽しそうに言ってのけた。


〖正解は、【どちらでもない】だ。……忘れるとはつれないぜ、旦那。さっき、さんざんいたぶって殺そうとした相手じゃねえか。……指だって大事に持っててくれてるんだろ?〗


「……持ちたくて持ってるんじゃねえよ、この【クソ悪党やろう】――」


 俺ははき捨てた。そして、「……シロル!」と叫び、上空で呆然とする相棒を呼び寄せる。その相棒が、ゆっくりと肩に降り立ったとき、俺は再び舌打ちして言った。


「無駄だとは思うが、一縷いちるの望みをかけて聞いておく。……アレは【アイツ】なのか?」


「ええ。……残念ながら。魂が、ほんらい在らざるべき輝きを放ってる。たぶん、終わりを迎えたアル・ヴィ・ボースが近くにいて、【ワルモノ】と魂色レヴィアが合ったんだと思う。このままだと、あの不安定な魂も、完全に肉体と融合して、……元からそうであったように存在が確定する」


「……そうか」


 俺はゆっくりと息をはき、【人のように腕組みし、こちらを待ってくれている魔獣】をいちべつし、下唇をかむ。まさかほんとうに、生まれ変わりなんてものがあって、それをお目にかかれる機会に恵まれるとはな。しかもこんな最悪の形で。どうやら悪運だけは、天下一品らしい。……嬉しくないことこの上ない。


「信じるんだ。……あんなに疑ってたのに」


じかに見たものを疑う意味がどこにある。信条どおりさ。それに知ってるんだろう? 俺の性分を。ならあの、人間の知能とクソのような人格を持った、史上最悪のろくでもない魔獣を、俺がどうするつもりかも分かってるはずだ」


「……うん。あんなの、この世にいていい存在ものじゃない。ここで止めなきゃ、多くの人や妖精が死ぬ。……ゼロ!」


 シロルが叫ぶ。俺は、折れてつかだけになった剣を、シロルの前に差し出した。シロルは蒼い光に包まれると、すぐさま詠唱した。


「偉大なる天地の精よ……我のちいさき声に応えたまえ! 武器生成……――リディクレーヤ!!」


 柄から銀光の刃が延びてゆく。俺はそれをひと振りして、光の粒を飛ばしたあと、余裕しゃくしゃく、ニヤけづらを保ったままの【元・かしら】を見据え、言い放った。


「待たせたな。……で、せっかく男前に生まれ変わったところで申し訳ないが――二度、死んでもらう。仕事だからな。……テメーが山を下りることはない」


〖いやいや……。こちらこそ、申し訳ないぜ。せっかくの50万リブラをパーにしちまってよ。……――てめえが山を下りることはないぜクソボケ傭兵!!〗


 そう叫んで、【元・頭】は土をえぐって突進してくる。俺は無言で銀の刃を両手で構え、深く腰を落とした。

こちらは不定期連載です。

定期連載(月一回。毎月末)の『俺よ、それは実現できないセイシュンだ』ともども、お楽しみいただけたら幸いです。

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