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第6話 プツリ

 B妻は4人目を無事に出産した。


 産院での生活はとても癒やされるものだった。

 スタッフはいつも笑顔で優しい言葉をかけてくれる。

 入院中に無料カウンセラーにもかかった。


 言われたのは、「不妊(避妊)手術を受けた方がいいのではないか」と、「すぐに保険センターの相談員を家に派遣するので詳しく話すように」だった。


 言葉通り、B妻が帰宅して間もなく、新生児訪問として担当の保健センター員と女性相談員の2人が家に来てくれた。

 B妻はこれまでのことをかいつまんで話したところ、A夫からも話を聞こうということで、保健センターにA夫を呼んで話を聞いてくれることになった。


 A夫は普段は、いや、B妻と子ども達以外には普通だった。

 人当たりのいい笑顔で、口調も愛想がいいものだし、声音も明るい。

 なぜ自分や子ども達にだけ酷いのか、B妻には本当にわからない。


 その後も頻繁に、B妻は保健センターに通い相談した。


 B妻は、出産入院生活の後で日常に戻ると、日常の異常さを際だって感じた。

 いつもB妻がA夫と子供たちの間にさりげなく入ることで、かろうじて今はまだどの子も大きな怪我をしていないが、このままだと骨折や後遺症が残るような状態になりそうだった。


 だから「とにかくA夫と離れたい。子供達をA夫から離したい」と希望を述べた。


 それに対して「シェルターと呼ばれる避難場所があるが、精神的に弱っているB妻が入るには厳しいかもしれない」と言われた。「B妻実家が近いのであれば実家に協力してもらったほうがいい」と。


 確かにB妻の実家は近かった。B妻と子供4人が住めるスペースもある。

 ただ、B妻は両親のことを、A夫とは別のジャンルで「話が通じない」と感じていた。


 以前、まだ1人目AB1だけの時、B妻の母に「A夫が夜中に怒鳴って困る」「離婚を考えている」と話したことがあった。

 そのとき「どういう風に怒鳴るのか」や「どうして離婚を考えているのか」という根本的な話をする前に、B妻母は「仕事をしているのだから、夜うるさくて眠れないのは困るでしょう。怒るのも仕方ないんじゃない?」「賭け事、浮気、借金、暴力をしていないのなら、多少のことは我慢すべきよ」と返したのだ。


 つまり、詳しい状況を話す間もなく()()()としての表面的な回答を返されるのだ。

 ちなみに、B妻父は()()もしくは()()()を返す。


 どこに行けるかはわからないけれども、別居を目標にB妻は行動し始めた。


 そんな中、2人目AB2が3~4歳になり一番ききわけのない時期になったことで、A夫のターゲットとなっていた。

 朝起きた瞬間から機嫌の悪いAB2を散々怒鳴りつけ、泣き叫ぶとさらに怒鳴る。

 一度は幼稚園バスを待つAB2に忘れ物を届けに来てくれたと思ったら、怒鳴って蹴って去って行った。

 (もはや家の外でもか)とB妻は怖くなった。


 B妻はアスペルガーについても勉強していき、あいまいな表現では伝わらないことを知った。

 ということは、直接的な表現を制限されて育ってきたB妻が今までやんわりと伝えてきたことは全く伝わっていなかったということになる。


 ある夜、A夫が子どもをお風呂に入れることでもめた。

 いつものことだった。

 A夫が子どもをなにかに誘う、子どもは嫌がる、するとA夫は「俺がわざわざ誘ってやってんのに」と激昂し、「もういい」と目的を果たすこと(今回なら子どもをお風呂に入れること)を放棄するのだ。「誘っても子どもが嫌がったから」を理由にして。


 子育てをしていれば、歯磨きだって、食事だって、子どもはなんでも嫌がるのが前提だと考えないとやっていられないものだとわかってくる。それを口八丁手八丁というか、それこそ大人の知恵で言いくるめたり、子どもの気分を上げたりして、子どもをうまくその気にさせるのが親なのだと、さんざん両親からのせられてきたB妻は思っていた。


 だから、つい、そのままを言ってしまった。

 

 するとA夫の目が固定され、今までならB妻が間に入ればかろうじて止まっていたのが、AB4を抱っこしたB妻を蹴ってきた。


 その場所は奇しくも、AB1がA夫から携帯電話を投げつけられ、B妻が初めてA夫に対して疑問を持った場所だった。


 A夫に蹴られた瞬間、B妻は頭の中で、糸のようななにかが切れる音を感じた。

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