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第4話 似た夫婦

 B妻がAB1と毎週通っていた子育て広場がなくなってしまった。


 さすがに2人目ともなれば特にわからないこともなかったので、残念に思いながらも仕方ないと思った。

 そんなとき、前とは違う連続子育て講座の誘いを受けて参加することになった。


 今回の子育て講座は、前回の連続子育て講座の「先生から教えを受ける」というよりも「それぞれの悩みをそれぞれで話し合うことで解決の糸口を見つける」というものだった。「司会進行役はいるけれども、解決法はそれぞれが持ち寄ってね」という感じだ。


 ちなみに前回の連続子育て講座では、10回それぞれにテーマが決まっていて、心理学にそって、多くの子育て中の親が行き当たる問題について解説してくれていた。


 今回は、毎回テーマこそ決まっているけれども、ズバリ解説がない。

 それぞれのテーマで、子育てで困っていることを各自が話し、おのおのがどういう対応をしているかを明かして、目新しい方法が見つかったらラッキー、見つからなくとも同じ悩みであれば気持ちの共有ができていいね、というものだ。


 B妻の2人目の子であるAB2と同い年の子が2人、ひとつ下が1人、妊娠中の親が1人、もっと大きな子供の親が2人いた。


 前回受けた連続講座は受講しやすいように、同じ講座が複数回あったため、毎回参加者が違っていたが、今回の講座の参加者は固定だ。自己紹介をして回を重ねるごとに、参加者について深く知るようになっていった。


 中でもB妻は、自分とよく似ていると感じた参加者がいた。

 同い年の子の親、Y妻だ。

 趣味もB妻と同じ読書で、直面している問題も夫の子供に対する言動だし、「私、前世でなんか悪いことしたかな」「今世の目標はなんなんだろう?」とややオカルトじみた考え方まで似ていた。


 講座自体は経験者である親の意見が参考になって終わったが、近い年の子の親たち4組で、さらに続けて子ども達を遊ばせながら一緒にランチを作って食べるサークルを作ることになった。

 

 子供が大きくなっていくと、それぞれの子供が特徴的なことがわかってきた。

 それぞれの夫が特徴的なことも。


 B妻と似ていると思ったY妻の夫であるX夫は、A夫よりも苛烈らしかった。

 話を聞いているだけでも、(よくY妻は耐えているな)と思う内容が目白押しだった。

 だからか、Y妻はいつもどこかこわばった表情とうつろな瞳で、ランチを作ることに没頭し、子供XY1を放置していた。


 そのXY1の勢いに、B妻の子AB2はゴーイングマイウェイなので負けないが、おとなしいOP1はいつもやられ役となる。B妻からは、P妻はXY1を注意しないY妻のことを不満に思っているように見えていた。もしかしたら毎回やられる我が子OP1をふがいなく思っていたのかも知れないが、本当のところはわからない。

 B妻としては(Y妻はなぜヤンチャな我が子を注意しないのだろう?)と不思議だった。


 サークルで集まってランチを作るのも何回目になったとき、Y妻が「友達から『旦那さんはアスペルガーっぽいね』と言われた」という話をした。


 アスペルガー、と聞いてB妻が思い浮かべたのは、ずいぶん前に見た、天才やギフテッドの番組だった。それでB妻は(一芸に秀でていて特殊能力がある人たちのことだ)と思った。

 B妻にとってはADHDもアスペルガーも、どちらかといえば天才系の人たちのことで、まったくマイナスイメージがなかった。


 B妻は(もしA夫が自身がアスペルガーだとわかれば、今までずっと言い続けていた「うるさいからうるさいと言ってなにが悪い」というセリフが(くつがえ)るんじゃないか)と思った。


 同じ場所で何人かが気持ちよく暮らしていくには、それなりのルールがいる。

 空気を読めというわけではなく、マナーとして、思ったことをすべて言っていいわけではないのだ。

 B妻からすれば(そんな小学生でも習うようなことを、なぜA夫はわからないのか)と常々思っていた。


 B妻自身が家庭でそう言い聞かせられて育ったからでもある。

 「うるさい」という言葉自体を使わないように躾けられたし、「急ぎなさい」とは言われても「早くして」と言われたことはなかった。

 幼い頃のB妻は思ったことをポロリと口にすることが多く、それを危険だとB妻両親は思ったのかもしれない。


 バカだのアホだの直接的な悪口はもちろんのこと、相手を否定するような言葉を口にすること自体を禁じられていた。

「言葉は鉄砲と同じで出したら取り返しがつかないから、相手の気持ちを考えてから発言しなさい。有言は銀、沈黙は金」と何度もなんども言い聞かされた。

 もし濃い味付けなら「ハッキリした味ですね」という具合に、決して「うっわ。カラッ」というようなズバリ発言をしないようにと、B妻は口酸っぱく言われて育てられてきたのだ。


 だから、A夫が我が子に、「扇風機は危ないから触るな」と言っておきながら「扇風機のスイッチも入れられへんのか」と理不尽になじり、「お前頭悪いんちゃうか」「頭おかしい」「ああ、わかった。お前には無理なんやな」などという否定語を、幼い子供に対して怒濤(どとう)のように浴びせる行為が、本当に理解できなかったし、聞いているだけで苦痛だった。


 「否定語を言わないで欲しい」「言い方をかえてほしい」と何度もA夫にお願いしたが、「本当のことを言ってなにが悪い」と返される。

 B妻は理由として、「子供の自己肯定感が低くなるから」「能力がないと言えばその通りに育ってしまうから」と説明しても、「素人がなにを言っているのか」と鼻で笑われる。それならばと、「脳に環境が影響することが書かれた本」や、「子供に伝わる言い方の本」などを渡しても、読んでももらえない。


 それらのことから、B妻は(A夫は「自分が普通だ」と思っているのだろう)と感じていた。

 (でも、もし、A夫がアスペルガーだとわかれば、A夫こそが特殊だと理解できるはずだ。世間一般ではそんな酷い言葉を子供に投げつけないのだ、ということを理解してもらえる)とB妻は期待した。


 そんな間に3人目を妊娠して出産した。

 この時のB妻は、(2人目を産んですぐは良い家庭になれていた。きっと3人目ができればまた雰囲気が良くなる)と信じていたのだ。


 B妻の実家は3人目を「本当に産むの? 大丈夫?」と若干否定的だったので(後から思えば心配されていたのだが)、実家に頼るのは最低限にした。

 出産入院中、B妻実家に泊まらせてもらうのは子ども達だけで、出産後もB妻は実家にお礼と挨拶だけして、子ども達を連れてすぐに自宅に戻った。


 3人目を産んだ産院では無料カウンセリングが受けられた。

 そこでA夫のことを相談し、一度詳しく精神科医が聞いてくれることになり、出産後に精神科医に詳しく話すと「アスペルガーの可能性が高い」と言われた。

 診断がおりれば診療が受けられる。

 しかしいきなりテストを受けてもらうことはできないだろうから、ちょうど1人目であるAB1が食事時になると腹痛を起こすようになっていたので、「AB1を調べるために、ついでに両親であるA夫とB妻もテストを受けてもらうという流れにしましょう」となった。

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