3話 鼓動
大勢の騎士たちがいるにも関わらず、誰も、一言も発さない。それは騎士たちの教育が行き届いていることを意味し、アカツキは素直に感心した。…そして、一瞬の後。アカツキの目の前には、先ほどまではいなかった影があった。
「……」
アカツキは目を細める。気配無く現れた己の敵を、彼はジッと観察していた。全身を黒い装束で覆ったその影は、両手に短刀を構え、静かに立っていた。先ほどまでは微かであった緊張感が、今は明確に形どって目の前にいる。互いに何も語らず、ただ対峙している。戦いの合図が無くとも、二人は既に、相手の出方を探っていた。
「…待て。まだルールを言っちゃあいないだろう」
一触即発の雰囲気。そこに待ったをかけたのは王だ。このまま二人に任せるとどちらかが死ぬまで続けかねない。王は表向き冷静に声をかけたものの、内心冷や汗をかいていた。
「どっちも失うわけにはいかないから、大雑把にだが制限はかける。殺すの禁止。致命傷もできるだけ避けてくれ…まあ、そっちは何とかなるが。あとは…まあ、どっちかが降参したらそこで終了だ。…これで、勝負は決められるか?」
一見すると試合が長引きそうな、文字通り大雑把なルール。しかし、両者は共に頷いた。そして、黒い装束の影が、一言だけ発する。
「…レイだ。女だからと遠慮はいらない。全力で来い」
そして、両手に構えていた短刀を脇に捨てると、拳を構える。それを見てアカツキは明確に口角をあげた。
「アカツキだ。…どんな奴が相手かと不安に思っていたが、その心配は杞憂だったようだ」
そして、レイと同じように、両の拳を握りしめ、構えた。
「いい判断だ。…来い‼」
アカツキの声とともに、戦いが始まった。