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序幕 終わりの先に

のんびり書いていきます。よろしくお願いします。

 暗闇に街の喧騒が溶ける。遠くのそれは、建物の壁を反射して霞のように耳朶(じだ)を打った。…意に介さず、右も左も分からないような、そんな場所を歩き続ける。


 端的に言えば、死に場所探していた。いらない物を捨て続けて、次にいらない物が自分だった…それだけの話。

 (ゆえ)に、彷徨(さまよ)う足に行き先はなく、引き()るこの身に価値はなく、ぼんやりと、思考も(ろく)にせず話す()()に意味などない。


 未練なんてあるはずがない。そういう生き方をしてこなかった。やりたい事をやらず、やれる事をやらず、やらなければいけない事をやらず、捨てて、捨てて、捨てて…。そうして一日を価値あるものに出来なかった、いや、しなかった事が、ただ歩くだけの行為すら苦にさせる。

 (なま)った身体を、それでも捨てるために当てもなく歩き続けた。


 ―――やがてそれは、唐突に訪れる。辺りを埋めつくす闇を、強烈な白が轟音と共に塗りつぶした。その明確な終わりを前に目を閉じ、すぐに訪れるであろう衝撃に身を任せた。




 (たけ)り狂う炎の中、静かに正座をし、瞑想する。

 思い返すは試練の日々。毎日が苦難の連続で、それを気力と刀一本で全て()じ伏せた。

 それから幾ばくか経った今、復讐を成し遂げ、(カラ)となったモノが此処(ここ)にいる。


 ソレ以外に生きる意味がなかった。ソレをするためだけに今まで生きてきた。だから、今この瞬間の状況を理解し、納得している。いまだ崩れ落ちない敵の本拠地で、呼吸が浅くなる中、思考はどこまでも深く、深海を漂うように溶けてゆく。


 どれだけ時が過ぎようとも、結末は変わらない。それだけは確かだった。目をゆっくり開くと、最初に映ったのは己の相棒…眩い白銀だったはずの刃が深紅に染まった、一振りの刀。光を反射することなく、どこまでも吸い込んでいくのを、ただじっと見つめる。そして、不意に手首から持ち上げると、くるりと返して刃を自身に向けた。


 死に対する恐怖などない。かつてあったソレは、目的の前に消え失せた。あるのは終着に達した、ぼんやりとした虚しさのみで、曖昧になっていく自我と、記憶と現実の境界が…何もかもが、次第に薄れていった。だから――――


 だから、最後は自分の手で。そうして、ただ機械的に刀を引いた。




 歓声が襲ってくる。老若男女問わず、誰もが祝福をした。それは、英雄の帰還。もう誰も、日々が死と隣り合わせの恐怖を感じずに生きて行ける。


 彼らの目には憧れがあった。彼らの目には喜びがあった。そして、その隣にかすかに残る怯えも、凱旋パレードの主役である『英雄』は気づいていた。もちろん、気づいたとしてもそれを顔には出さない。そのような目を向けられることに慣れることは無いだろうが、責める気にもなれない。なぜなら、それが当然の反応であるのはすでに知っているから。人形のようにはりつけた笑顔を人々に向け、機械的に手を振り続けた。


 パレードが終わると人々の歓声は少しずつ落ち着き、やがていつもの平和な城下町となる。そんな中王城では、役目を完全に終えて鎖から解き放たれた者が頭を垂れていた。『英雄』としての呪縛から逃れるべく告げた願いは叶えられ、長年付き添った一振りの剣と別れるとともにただの人となる……それが、許されるはずもなく。


『人』が強大な力を持っている必要はない。『人』が、誰よりも憧憬と畏敬を集める必要はない。そのような者が悪に染まろうものなら、再び世界は混沌に満ちる。ゆえに、事前に刈っておく。………その理屈は『人』となった彼にも理解出来るもので、ゆえにいつかその日が来るのだろうと、どこか沈んだ目で日々を送っていた。


――後日、とある場所で、『正義』の名のもとに、ただの『人』を昏き刃が襲った。




 孤独・虚無・諦観。いずれも、己の人生に未練は無かった。ただ一つの、世界の歯車として生きて、壊れた部品として外された。そして、それでよかったはずだった。



 唯一、彼らにとって誤算があったとすれば……

そのような人材をこそ、欲した世界があったことだろう。



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