6
「おおっ 上に上る階段がこれなんだよね」
「あつし様。ここで待つという選択もありますが……」
「えっ? お腹も空いてきたし……空腹で動けなくなる前に上った方がいいと思うけど?」
「私はあつし様の指示に従いますが、気をつけてくださいね。10ごとにボス部屋があります。つまり20階に上ればボス部屋に入ることになります。ボスを倒せば10時間は安全地帯になりますが……10時間経つと復活するので……冒険者を見かけてないので……」
「あ~ ボスがいるってこと?」
「はい」
「その魔法銃で倒せないのか?」
「何発も当てることが出来れば倒せるとは思いますが……広範囲攻撃をされると防具のないあつし様とアリスちゃんは……」
「ふふふっ 私なら大丈夫です。レベル11になりましたからね。今は1歩でも上へと進みましょう。そうすれば魔物も弱くなって魔法銃が壊れても何とかなると思います」
「そ そうですね。いつ壊れるのか……。いつまでもこれを頼って戦うことは出来ないのですよね。あつし様。私が必ず守るので進みましょう」
「え~っと 無理しないようにね」
「ふふふっ ご主人様。きっと上手くいきますよ」
微笑みながら俺と手を繋いでくれたアリスの手は……震えていた。
「ああ。行こう」
「分かりました」
「ふふふっ」
俺達は20階へと上っていった。
(ん? 声? うめき声と人の?)
「あつし様。ボスと戦っている人がいるようですね。扉を開けますよ」
(おおっ 冒険者がいるのか。それなら食料を分けてもらえるかも? 戦いが終わるのを待っていてもいいのかも?)
「あつし様。苦戦しているようです。ボス部屋はボスを倒すまで出ることが出来ないので入れば逃げれませんがどうしますか?」
「えっ それじゃあ。ボスを倒すまで待とうか?」
「……たぶんですが……負ける可能性の方が高そうですね」
中を覗くと10歳前後の子供達が6人で巨大な熊のような魔物と戦っていた。
(う~ん 見捨てるのは……)
「ねぇ 見てるんだよね? 助けて~~ 」
扉が少し開いていることに気づいた女の子が叫んだ。
「私はあつし様の指示に従います」
「はぁ~ よし 行こう。アリスはここで待機。ノルン頼んだぞ」
「任せてください。あつし様は無理しないようにしてくださいね」
「ふふふっ 私は回復魔法が使えるといいましたよね。援護します」
アリスは笑いながら俺の背中を押して一緒に部屋の中へ。
「はぁ~ ノルン任せたよ」
俺はそう言って倒れている女の子の方へと走って移動した。
「私が相手です。水魔法【氷弾】」
ノルンが放った魔法は魔物に直撃し、魔物は唸り声を上げながらノルンに視線を移した。
俺は女の子を抱き抱え、アイテムボックスを選択した。そして現れたバスの中へと移動した。
「もう 大丈夫だ。怪我してるのか?」
「う うん。ありがとう。お兄ちゃん」
「ご主人様。回復なら私に任せてください」
「ああ 頼む」
「ふふふっ」
アリスが女の子の傷に手をかざすと青い光が傷口を包んで……傷が消えた?
「へぇ~ 凄いな」
「ふふふっ もう使えないので注意してくださいね」
「あ~ 魔力切れか」
「はい。レベルアップした分の魔力は寝ないと回復しないので、明日からは何度か使えると思いますよ」
「へぇ~ って。どうして?」
バスの中に子供達が乗り込んできた。そして ノルンも。
《 ドガーンっ 》
「あつし様の作戦通りにこの中から攻撃します。魔法の使える人はどんどん攻撃してください」
「「「 はい 」」」
(えっ? 俺の?)
「ふぅ~ あつし様 助かりました。私もこの中から攻撃しますね」
「えっ う うん」
《 ドガーンっ 》
(え~っと 持つのか? かなり変形しているんだけど……)
「水魔法【氷弾】」
「水の精霊よ。私に力を貸して。水魔法【水弾】」
「水の精霊、僕に力を。水魔法【氷柱】」
《 ドガーンっ 》
(持ってくれよ~)
「ふふふっ 大丈夫ですよ。必ず勝利出来ますよ」
「ああ。そうだね」
「いいかげんに死になさい。水魔法【氷弾】」
(おおっ 経験値。ってことは倒せたってことか)
「ふふふっ ご主人様の勝利ですね」
「えっ 俺は何もしてないよ」
「あつし様。やりましたね」
「えっ う うん」
6人の子供達が俺にお礼を言ってきた。そしてボスを倒すと出る宝箱を貰って欲しいと。
「え~っと 俺はいらないから……代わりに食べ物を少し分けてくれないかな?」
キョトンとする子供達。
子供達はボスの解体を始めた。そして、その肉を火魔法で焼き始めた。
「へぇ~ あの魔物は食べることが出来るのか」
「ふふふっ ご主人様。この世界の食料は全て魔物ですよ。もちろん硬くて食べれない魔物もいますけどね」
「えっ そ そうなんだ。まあ~俺もオークなら食べたことあるけどね」
宝箱の中からは剣が出ていた。貰って欲しいと言われたけど、もちろん断ったよ。ボスの肉は……美味しくなったけど……まあお腹いっぱいにはなれたよ。余った肉も貰えたからダンジョンを出るまで飢えることは無さそうだね。それにボスを解体して手に入れた素材は持てないから俺に全てくれた。観光バスなので荷物入れがあるから大きな物でも邪魔にならないからね。
「お兄ちゃん。これ」
「袋? あっ 水もくれるのか。ありがとう」
「なくなったら水魔法の使える冒険者にお願いしてね」
「うん。ありがとうな。助かったよ。これから君達は下りていくのか?」
「うんん。これからダンジョンを出るつもりだけど……一緒に出てくれない?」
(おおっ それは助かる)
「え~っと。俺達は装備もないから弱いけど……いいかな?」
「弱い? こんな凄い魔法が使えるのに?」
「ふふふっ ご主人様は強いですけど、まだ戦闘経験が少ないから守ってくださいね」
「えっ うん。絶対に守るよ」
(ははは よかった。これで安心だね)
「え~っと よろしくな。でも……君達は無理しすぎなんじゃないのか?」
「ご主人様」
アリスが首を横に振った。そして俺の手を引っ張って誰もいない後ろの席へと。
「この子供達は孤児ですよ。街アノルルで孤児が暮らすためには大変なのです」
「えっ そうなんだ。悪いこと言ってしまったようだね」
「他の街に行くことが出来たらいいのですが……。ご主人様のこの能力なら……」
「えっ 他の街は違うのか?」
「はい。辿りつければの話しですけどね」
「無理ってことか……」
「魔物が出ますからね。ダンジョンと違っていきなり強い魔物が襲ってくることもあるので……厳しいですね」
「そうか……謝ってくるよ」
「ふふふっ 気にしてないみたいなので、蒸し返す必要はないですよ。次からはお願いしますね」
「ああ。ありがとう。俺は知らないことばかりだから、これからも頼むな」
「ふふふっ はい ご主人様」
バスはどんどんボロボロになっていくが、安全地帯の少ないダンジョンで安全に休むことが出来るので、俺達は順調にダンジョンを上っていった。