最終話
「くっ。あれは……逃げてください。英雄あつし様。スズ様とカナ様を連れて逃げてください。あれは邪赤犬の群れです。私の匂いを追って来たのでしょう。アダムが禁忌の術を使って生み出した1匹でも恐ろしく強い魔物です。私を殺すまで追うのを止めません。私が死ねば……目的を失い、他の魔物と同じように視界に入った人を襲うようになるので、全ての国で禁忌に指定されている術です」
「へぇ~ そうなんだ。じゃあ~街に戻るのは危険かな? 俺達は……このまま西のダンジョンに向うから子供達は街に真っ直ぐに戻るように。いいな」
「え~。嫌だよ~」
「うん。嫌っ。一緒がいい」
「連れっててよ~。お兄ちゃん」
「カオリお姉ちゃんの料理が食べられないと僕は生きていけないよ」
「ふふふっ ご主人様 急がないと危険ですよ」
「ふふっ 乗り込んでしまえば、あつし様は追い出すようなことはしないよ」
「あ~ そうだね」
「えへっ お兄ちゃん 一緒だよ~」
「えっ えっ えっ 誰も止めないの?」
俺は困惑しながら運転席へ。まあ~一番困惑しているのはイリスのようだけどね。
「ふふふっ では 射撃開始~」
右側の窓が全て開けられ、一斉に魔法が放たれた。バスに詰んでいた魔法銃でアリス達だけでなく子供達も次々に魔法を放っていく。邪赤犬は強いと聞いていたのだが……何もすることが出来ずに倒れていく。まあ~バスの方が速いので、一方的に攻撃出来るからなんだけどね~。
「どうして……魔法銃がこんなに……」
「ふふふっ イリスさんも、スズちゃん様も、カナちゃん様も1つどうですか? 魔物の位置が後ろになったので私と一緒に左の窓からどうですか?」
「えっ う うん。これで仲間達の仇を……」
「私達でもこれがあれば倒せるのね。イリス様。やりましょう」
「は はい……」
「ふふふっ 行きますよ~ 水魔法【氷弾】~」
俺はバスのスピードを落とし、追いつかれないギリギリのスピードに。
邪赤犬の群れが……1匹もいなくなったので速度を上げてダンジョンへとバスを走らせた。
俺達はダンジョン1階の魔法陣から51階へ転移し、バスを走らせることにした。
「あつしさんの能力もチートだけど、カオリ先生もチートだよね~」
「うん。宝箱の位置も階段の位置も全部分かるなんて反則だよ」
「こんなに凄い英雄達をハズレだと決めつけるなんて……。部下に任せた私の失態ですね。2人がいれば……状況は大きく変わっていたのかも……」
「ふふふっ ご主人様は凄いですが、そのおかげで私は出会うことが出来ましたよ」
「ふふっ あつし様と一緒なら確実に300階に辿り着けます。イリスさんはあつし様の世界に行く覚悟がありますか?」
「えっ 私も……異世界に?」
「ふふふっ すぐにご主人様に惚れて自分から望んでお願いすると思います」
「えっ えっ アリス?」
「ふふふ そうですね。私もあつしさんにすぐに惚れてしまいましたからね。スズちゃんとカナちゃんが惚れないか、心配ですけど。ふふふ」
「うわ~ カオリ先生も惚れたんだ~。異世界定番のハーレムを連れた勇者に私も憧れてたんだよね~。カナちゃんはどう?」
「ふふふふっ 日本に帰れるならサービスしてもいいよ。運転手さん楽しみにしててね~」
「「「 ふふふっ 」」」
「えっ えっ えっ」
危険なダンジョンの下層に進んでいるというのに緊張感のない車内。
笑顔で隣の人と笑い合い、みんなで一緒に歌を歌う。
まるでバス旅行を楽しんでいるような雰囲気だ。
あっさりと100階のボスを倒し、休憩場所に。
バスは楽しい雰囲気のまま快適な旅を続ける。
たとえ沢山の魔物が襲い掛かって来ようとも、左右の窓から赤・青・緑・茶の4色の光が放たれ殲滅していく。
車内の楽しい楽しい雰囲気を壊すことなど出来ない。
たとえ魔法の効かない魔物が向って来ようとも、アクセル全開で突破する。
手に入れるのは不可能に近いと言われた200階の【神銀宝石】は旅の思い出としておみあげに。
宝箱に入っていた金銀財宝で将来の夢が広がっていく。
笑顔。笑顔。笑顔。笑顔。笑顔。
誰もが笑顔。
楽しい楽しい楽しいバス旅行。
300階に向ってバスを走らせていく。
「ふふふっ 問題は1つだけですね」
「問題? アリス? 何かあるのか?」
「ふふっ そうですね。あつし様の世界の嫁は1人だけなのでしょ」
「えっ? 嫁?」
「負けません。あつしさんの正室の座は譲りませんよ」
「えっ? えっ? えっ?」
「ふふふっ いきますよ~~~ ジャンケン ポ~ン」
「えっ? えっ? えっ?」
【おしまい】