表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷い込んで異世界 TS少女の冒険譚  作者: 蒼姫
第1章 冒険都市フォドラ
6/37

いざ、ギルドへ


冒険都市の領主、アレクシス・フォドラに保護された翌日。

宛がわれた広大過ぎる屋敷の一室では、早速照のための特別授業が行われようとしていた。


「それでは、お嬢様。始めましょうか。」


「お願いします!!」


教師を務めるのはアレクシスの侍女の1人、フギン。

侍女勢の中で一番年下の少女であり、本人の教導練習も兼ねて照の家庭教師を担当することになったらしい。ちなみに、彼女はヒト族ではなく、鳥人族という種族なので飛ぶことが得意だったりする。


「やる気満々でなりよりです♪」


そう言って、フギンから手渡されたのは黒い石の板と白いチョークのようなモノ。

黒い石の板は木の枠で補強されており、照の世界でも使われていた黒板のミニチュア版のようなモノだ。サイズ的には、元の世界でいうA5サイズぐらいだろう。


そして、そこにはいくつかの文字が書かれていた。

当然、照がよく知っている平仮名や片仮名、漢字とはまったく別の文字である。


「今書いてあるのは、此処神国を構成する都市の名称です。一番上からフォドラ、ヴェーレス、ヌウェレ、ミミル、ヘルカとなっています。」


(えっと……これでフォドラ、ヴェーレス、ヌウェレ、ミミルにヘルカ。法則自体はローマ字に近いのか?)


「此処では、この2種類の文字を組み合わせて使っていきます。これが使われる文字の一覧になっています。」


(この感じだと、法則自体はローマ字でいくつかのアルファベットを追加したのがこの世界の文字か。これなら覚えやすそうだ。)


「あっ、この際だから神国を構成する各都市についても教えておきますね。」


そう言って、フギンが取り出したのはプロキシマ神国の全域地図。

プロキシマ神国はパノティア大陸の南部を勢力圏にしており、北側には敵対関係にあるアルフェッカ聖国、グロアス魔国と山脈を境界線にして接している。


そして、プロキシマ神国の内部には5つの都市が存在する。


領土内に4つのダンジョンを抱え、ギルド本部が存在する冒険都市フォドラ。

商人の往来が盛んで、神国の商人が所属する協会が存在する商業都市ヴェーレス。

神国に消費される食糧の大半を生産する農業都市ヌウェレ。

数多くの研究機関が存在し、日夜神国発展のために研究を行っている学術都市ミミル。

神国最北端に位置し、神国防衛の要を担う最前線こと防衛都市ヘルカ。


この5つの都市によって、プロキシマ神国は運営されている。


「但し、アレクシス様の奴隷であるお嬢様は現在フォドラの領土外に出ることは許されません。そして、市民権を持ってないと移動も制限されます。」


「それじゃあ、ギルドの依頼とかで他の都市にいかないといけない場合は?」


「その場合は許可されます。原則として領土外に出れないだけで、やむを得ない事情がある場合は大丈夫です。」


(市民権を手に入れる重要性が増したな。まさか、そんな大事なモノだと思わなかったぞ)


「こんな所でしょうか。次は余白に都市の名前を書き写してください。」


フギンに言われた通り、余白に文字を書き写していく。

この世界で使われている文字は照がよく知るアルファベットに似ているモノもあれば、そうでないモノも存在する。アルファベットに似ている文字はその使い方も同じなので、彼女にとっては非常に有難かった。


「フギンさん、書き写しました。」


「じゃあ、次は此処に書いてある文字を全部書き写してください。」


そう言って、渡されたのは31の文字が書かれた石板。

フギンが言うには、今書かれている31の文字がこの世界で使われる文字の全部らしい。

それを言われるがままに書き写して、提出すると彼女はとんでもないことを言い出した。


「後は実戦を踏まえて、じっくり学んでいきましょう。」


「い、いきなり!? 早すぎませんか!?」


「ふふふ♪ 大丈夫ですよ、最初の間は私も同行しますので。何かあればサポートします。」


「それなら安心……なのかな?」


「ええ。大船に乗ったつもりで頼ってください。

 ですが、ずっと頼ったままなのは、絶対にダメですよ?」


「はい、分かりました。」


「さて、ちょうど良い時間になりましたね。そろそろ、アレクシス様が……」


フギンがそう呟いた直後、照の個室の扉がノックされた。

入ってきたのはこの屋敷の主でもあり、恩人でもあるアレクシス・フォドラだった。


「すまない、少し遅れたか?」


「いいえ、ちょうど良いタイミングでしたよ。」


「それなら良かった。君に渡しておかなくてはならないものがあってね。」


そう言って、アレクシスは照に一枚のカードを差し出した。

身分証明書のように照の顔写真がカラーで付いており、主としてアレクシスの名前が記載されている。しかし、一方で照の名前が入るであろう欄には何も記載されていない。


「ギルドカードだ。これがないと、ギルドで依頼を受けることができない。」


「ありがとうございます。でも、これワタシの名前が書いていないような……」


「その通りだ。名前をどうするのか、確認を取っていなかったからな。」


「どうするって……あっ。」


照は現在の自分がどのような状況に置かれているのか思い出した。


性別は変わり、肉体年齢も幼くなり、挙句の果てに種族すらも変わり果てている。

もはや“天草 照”という人間の面影は残っておらず、そこに居るのはまったく別の人物だ。故に、アレクシスはこの世界で活動するに当たって、名前をどうするのかこのタイミングで問いに来たのだ。


「名前を変えないという選択肢はあるが、いちいち自分の身の上話をしなければならない。私としては別の名前を名乗っておくのが無難だと思うが、どうする?」


「……別の名前を名乗ります。“天草 照”は元の体に戻った時に名乗ることにします。」


「分かった。それでは、その身体での名前はどうする?」


(うーん……やっぱり、元の名前と何か関係がある名前にしたいけど、確か俺の名前って天照大神が由来だっけ? それじゃあ、それを弄って――――)


「――――アテラス。そう名乗ろうと思います。」


「承知した。では、そのようにしておこう。」


アレクシスは手に持った書類に何か書き込む。

すると、空欄だった場所にこの世界の言葉で「アテラス」という名前が刻まれた。


「それともう1つ。勝手で悪いが、君の体に封印を掛けさせてもらった。」


「封印?」


「ああ。いきなり大きすぎる力を持つことは危険だからな。今までと同じ感覚で生活できる程度に枷を掛けておいた。」


「何から何までありがとうございます!!」


「ふっ、気にするな。それでは、私は失礼する。」


そう言い残して、アレクシスは部屋から立ち去ってしまった。


「何というか……本当に色々してもらってるなぁ。」


「アレクシス様は“せめて目の届く範囲の困ってる人ぐらいは手助けする”というのを信条にしてますからね。だからこそ、女神様から推薦を受け、領主になることができたのでしょう。」


「……ん? 領主って親から子に引き継がれるモノじゃないんですか?」


「違います。このプロキシマ神国では女神が領主を選ぶんです。」


プロキシマ神国で信仰される調和を司る女神、シンモラ。

現領主が一定の年齢以上になったり、病気になったりして政を行うのが難しくなった際、神国の住民から次の領主に相応しい人物を選定する役目を担っている神様である。

彼女は生きとし生ける物の過去や心を見通す不思議な瞳を持っており、その力を使って選定を行い、彼女が相応しいと考えた人物が次の領主に就任するシステムになっているらしい。


「それ、相応しい人が居ない時はどうするんですか?」


「ずっと空位になるそうですよ? 伝承では空位の間、臨時的に女神様本人が領主を務めた時期があるとの記述も残っているみたいですが。」


(何というか……普通に政治に女神が絡んでくる辺りが異世界だな)


「さて、それではお嬢様――――改め、アテラス様。

 早速実践も兼ねて、ギルドに参りましょうか。ついでに、役に立つ施設も案内します。」


「お願いします、フギンさん。」


「任されました♪」





◆    ◆    ◆    ◆





「行ったか……」


執務室の窓からフギンと照改めアテラスが出ていくのをアレクシスは眺めていた。

その傍らには相変わらず大量の書類が山を築いている。昨日よりも書類の数が減ったとは言え、まだまだ処理しなくてはいけないことは山積みだ。


「それでユルン。間違いないか?」


「はい。先日捕らえた商人を尋問しましたが、かの“征服姫”の名前が出てきました。」


「“征服姫”ティアマト・ヘブグラスか……大物だな。」


アレクシスは険しい表情を浮かべた。


グロアス魔国でその名を知らぬ者は居ないという『征服姫』の武勇は隣国であるプロキシマ神国まで届いている。

本来なら手懐けることができない動植物の変異体――魔物(モンスター)の軍勢を操り、たった1人で聖国の都市をいくつも滅ぼしたという逸話を持つ人物である。

そんな存在の関係者が誰に気付かれることもなく、フォドラ内部に侵入していたという事実は領主に警戒心を抱かせるには十分だった。


「ゲスクード元侯爵の屋敷を燃やしたのも、かの姫と考えるのが妥当か。」


「そうですね。私たちが突入してから、あそこまで徹底的に情報を抹消するには圧倒的に時間が足りません。」


「そうなると、ゲスクード元侯爵は魔国の内通者ということになるな。」


「そして、魔国の益になる何かを研究していた。照さん……アテラスさんに投与された薬も関係しているのは間違いないでしょう。」


「私は捕らえた人間に投与して、戦力を増強するのが目的かと思ったが、それだと腑に落ちないことがある。」


「アテラスさんをオークションに出品したこと、ですね?」


ユルンの言葉にアレクシスは頷いて同意する。

単に戦力増強を目的としているなら、アテラスをオークションに出品する筈がない。

故に、アレクシスはゲスクードとグロアス魔国の目的を掴み切れなかった。


「得られる情報がない現状、これ以上考えるのは徒労か……」


「そうですね。一応、他の領主様にも手紙を出しておきましょうか?」


「ああ。すぐに手紙を書くから待っていてくれるか?」


「畏まりました。ところで、アレクシス様。

 どうして、アテラスさんは女口調のままなのですか?」


「奴隷契約の条文を変えようとしたら、侍女たちに猛反発を受けた。」


「あ~なるほど。」


「ボイコットを盾に迫ってこられたからな。断れなかった。」


そう言って、手紙を(したた)めながらため息を溢すアレクシス。

この広大な宮殿の管理には多くの人手が必要になるので、侍女たちが仕事をボイコットすると大変困ったことになるので認めざるを得なかったのだ。


「ユルン、君が言えば侍女たちも納得してくれるんじゃないか?」


「あの姿で男口調で話されるのは勘弁願いたいので全力で拒否させていただきます♪」


「はぁ……」


少々自由な侍女陣営にアレクシスは再度、ため息を溢すのだった。


主人公の名前の由来ですが、アマテラスから「マ」の一文字を取っただけです。

この名前を考えるのに丸一日掛かりました(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ