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迷い込んで異世界 TS少女の冒険譚  作者: 蒼姫
第2章 商業都市ヴェーレス
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レジエル魔導図書館・その①



【レジエル魔導図書館】

複数のダンジョンを有するプロキシマ神国の中でも類を見ない図書館型のダンジョンであり、数多の神々がまだ人々と共に暮らしていた時代の記録が遺されていると言われる場所である。

一説には神々は【失伝魔法ロスト・ミュステリオン】の存在を秘匿するために建設されたともいわれている。そのためか、最下層には神国に4人しか居ない最高位冒険者でも苦戦するようなモンスターがガーディアンとして置かれている。


そんな知識を求める者の聖地に舞い降りたのは3人の少女。

アテラス、クリスタ、パラケルススの急造のパーティである。


「ふむ、相変わらず薄暗いな。よく見えん。」


「一番辛いのが敵の姿が分かりにくいことだよねぇ」


【レジエル魔導図書館】の下層は非常に薄暗い。

随処に設置された弱弱しい光を放つランプが唯一の光源で、辛うじて相手の顔が見えるくらい。

それも至近距離に居ないと見えないので、少しでも離れてしまうと視認するこが難しくなってしまう。


「パラケ、灯出せる?」


「もちろんだとも。ただ、明るくするとモンスターが寄ってくるから、それほど強い灯は出せないが。」


そう言って、パラケルススはショルダーバックをガサゴソと漁り、道具を取り出す。

引っ張り出した試験管を放り投げると、中に入っていた球体が解き放たれ、3人の周囲をクルクルと旋回する。そして、それはほんのりと光を放ち、薄暗い空間に光をもたらす。


「これで近づいてきた敵ぐらいは視認できるだろう。」


「そこまで近づいて来てくれない場合は?」


「気合で何とかしろ。」


「いい加減だなぁ……ん? アテラスちゃん、どうかしたの?」


アテラスは何処か明後日の方向をジッと見つめていた。

その視線の先には真っ暗な空間が広がっているだけで、特に何かあるように見えない。

しかし、竜人族の五感が何かを察知したらしく、次の瞬間にはアテラスは闇の中へ姿を消した。


「ちょっ!? アテラスちゃん!?」


「ほう?」


闇の中へ消えていたアテラスを慌てて追いかけるクリスタとパラケルスス。

2人が移動すると浮遊する球体も一緒に付いて行き、闇に染まっていた空間を照らす。

そこにはアテラス以外の存在も横たわっていた。


「あれって……」


「イビルソーサラー。それほど強い魔物(モンスター)ではないが、闇に紛れて魔法を撃ってくる厄介な奴だな。」


アテラスの足元に転がっていたのは、1mにも満たない体躯のモンスター。

その心臓にはこぶし大の穴が開けられて、青い血がドクドクと流れ続けている。

そして、アテラスの竜化した腕には同じ血が付着していた。


「ふむ、これはお主がやったのか?」


「ええ。魔法を使おうとしているのが分かったから、仕留めたわ。不味かった?」


「いや。むしろ、ナイスな判断だ。しかし……」


そう言って、パラケルススはアテラスの瞳をジッと見つめる。

その口元は綻んでおり、子供がおもちゃを見つけたような表情だ。


「中々面白い目をしているな。魔法を察知することができるのか。」


「それに、真っ暗で何も見えないのに」


「ワタシもはっきりと見ている訳ではありませんよ? ワタシの場合は暗闇の中にある魔力の流れで敵の位置を把握しているだけですわ。」


「えっ、初耳なんだけど!?」


「まあ、お姉さまにも伝えていない能力ですから。何せ、この能力に気づいたのも最近ですし」


ヴェーレスでの騒動の後、アテラスの身体にはいろんな変化が訪れていた。

ベールの隠すことができないほどに肥大化した両角、自由自在に竜化することができるようになった四肢。今回披露した魔力の流れを見極める眼もその変化の一端である。

もっとも、彼女自身がその不思議な力を持った眼の存在に気づいたのはつい最近。具体的には、学術都市ミミルに出立する直前のことである。まだ、どういう力があるのか分からなかったので義姉クレスには報告していなかったのだ。


「ふむ……ドラゴンの中には不思議な眼、俗に“魔眼”と呼ばれる眼を持っておる。お主の眼もソレだな。あまり珍しくない魔眼だが、このダンジョンには最適な力だ。」


「ちなみに、アテラスちゃんにはどういう風に見えてるの?」


「えっと……暗く見えるのは2人と同じです。しかし、ワタシの場合はモノの輪郭がそれなりに見ている形ですわね。それに付随して、魔力の流れが青い筋となって見えていますわ。」


「でも、この場は君に活躍してもらおう。伝承で語られる竜人族の力、存分に見せてくれたまえ。」


「いや、ワタシにはそこまで伝承のような力は……まあ、良いですわ。」


一瞬、自分は人為的に生み出された竜人族であることを告げようかと思ったが、思いとどまる。

伝説の竜人族であることは公開しているが、人為的に生み出されたことを知る者は一握り。

クレスからも竜人族であることは暴露しても人工物であることは明かさないように厳命されているのだ。


「ふふ、期待しているよ。まあ、危険があればサポートするから安心したまえ。」


「私も微力ながらお手伝いするよ。」


そう言って、パラケルススは長大な杖を、クリスタは巨槌をそれぞれ取り出す。


「では、出発しましょう。」


刹那、アテラスの身体が光に包まれると、着ていた衣服が変貌する。

クレスによって着させられたドレスは燃え盛る焔を思わせる鎧へと変わり、胸元にはめ込まれた翠玉のコアが淡い光を受けて輝く。同時に、アテラスの中のドラゴンの力が高まる。


壊れても元に戻り、さらにドラゴンの力を高めてくれる鎧。

製作者であるパラケルスス、クリスタの両名より、【メギンギョルン】という与えられた逸品だ。


「パラケルススさん、上級魔法書があるのはもっと奥でしょうか?」


「そればかりは運次第だ。下層でも浅い階層で見つかる時もあれば、最下層付近まで行かないと見つからない時もある。」


「つまり、各階層隈なく捜索した方が良いということですわね。」


「うむ。」


「でも、動き回るほど敵の遭遇確率は上がるから難しい所だよねぇ。」


「そうですわ、ね!!」


いきなりアテラスが口から炎を吐き出した。

その射線上に居た物体――本型のモンスターに見事ヒットして、そのまま燃やされてしまった。


「本型モンスターのグリモアだな。1体倒れると、わらわら出てくる面倒なモンスターだ。」


「それ、倒したらダメな奴なんじゃあ……」


「ところが、放置しておくと強力な魔法をバンバン撃ってくる。無視していると、逆に痛い目を見る。」


「そんなことを言っていると、集まってきましたわね。」


暗闇の中、聞こえてくる無数の羽音。

羽虫のような高い音ではなく、バサッバサッと低い音が確実に近づいてくる。

クリスタとパラケルススにはその姿は見えないが、アテラスの眼にはハッキリとその姿が映っていた。


「パラケルススさん、此処は自由に魔法を使っても大丈夫なのですか?」


「ああ。此処の本棚や本には保護魔法が掛かっている。安心して使って大丈夫だ。」


「それじゃあ、遠慮なく。」


アテラスは深く呼吸して、スイッチを入れる。


起動するのは一部のドラゴンや竜人族に備わった機関――【竜ノ心臓ドラゴニア・カルディア】。

この炉心に火を入れることで解禁されるのは同じ使い手が2人と居ない魔法、いわゆる固有魔法だ。

アテラスが使える固有魔法はかの【深淵の暴竜】バハムートと同じく【圧縮】の魔法。それを自身が習得している魔法と組み合わせて使うことで、彼女は広域殲滅を可能とする。


「輝け、赤星。【焔帝】!!」


アテラスの手より放たれた小さな球体。

真っすぐ撃ちだされたソレは本型モンスター、グリモアの群れの中央に到着すると同時にその体積を急速に肥大化させていく。初めて使った時は【覇竜ノ吐息(フレア・ノヴァ)】と名付けていた魔法は【焔帝】へと名前を変え、グリモアの群れを呑み込む。


広大な地下空間に生み出された小さな太陽が収束する頃には、グリモアの群れは影も形も無くなっていた。


「うわ~、改めてみるとスゴイ魔法。」


「初級魔法でこれだけ広範囲を薙ぎ払うのは不可能な筈。これも竜人族の力という訳か。」


「ええ。どういう力なのかはご想像にお任せしますわ。」


「ふむ、本当に興味深い。久しぶりに外に出た甲斐もある訳だ。」


暢気な様子のパラケルスス。

しかし、その背後からは暗闇に紛れてイビルソーサラーによく似たモンスターがその牙を突き立てようとしていた。アテラスの死角になっているので、その存在に気付くのが一歩遅れてしまう。


「ギギッ♪」「ギギギギッ♪」


モンスターが真っ赤な口を開けて、襲い掛かる。

だが、トンッと硬いモノで地面を叩く音がすると同時にモンスターは地面に叩きつけられた。


「「ギッ!?」」


「バカな奴らだ。この私が気づかないとでも思ったのか?」


パラケルススが振り向き、地面に縫い付けられて動けないモンスターたちに蔑む視線を向ける。

奇襲に成功したと勘違いした哀れなモンスターの動きを封じているのは鋼の甲冑に覆われた巨大な腕。それは彼女の傍らに開いた謎の穴から現れており、その全容は一切分からない。


「滅びるがいい。」


トンッとパラケルススの杖が地面を叩く。

それを合図にモンスターを抑えつける腕から雷撃が放たれ、敵を消し炭へと変える。

役目を終えると鋼の腕は穴の中へと戻っていき、遺されたのはモンスターの魔石だけ。


「えっ? 今の、何?」


「パラケが得意とする魔法、召喚魔法の一種だよ。アテラスちゃん、召喚魔法は見た事ない?」


クリスタの質問にアテラスはコクコクと頷いた。


「召喚魔法は契約を交わした存在を一瞬で呼び出す魔法なの。普通は全身を呼び出すんだけど……」


「私のような術師になれば、召喚体の一部だけを呼び出すことなど容易い。」


(下層への到達歴があったり、召喚魔法を使いこなしたり……本当に何者なんだ?)


自己紹介の時にはしがない錬金術師と名乗っていたが、謎は多い。

【レジエル魔導図書館】はミミルの学院の生徒が立ち入れるため、それほど難易度が高くないと思われるが、そうではない。確かに上層はそれほど強力なモンスターが出現しないが、中層に一歩足を踏み入れると状況は一変してしまう。


中層以下の魔物(モンスター)は高位の冒険者でも苦戦するようなモノがちらほら現れ、上層で調子に乗った冒険者を容赦なく殺しにかかってくる。そのため、【レジエル魔導図書館】は冒険者の死亡率が高いのだ。


(当然、この下層は中層よりも強力なモンスターが出てくる。さっき倒したイビルソーサラーが使おうとしていた魔法もかなり強力な魔法みたいだし)


アテラスの頭の中でいろいろな予想が浮かび上がるが、どれも確証はない。妄想レベルの予想だ。


(……まあ、良いか。初めて挑む領域なんだから、詳しい人が居るに越したことはない。)


パラケルススの素性の事を頭の隅に追いやり、アテラスは魔眼で周囲を見渡す。

先ほどの広域殲滅魔法に惹かれたのかあちらこちらから魔物(モンスター)が集まってきているのが見える。輪郭からイビルソーサラーやグリモアが紛れ込んでいるのは分かるが、それ以上判別することはできない。


「ふむ、中々熱烈な歓迎だな。どれ、初めての下層だから手を貸してやろう。」


「あんまり役に立たないだろうけど、足手纏いにはならないようにするわ。」


「ええ。お願いしますわ。」


アテラスは両腕を再度竜化させて、大きな両翼を目一杯広げて、戦闘準備は万端。

クリスタも見た目に似合わない巨槌を肩に担ぎ、パラケルススも先ほどのように鋼に包まれた巨大な腕を顕現させる。


そして、【レジエル魔導図書館】に突入して早々、大規模な戦闘が始まるのだった。

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